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第三章 天空のカルラ
新しい翼
しおりを挟む『よく来たの』
「はい! おじゃましてます!」
戻ってきたカルラに昨日までと変わった感じはない。むしろ機嫌が良さそうだ。
『あやつら、我の巣に入り込むとは新参者じゃな。痛い思いをしたから、もう来んじゃろ』
どうやら前の二匹も消えたのではなく、カルラがつまんで巣から離れた場所に捨てて来たらしい。
上空からポイ捨てしたようだ。
知り合う前に迷い込まなくて良かった。
『どこに行ってたんだよ、カルラ。心配、したんだぞ!?』
『ふはは。見よ! この翼を!』
カルラはバサリと翼を広げ、うっとりとながめる。
『昔のチカラが甦ったようじゃ。力強く、どこまでも飛んでゆける。思わず遠出をしてしまったわい』
事故とは言え、黄金の実を食べたカルラはすっかり若返っている。人間と違って魔素で生きている魔獣は、黄金の実に含まれる魔素を効果的に吸収できるみたい。
「今までずっと!?」
『うむ。久しぶりに心ゆくまで飛んだわ。満足じゃ』
楽しい旅行から帰ってきたばかりみたいに、うれしそうに思い出し笑いしてる。
もう!
もしかしたら、アティーシャ様のクガネの木を折った件で落ち込んでるんじゃないかって心配してたのに。
こういうのを杞憂って言うんだろうな。
『ずっと、遠くまで、飛んだ?』
『左様。西へ東へ、南へ北へ。体がすっかりなまってたのでな。まずは軽い散歩を、それから速度を上げてどこまで飛べるか試してみたり』
『スゲー!』
「それじゃ、お腹すいたでしょ?」
幸い、お弁当箱は無事だったので中からおにぎりを取り出して渡す。
『ほう、うまそうじゃ!』
カルラは大喜びで野沢菜のおにぎりを受け取り、パクリと飲み込む。
鳥は歯がないから、モグモグ噛まずに飲み込むんだよね。
『カルラ、体、大きい。いっぱい、食べな』
『すまんの』
ラルがお弁当箱ごと差し出すと、カルラは次々と平らげてゆく。だいぶお腹が空いてるみたい。その横からラルも手を出して卵焼きをつまんでる。
大きな鷲と小さな子猫が仲良く食事してる姿はやっぱり可愛い。
あー、スマホがあったら写真や動画をたくさん撮るのに!
『極楽、極楽』
食事を終え、満足そうに寝そべるカルラ。
「ねえ、カルラ」
私は最初の目的を思い出して話しかける。
交渉クエスト……私の冒険者としての初仕事だ。
「カルラはシヴァール国に帰りたい?」
『シヴァール国? ……アティーシャ様の生まれ故郷じゃな?』
あれ?
「カルラもシヴァール国で生まれたんだよね?」
『そうであるの』
それで?といった顔のカルラ。
「あのね、アティーシャ様は、カルラをシヴァール国に返してあげようって考えていて、その準備をお寺の人達に頼んでたんだって。カルラさえ良ければシヴァール国へ帰れるけど、どうする?」
『ふうむ。アティーシャ様が共にあれば喜んだに違いないが、時すでに遅し、よのぅ』
「そうじゃなくて、カルラは……カルラ自身はシヴァール国に帰りたくないの?」
そう聞くと、カルラはビックリした様に目をパチクリさせる。
『我が? 何故? あまり考えた事はないの』
えええっ!?
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