黒猫印の魔法薬 〜拾った子猫と異世界で〜

浅間遊歩

文字の大きさ
上 下
78 / 87
第三章 天空のカルラ

新しい翼

しおりを挟む

『よく来たの』
「はい! おじゃましてます!」

 戻ってきたカルラに昨日までと変わった感じはない。むしろ機嫌が良さそうだ。

『あやつら、われの巣に入り込むとは新参者じゃな。痛い思いをしたから、もう来んじゃろ』

 どうやら前の二匹も消えたのではなく、カルラがつまんで巣から離れた場所に捨てて来たらしい。
 上空からポイ捨てしたようだ。
 知り合う前に迷い込まなくて良かった。

『どこに行ってたんだよ、カルラ。心配、したんだぞ!?』
『ふはは。見よ! この翼を!』

 カルラはバサリと翼を広げ、うっとりとながめる。

『昔のチカラがよみがえったようじゃ。力強く、どこまでも飛んでゆける。思わず遠出をしてしまったわい』

 事故とは言え、黄金の実を食べたカルラはすっかり若返っている。人間と違って魔素で生きている魔獣は、黄金の実に含まれる魔素を効果的に吸収できるみたい。

「今までずっと!?」
『うむ。久しぶりに心ゆくまで飛んだわ。満足じゃ』

 楽しい旅行から帰ってきたばかりみたいに、うれしそうに思い出し笑いしてる。
 もう!
 もしかしたら、アティーシャ様のクガネの木を折った件で落ち込んでるんじゃないかって心配してたのに。
 こういうのを杞憂きゆうって言うんだろうな。

『ずっと、遠くまで、飛んだ?』
左様さよう。西へ東へ、南へ北へ。体がすっかりなまってたのでな。まずは軽い散歩を、それから速度を上げてどこまで飛べるか試してみたり』
『スゲー!』
「それじゃ、お腹すいたでしょ?」

 幸い、お弁当箱は無事だったので中からおにぎりを取り出して渡す。

『ほう、うまそうじゃ!』

 カルラは大喜びで野沢菜のおにぎりを受け取り、パクリと飲み込む。
 鳥は歯がないから、モグモグ噛まずに飲み込むんだよね。

『カルラ、体、大きい。いっぱい、食べな』
『すまんの』

 ラルがお弁当箱ごと差し出すと、カルラは次々と平らげてゆく。だいぶお腹が空いてるみたい。その横からラルも手を出して卵焼きをつまんでる。
 大きな鷲と小さな子猫が仲良く食事してる姿はやっぱり可愛い。
 あー、スマホがあったら写真や動画をたくさん撮るのに!

『極楽、極楽』

 食事を終え、満足そうに寝そべるカルラ。

「ねえ、カルラ」

 私は最初の目的を思い出して話しかける。
 交渉クエスト……私の冒険者としての初仕事だ。

「カルラはシヴァール国に帰りたい?」
『シヴァール国? ……アティーシャ様の生まれ故郷じゃな?』

 あれ?

「カルラもシヴァール国で生まれたんだよね?」
『そうであるの』

 それで?といった顔のカルラ。

「あのね、アティーシャ様は、カルラをシヴァール国に返してあげようって考えていて、その準備をお寺の人達に頼んでたんだって。カルラさえ良ければシヴァール国へ帰れるけど、どうする?」
『ふうむ。アティーシャ様が共にあれば喜んだに違いないが、時すでに遅し、よのぅ』
「そうじゃなくて、カルラは……カルラ自身はシヴァール国に帰りたくないの?」

 そう聞くと、カルラはビックリした様に目をパチクリさせる。

『我が? 何故なにゆえ? あまり考えた事はないの』

 えええっ!?
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

人見知り転生させられて魔法薬作りはじめました…

雪見だいふく
ファンタジー
 私は大学からの帰り道に突然意識を失ってしまったらしい。  目覚めると 「異世界に行って楽しんできて!」と言われ訳も分からないまま強制的に転生させられる。 ちょっと待って下さい。私重度の人見知りですよ?あだ名失神姫だったんですよ??そんな奴には無理です!!     しかし神様は人でなし…もう戻れないそうです…私これからどうなるんでしょう?  頑張って生きていこうと思ったのに…色んなことに巻き込まれるんですが…新手の呪いかなにかですか?   これは3歩進んで4歩下がりたい主人公が騒動に巻き込まれ、時には自ら首を突っ込んでいく3歩進んで2歩下がる物語。 ♪♪   注意!最初は主人公に対して憤りを感じられるかもしれませんが、主人公がそうなってしまっている理由も、投稿で明らかになっていきますので、是非ご覧下さいませ。 ♪♪ 小説初投稿です。 この小説を見つけて下さり、本当にありがとうございます。 至らないところだらけですが、楽しんで頂けると嬉しいです。 完結目指して頑張って参ります

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

処理中です...