黒猫印の魔法薬 〜拾った子猫と異世界で〜

浅間遊歩

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第三章 天空のカルラ

初クエスト

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「分かりました。その方向でクエスト依頼を受け付けます。ただし、大型魔獣相手ですので、くれぐれも気をつけてください」

 すぐにマイナさんが手続きを始める。私の冒険手帳に初めてクエスト概要が書き込まれ、受諾のハンコが押される。

「対象の魔獣と交渉し、一週間以内にその返事を持ち帰ってください。これは交渉クエストです。討伐クエストではないので、もしも戦闘になりそうな場合は逃げて構いません。交渉が決裂してもペナルティはありませんが、依頼者が満足する結果に持ち込めば、別途、成功報酬が追加されます」
「成功と大成功があるって事ですか?」
「そうよ。うまく交渉できるといいわね。それから、今回はないけどクエストによっては事前に支度金として報酬の一部が前渡しになるものもあるわ。クエスト完了してから残りの報酬がもらえるの。ただし失敗したら支度金は返金の上、罰金も払わなくてはならないものもあるわよ。条件はクエストごとに違うから、受ける前によく確認してね」
「はい」
「手伝いが必要な場合は自費で雇っても構わないわ。ただしその場合、成功報酬の分け前で揉めてもギルドは関与しません。内輪で処理してください。この後すぐに、あの冠皇帝鷲カンムリコウテイワシはクエスト中につき保護対象であると告知を出すけど、もしも邪魔する人がいたらギルドまで報告して? しとくから」

 マイナさんのウィンクはとてもチャーミング。
 冒険者ギルドに初めて来た時からずっとマイナさんにはお世話になってる。
 明日の朝、カルラと一緒に来てビックリさせたいなぁ。



 帰りはおばあちゃんの知り合いの魔術師に転移魔法で送ってもらったので、とっても楽だった。でも気軽に使える魔法ではないらしく、かなりお高い。
 距離によって大体の相場が決まっていて、魔術師のちょっとした小遣い稼ぎになっているんだって。本当にタクシーだね。
 お姉ちゃんは冒険の後処理が残ってるので本拠地のある村の方に残った。これから地図や報告書の清書をするらしい。

「あ、いけない!」

 水銀堂で買った物をカバンから出そうとしてハンカチに包んだ破片に気がつく。
 そうだ、おばあちゃんに相談しなくちゃ。

「ねえ、おばあちゃん。コレなんだけど……」

 折れたクガネの木を見たおばあちゃんの顔が曇る。

「これは……」
「元通りにできる?」
「アイツの用事って、コレだったのかい。難しいね。ここまでボロボロだと」

 そう言って折れた枝を手に取る。

「ミーナ。お前、弱い継続作用付きの体力回復薬を持ってなかったかい?」
「まだお姉ちゃんに渡してない分が、少しなら」

 黒猫印のタグがついた魔法薬を持ってくる。規定通りの回復量じゃないだけで、効果はちゃんとある。
 本でコツを学んだので前より上手く作れるようになったけど、あせるとつい魔素を押し込んじゃって継続作用付きの不良品ができてしまうのだ。

『ばあちゃん、それ俺の!』
「ひとつ、もらうよ」

 ラルの抗議もむなしく、おばあちゃんは黒猫印の魔法薬を手に取る。
 封を切り、クガネの木へ。

「植物にも効くの!?」
「ああ。植木や苗なら発芽・発根・成長をうながし、切り花なら長持ちする。ただし、やり過ぎると枯れるから注意おし。他の人にはナイショだよ?」
「へえ~~!」

 まるで化学の実験の様に、量を調節しながらポタポタと魔法薬をたらすおばあちゃん。薬液が染み込んだ枝のキズはすっかり消えている。それでも残念ながら、折れた部分はそのままだ。
 それから小枝をいくつか切り出し、赤玉土を入れた植木鉢に斜めに挿す。

「これで根っこが出ればしめたもの。けど、うまくいくか分からないよ?」

 やれやれ面倒な…と文句を言いながらも、おばあちゃんはとっても楽しそう。おばあちゃんの秘密の畑の薬草は、こうして増やしてったのかも知れない。回復薬の継続作用のせいか、揷し木した枝の中には、すでに新しい芽が出ているものもある。
 明日、カルラが遊びに来たら見せてあげよう。
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