74 / 87
第三章 天空のカルラ
初クエスト
しおりを挟む「分かりました。その方向でクエスト依頼を受け付けます。ただし、大型魔獣相手ですので、くれぐれも気をつけてください」
すぐにマイナさんが手続きを始める。私の冒険手帳に初めてクエスト概要が書き込まれ、受諾のハンコが押される。
「対象の魔獣と交渉し、一週間以内にその返事を持ち帰ってください。これは交渉クエストです。討伐クエストではないので、もしも戦闘になりそうな場合は逃げて構いません。交渉が決裂してもペナルティはありませんが、依頼者が満足する結果に持ち込めば、別途、成功報酬が追加されます」
「成功と大成功があるって事ですか?」
「そうよ。うまく交渉できるといいわね。それから、今回はないけどクエストによっては事前に支度金として報酬の一部が前渡しになるものもあるわ。クエスト完了してから残りの報酬がもらえるの。ただし失敗したら支度金は返金の上、罰金も払わなくてはならないものもあるわよ。条件はクエストごとに違うから、受ける前によく確認してね」
「はい」
「手伝いが必要な場合は自費で雇っても構わないわ。ただしその場合、成功報酬の分け前で揉めてもギルドは関与しません。内輪で処理してください。この後すぐに、あの冠皇帝鷲はクエスト中につき保護対象であると告知を出すけど、もしも邪魔する人がいたらギルドまで報告して? おしおきしとくから」
マイナさんのウィンクはとてもチャーミング。
冒険者ギルドに初めて来た時からずっとマイナさんにはお世話になってる。
明日の朝、カルラと一緒に来てビックリさせたいなぁ。
帰りはおばあちゃんの知り合いの魔術師に転移魔法で送ってもらったので、とっても楽だった。でも気軽に使える魔法ではないらしく、かなりお高い。
距離によって大体の相場が決まっていて、魔術師のちょっとした小遣い稼ぎになっているんだって。本当にタクシーだね。
お姉ちゃんは冒険の後処理が残ってるので本拠地のある村の方に残った。これから地図や報告書の清書をするらしい。
「あ、いけない!」
水銀堂で買った物をカバンから出そうとしてハンカチに包んだ破片に気がつく。
そうだ、おばあちゃんに相談しなくちゃ。
「ねえ、おばあちゃん。コレなんだけど……」
折れたクガネの木を見たおばあちゃんの顔が曇る。
「これは……」
「元通りにできる?」
「アイツの用事って、コレだったのかい。難しいね。ここまでボロボロだと」
そう言って折れた枝を手に取る。
「ミーナ。お前、弱い継続作用付きの体力回復薬を持ってなかったかい?」
「まだお姉ちゃんに渡してない分が、少しなら」
黒猫印のタグがついた魔法薬を持ってくる。規定通りの回復量じゃないだけで、効果はちゃんとある。
本でコツを学んだので前より上手く作れるようになったけど、あせるとつい魔素を押し込んじゃって継続作用付きの不良品ができてしまうのだ。
『ばあちゃん、それ俺の!』
「ひとつ、もらうよ」
ラルの抗議もむなしく、おばあちゃんは黒猫印の魔法薬を手に取る。
封を切り、クガネの木へ。
「植物にも効くの!?」
「ああ。植木や苗なら発芽・発根・成長をうながし、切り花なら長持ちする。ただし、やり過ぎると枯れるから注意おし。他の人にはナイショだよ?」
「へえ~~!」
まるで化学の実験の様に、量を調節しながらポタポタと魔法薬をたらすおばあちゃん。薬液が染み込んだ枝のキズはすっかり消えている。それでも残念ながら、折れた部分はそのままだ。
それから小枝をいくつか切り出し、赤玉土を入れた植木鉢に斜めに挿す。
「これで根っこが出ればしめたもの。けど、うまくいくか分からないよ?」
やれやれ面倒な…と文句を言いながらも、おばあちゃんはとっても楽しそう。おばあちゃんの秘密の畑の薬草は、こうして増やしてったのかも知れない。回復薬の継続作用のせいか、揷し木した枝の中には、すでに新しい芽が出ているものもある。
明日、カルラが遊びに来たら見せてあげよう。
0
お気に入りに追加
220
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
素直になる魔法薬を飲まされて
青葉めいこ
ファンタジー
公爵令嬢であるわたくしと婚約者である王太子とのお茶会で、それは起こった。
王太子手ずから淹れたハーブティーを飲んだら本音しか言えなくなったのだ。
「わたくしよりも容姿や能力が劣るあなたが大嫌いですわ」
「王太子妃や王妃程度では、このわたくしに相応しくありませんわ」
わたくしといちゃつきたくて素直になる魔法薬を飲ませた王太子は、わたくしの素直な気持ちにショックを受ける。
婚約解消後、わたくしは、わたくしに相応しい所に行った。
小説家になろうにも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
転生しても山あり谷あり!
tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」
兎にも角にも今世は
“おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!”
を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる