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第三章 天空のカルラ

ハグレ魔獣

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「それじゃあ、ここにサインして」
「はい」

 【鳥型魔獣による少女連れ去り事件】の顛末を(一部は伏せて)書き記した書類にサインする。
 連れ去られた子供は無事に帰ってきました、という記録を作っておかないと、問い合わせがあった時に面倒臭いんだそうだ。
 『ミーナ・ウェスリー』とサインをし、ハンコを押す。

「これで、あの鳥さんの濡れ衣は晴れますか?」
「う~ん……。近いうちに討伐クエストが出ると思うわ」
「そんなぁ」
「ああいうハグレ魔獣は基本的に、人里に降りて来たら駆除する事になってるの。安全のために早めに対応するのよ。山から降りて来ないならそっとしておくんだけど」

 それじゃあ、私を探しに村まで来なければ良かったの?

「幸い、と言うか、今は仕事にあぶれてる冒険者がたくさん居るから、人海戦術で何とかなるわ。あの大きさじゃ、捕まえて山奥に離すって訳にもいかないから殺処分になるでしょうね」
「ええっ!?」
「—— 待ってください!」

 荒々しくドアを開ける音とりんとした声。

「アレは、瑞雲寺がこの十年間、探し続けていた特定の魔獣の可能性がある。駆除するのは待ってくれ!」
「ケイさん!」
「住職から委任状をもらって来た。クエストの依頼だ」

 ケイさんが差し出す用紙を受け取り、読み上げるマイナお姉さん。

「『魔獣の捕獲依頼。十年前まで瑞雲寺で飼育されていた個体と思われる冠皇帝鷲カンムリコウテイワシの調査と捕獲。ただし、対象を絶対に傷つけないこと』」
「確かに。この依頼が有効になれば、他の冒険者はアレに手出しできなくなるね」
「おばあちゃん、それホント?」
「他人のクエストの達成妨害になっちまうからね」
「このクエストが取り下げられるか完了するまで、誰もあの魔獣を傷つけられないわ。他の冒険者のクエストを邪魔するとペナルティが付くのよ。でも、範囲指定なしの捜索依頼は人数を雇うことになるから依頼料も委託金もかなり高額になるわよ」
「分かってる。だから、期限は一週間。そして人数の代わりに特殊スキル持ちへの指名依頼を考えている」
「特殊スキル、ですか?」
「魔獣と会話できるテイマーへの指名依頼だ」
「なるほど」

 三人がいっせいに私を見る。

「え? カルラならまぃ……ムググッ」

 カルラなら毎日うちに来るよ?と言おうとして、おばあちゃんに口をふさがれる。

「初めての依頼で心配になるのはわかるが、大丈夫。お前ならできるさ、ミーナ。ラルもいるし。勇気を出して引き受けな」
「ほ…ほばあひゃん…」

 余計な事を言うんじゃないよ、と目で脅すおばあちゃん。

「そうですね。ミーナさんにはギルドでの実績がありませんが、今はこんな状態でそもそも受けられるクエストもありませんし。何しろ、これは完全にテイマー向けの案件です。ラル君とも会話してますよね?」
「あの大鷲とも話せるんだろう?」
「うん。あの鳥さんは結構おしゃべり」
「寺にいた頃も、アイツはよく人間の会話に耳を傾けていた。うまくすれば戦闘にならずに捕獲……いや帰宅するよう説得できるかもしれない」
「お寺に帰るように言えばいいの?」
「話せるのなら、まずはシヴァール国に帰る気があるか聞いてみてくれ」
「りょーかいっ。通訳だね」

 そう思えば気が楽だ。
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