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第三章 天空のカルラ

バレた

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 人混みを通り抜け、大通りを進むと左側に水銀堂が見えてくる。
 冒険者ギルド内の支店は現代日本の薬局に似た簡素で機能的な売店だったが、本店の方は江戸時代の薬問屋って感じの店構え。
 広い間口の玄関先には、呼び込みと案内役を兼ねた若い店員さんが立っている。

「こんにちわー」
「いらっしゃいませ。ミーナちゃん…と、アン婆さん!? もう、お加減はよろしいんで?」
「ありがとうよ、センキチ。この通り、前より元気さ」
「どうぞ奥へ。ラル様もご一緒に」
「ウナー」

 すぐに商談用の応接室に案内される。
 最初の頃は、ラルを外で待たせてたんだけど、最近は店の方で手さげカゴを用意してくれて中まで連れて入れるようなっている。
 とうで編んだカゴにタオルを敷いて、『ラル』と書いた赤いリボンが付けてある。ラル専用だ。
 渡り廊下を通って隣の建物にある商談用の応接室に案内される。

「旦那様、ウェスリー様方がいらっしゃいました」
「失礼するよ。……おや?」

 動きを止めたおばあちゃんの向こうに、ソファに腰掛けたホーマーさんが見える。
 この増設した棟は、表の店舗とは違って洋風なのだ。部屋に合わせた洋風の応接セットには、ホーマーさんともう一人、別の人が座っている。
 頭を剃り上げ袈裟を身に付けている。お坊さんだ。

「先客かい? なら外で待って……」
「ああ、いいんだ。入ってくれ」

 部屋を出ようとするおばあちゃんをホーマーさんが呼び止める。
 確かに、商談相手にしてはおかしい。ホーマーさんと並んで座っている。
 私達が向かいの三人がけソファに腰を下ろすと、ホーマーさんがお坊さんを紹介する。

「こちらは隣町にある瑞雲ずいうん寺の住職殿だ」
「突然、押しかけて申し訳ない。拙僧せっそう玄信げんしんと申す者。お初にお目にかかる」
「こちらの二人は水銀堂うちに魔法薬を卸してくれてる…」
「アン・ウェスリーだ。よろしく」
「孫のミーナです」

 で、何の用?と言いたげなおばあちゃんの目に、ホーマーさんは笑顔で答える。

「ほら、エレナがパーティを組んでるケイの親御さんだよ」
「え! ケイさんの?」

 ケイさんが本物の僧侶だとは聞いてたけど、実家がお寺だとは知らなかった。
 回復役を担当する冒険者には、宗教関係者が多いそうだ。もちろん、回復系の術や魔法が使えれば充分なんだけど、何かの信仰や強い信念を持っていた方が覚えやすいらしい。
 ヤンバダンジョンでは、廃仏運動で寺から追い出された僧侶達が冒険者になって大活躍したため、冒険者界隈における治療や回復役は、医師ドクターではなく僧侶プリーストと総称されることが多い。
 そう教えてくれた冒険者は、「治療が追いつかなくておっんじまっても、すぐに葬式が出せて便利だしな」と言って豪快に笑っていた。ああいうのを荒くれ者と言うのだろう。

「これも何かの縁ですな。いえ、本日は、お嬢さんに是非うかがいたい事がありまして」
「私?」

 何だろう。

「その前に……ウェスリー殿、まずは回復おめでとうございます」
「ありがとうよ。葬式を頼めなくて悪かったね。最近の魔法医学は本当にスゴイね」
「それとシヴァールの黄金の実、……でしょう?」
「「 !! 」」

 おばあちゃんと私は思わず真顔になって沈黙した。
 これでは認めたも同然。おばあちゃんの目が険しくなる。どうしよう?

「ああ、いいんだ。大丈夫」

 ホーマーさんがあわてて割って入る。

「婆さん。瑞雲寺だよ。わからないかな? ほら、アティーシャ僧正が余生を過ごした……」
「あ? それじゃあ…」
「そう。十年前には匿名での取引だったが、あの黄金の実の売主は、こちらの玄信殿なんだ」
「代理人ですよ。アティーシャ僧正の遺言を実行したまでです」

 お坊さんはそう言って目をつむり、軽く手を合わせて拝む。

「私どもは、あの時から、ウェスリー殿が黄金の実を購入された事を存じておりました。いくら金を積まれても、あまり素行の良ろしくない者の手に渡るのは嫌でしたからな。その点、ウェスリー殿なら安心です。買い手を確認してから許可を出したのです。先日、ウェスリー殿が危篤状態から奇跡的に回復したと聞いた時、ああ、あの時の黄金の実が役に立ったのだな、と思いました。そしてホーマー殿に世間話として振ったところ、それは違う、と。あの時の実の片割れを植えて育てた苗が盗まれ、それを保護していた『アティーシャ様の弟子』から実をひとつ譲ってもらったのだと言うじゃありませんか。何という巡り合わせ! 感動いたしました」

 話を聞きながらウンウンとうなずいているホーマーさんとは反対に、私は緊張してきた。まさか関係者がこんな近くにいたなんて。

「ですが同時に、いぶかしみました。この十年、そんな話は聞いた事がなかったからです。その後すぐに、知る限りの『アティーシャ様の弟子』達に、それとなく話を聞いてみましたが誰も知らないと言うのです」

 私は目をそらしたまま返事ができない。
 何とな~く誤魔化してきた設定アリバイが崩されてく…
 ううう……推理ドラマで探偵に追求される犯人の気持ちがわかるよ。
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