64 / 87
第三章 天空のカルラ
新ダンジョンは今
しおりを挟むカルラが帰ると、ラルはいつもの見回り任務に出かけた。私も作業場に戻って魔法薬作りを再開する。
魔力回復薬は体力回復薬と作り方が少し違う。
まず初めに薬草から薬効成分を抽出して原液を作る。次にそれを魔素で保護しながら溶剤に溶け込ませる二段階の作業になる。
溶剤の中で魔素を模様編みをしながら薬草の成分を編み込んでいく感じ?
魔素の薄い膜が薬の効き目を保持し、飲んだ人の体内の魔素に反応して成分を解放するらしい。
山のように収穫した青い葉っぱは、ほんの少しの濃い青色の液体になり、それから綺麗な紫色の薬液になる。でも、うまく仕上がったのはたったの3本。
「だいぶ薬草をムダにしちゃったなぁ」
「初めてで3本も作れりゃ上出来さ」
「それじゃあ届けに行って来るね」
魔力回復薬と体力回復薬を魔法のカバンに入れ、立ち上がる。
もう水銀堂にお昼を食べに行かなくても大丈夫なんだけど、薬を届けがてらギルドに寄って、エレナ達が戻って来ていないかチェックするのが日課になっている。
「今日は……あたしも水銀堂のお昼をご馳走になりに行こうかね」
「大丈夫? 結構、歩くよ?」
「ゆっくり歩けば平気さ。帰りは贅沢して、転移魔法の使える魔術師でも雇って送ってもらおうじゃないか」
そういう方法もあるのか。タクシー代わりだ。魔法がある世界ならではだね。
「それにほら……そろそろエレナが戻って来るかも」
あ、そうか。おばあちゃん、孫に会いたいんだ!
ほとんど会話してないしね。
これは……ダメって言いにくい。
「じゃあ、一緒に行こう。つらかったら早めに言ってね」
「あいよ」
上機嫌のおばあちゃんと一緒に家を出る。
「ラル! 行くよ!」
裏山に向かってひと声かけて歩き出す。
『今、行く!』
頭の中にだけ聞こえる返事が返って来た。
離れた場所でも会話ができる事に気づいたのは最近だ。声に出してしゃべらなくてもお互いに聞こえるの。不思議。
でもラルは『キズナ、ある』と言って不思議がらない。
どうやら最初からラルの「声」は音として聞こえてたんじゃないらしい。
100mも行かないうちに、雑草をかき分けてラルが現れる。
『あれ? ばあちゃん?』
「そうさ。今日はあたしも一緒」
おばあちゃんには「ウニャン?」としか聞こえないはずのラルの言葉が通じてる。目線とイントネーションで何となく分かるんだって。
「おばあちゃん、すっかり元気になったね」
黄金の実のおかげか、おばあちゃんは力強くサクサク歩いてく。
「そうだろ? 体力をつけるために毎日、午後は家の周りをずっと散歩してたからね!」
私が村に行ってる間にそんな事してたのか。
ナグモ先生ごめんなさい。おばあちゃんは安静にしてなかったみたいです。
まあ、リハビリだと思えばいいのかな?
冒険者ギルドの前は相変わらず人でごった返している。
屋外掲示板にアガサダンジョン攻略の概要が張り出されるので、冒険者以外の村人もたくさん見に来ている。
「もう攻略組は地下三階層を突破したってよ」
「いやいや、五層に入ったパーティもいるらしいぞ?」
「魑魅魍魎は、大ネズミに叫び蝙蝠、吼え犬に穴トカゲか」
「東のハルナダンジョンとは全く違う怪物どもだな」
「まだまだ先があるらしいぜ。深い穴の底から不気味な鳴き声が聞こえて来るって話だ」
通りすがりに耳に入る情報だけでも興味をそそられる。
でも、先に水銀堂へ行って薬の納品を済ませなきゃ…
「で、固有種は出たんかい?」
「色の違う大コウモリが居るらしいが、まだ倒されてないらしい」
「おばあちゃん!?」
おばあちゃんたら野次馬に混ざってる。
「そいつに一撃食らった戦士が倒れちまって、逃げ帰って来たパーティもあるんだとよ」
「毒持ちかな?」
「いや、精神攻撃じゃないかって話だ」
「それじゃあ『気つけ薬』でも準備しておこうかね」
「いいね!」
「アン婆さん、頼むよ」
「毒ヘビもいるから『毒消し』も助かるな。その場で効くのがあれば」
おばあちゃんが腕の良い薬師だと知っている村人や冒険者が周りに集まって来たようだ。口々に、作って欲しい薬をリクエストしている。
薬製作の依頼という形にすると高くつくが、こうして意見を言うだけなら指名料金はかからない。おばあちゃんが水銀堂に薬を卸しているのも知られているので、できた頃に買いに行くつもりなのだろう。
おばあちゃんの方も聞いた情報をメモして、次に作る薬の参考にしている。
持ちつ持たれつ。
なるほどー。
ただの野次馬じゃなくて、需要を調べてたのか。市場調査ってヤツだ。
「おばあちゃん、情報収集するの上手いね」
「だって新ダンジョンの中が気になるじゃないか」
違った。
ただの野次馬だった。
0
お気に入りに追加
219
あなたにおすすめの小説
異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ
トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!?
自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。
果たして雅は独りで生きていけるのか!?
実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
異世界転移の……説明なし!
サイカ
ファンタジー
神木冬華(かみきとうか)28才OL。動物大好き、ネコ大好き。
仕事帰りいつもの道を歩いているといつの間にか周りが真っ暗闇。
しばらくすると突然視界が開け辺りを見渡すとそこはお城の屋根の上!? 無慈悲にも頭からまっ逆さまに落ちていく。
落ちていく途中で王子っぽいイケメンと目が合ったけれど落ちていく。そして…………
聞いたことのない国の名前に見たこともない草花。そして魔獣化してしまう動物達。
ここは異世界かな? 異世界だと思うけれど……どうやってここにきたのかわからない。
召喚されたわけでもないみたいだし、神様にも会っていない。元の世界で私がどうなっているのかもわからない。
私も異世界モノは好きでいろいろ読んできたから多少の知識はあると思い目立たないように慎重に行動していたつもりなのに……王族やら騎士団長やら関わらない方がよさそうな人達とばかりそうとは知らずに知り合ってしまう。
ピンチになったら大剣の勇者が現れ…………ない!
教会に行って祈ると神様と話せたり…………しない!
森で一緒になった相棒の三毛猫さんと共に、何の説明もなく異世界での生活を始めることになったお話。
※小説家になろうでも投稿しています。
神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします
吉野屋
ファンタジー
竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。
魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。
次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。
【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】
転生幼女の怠惰なため息
(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン…
紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢
座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!!
もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。
全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。
作者は極度のとうふメンタルとなっております…
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる