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番外編(不定期短編)

いつもの任務(後編)

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『魔素のニオイ!』

 魔素のかたまりだ。
 今までかいだ事のないニオイ。もしかしたら新しい薬草かも。
 毒の薬草もあるから知らないのは歯で食いちぎっちゃダメ!って言われてる。
 でも、場所を確認して見た目をおぼえて帰ったらミーナにジマンできる。へへっ。

 魔素のニオイに向かって走る。

『……あれ?』

 魔素が動いた?
 ……薬草じゃない。魔獣だ!!

 気づかれないように風下に回る。何かが動く物音。
 葉っぱの多い茂みの陰から様子をうかがう。

 グルルルルゥ……

 顔や背中にコブのあるクマのような魔獣。頭部にツノが生えている。鬼熊だ。
 立ち上がればかなり大きい。3m以上あるだろう。
 注意すべきは、その高さから振り下ろす前脚の爪。あの爪でえぐられたら、ひとたまりもない。
 やり過ごすべきか? 戦うべきか?

 フゴッ フゴッ

 鬼熊は鼻を鳴らしながら周囲を確認している。
 気づかれたか?
 ……いや、違う。

 鬼熊は前方にある木に突進し、なぎ払った。
 木が倒れると同時に放り出された小動物を空中でつかむ。
 枝にいたリスだろうか?
 丸ごと口に押し込むとバリバリとかみ砕く。
 だいぶ腹を減らしているようだ。よく見ると脇腹から血を流している。
 ケガで狩りがうまく行かず、満足にエサを食べてないのかも。

(あのまま進めば、ミーナとばあちゃんの家、ある……)

 鬼熊が真っ直ぐに歩き続けるとは限らない。
 だが、見回りニンム中のラルは行動を決めた。

 鬼熊の動きを見ながら先回りして高い木に登る。
 息をひそめ、鬼熊を待つ。

(今だ……っ!!)

 鬼熊の頭上に飛び降りると同時に電撃を放つ!

「グガアァァッ!」

 突然の攻撃に、鬼熊はパニックを起こした。
 敵の姿を確認する事なく、四方八方、腕を振り回す。
 硬く鋭い爪に切り裂かれて周囲の木々の葉は飛び散り、枝は折れ、幹はえぐれて倒れる。
 幸い、鬼熊は小さなラルに気付いてないようだが、こうなるとは思わなかった。
 舞い上がる土砂や枯葉、降って来る枝葉や倒木をよけながら、ふまれないように移動する。

(一撃で、しとめるつもり、だったのに)

 鬼熊のあぶらぎった毛皮が電撃の威力を弱めているようだ。
 かと言って、毛皮の薄い鼻面を狙うのはリスクが高い。

(そうだ!)

 暴れる鬼熊の横手に回り、ケガをしている脇腹を狙う。
 振り回している腕をかいくぐり、固まりかけた血でおおわれた傷口に前脚を触れ、電撃をたたき込む。

 バチィッ!!

 閃光と衝撃。
 ビクン!と跳ね上がった鬼熊は硬直し、そのままモノも言わずに倒れ込んだ。





「それじゃあ、もう大丈夫なのね? アン!」

「あたしゃ、まだまだくたばる気はないさ」

「お互い100まで生きよーね。せっかくヤンバで生き残ったんだし?」

 家の方から知らないニンゲンの声がする。誰か来てるようだ。
 エンガワに、ばあちゃんと並んでもう一人。ニコニコした小太りのニンゲンが座っている。
 ばあちゃんと同じくらいのおばあさんだ。
 俺は姿勢を低くして観察を続ける。

「ねえ、おミヨ。ナグモ君を覚えてるかい? 魔法を教えてやった……。あの子、魔法医になって深州総合病院に居るんだよ」

「あら、あのイタズラ坊主。そういや外国の大学に行く資金を貯めるって言ってたねぇ。帰って来たんだ。診てもらったの?」

「1週間は安静にしてろってさ」

「アハハハ……。アンタ、働き過ぎだよ。孫も戻って来たんだし、ゆっくり寝てな」

 ばあちゃんは、ちょっと前までこの山の上の一軒家でひとりで暮らしていた。
 今では孫のエレナと、養女になったミーナがいる。

 ばあちゃん達の様子を植木鉢の陰から見ていたら、後ろから声をかけられた。

「お帰り、ラル」

 ミーナだ。
 俺の視線に気づいたミーナが付け加える。

「今、おばあちゃんの友達が来てるの。昔の冒険者仲間なんだって」

 ばあちゃんの友達か。ならいいや。
 俺はミーナに向き直り、体をなすりつける。

『ただいま』

 ミーナは俺を抱き上げて家に入り、俺の手足を手ぬぐいで拭く。
 本当は手足を持たれるのは好きじゃないけど、ミーナだから許す。じっとしてればすぐに終わるし。

 俺専用の器に入れてある水を飲み、俺専用の座布団の上でゴロンと横になる。

『あー、つかれたぁ!』

「はいはい」

 ミーナが笑いながら薬を出してくれる。
 黒猫印のタグ付き魔法薬。
 ミーナが俺のために売らないで取ってある手作りの薬だ。
 水の器の隣の、ご飯茶碗についでくれる。
 ペロリ、ペロリ。

『うまい!』

 ジワっと疲れが消えてゆく。

「それじゃあね、アン。元気になったら孫と一緒に店に食べにおいで。サービスするよ」

「そうね。久しぶりに行こうかね」

「楽しみにしてる……ああ、そうだ! サノ爺が、峠で手負いの鬼熊を見かけたって。ここまで降りては来ないだろうけど、一応、気をつけて」

「ありがとよ。来たら鼻っ柱に氷針アイスニードルでもお見舞いしてやるさ」

「そりゃあいい! じゃあね!」

 どうやらばあちゃんの友達が帰るようだ。
 俺は薬を飲み終え、ミーナの膝の上に登る。
 ミーナは俺を抱きかかえ、背中をなでながら話しかけてくる。

「見回り任務、ご苦労様。今日はどうだった?」

『まあまあ、かな。いつも通り?』

 報告を終え、俺はミーナの腕の中で丸くなった。
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