黒猫印の魔法薬 〜拾った子猫と異世界で〜

浅間遊歩

文字の大きさ
上 下
61 / 87
番外編(不定期短編)

いつもの任務(後編)

しおりを挟む

『魔素のニオイ!』

 魔素のかたまりだ。
 今までかいだ事のないニオイ。もしかしたら新しい薬草かも。
 毒の薬草もあるから知らないのは歯で食いちぎっちゃダメ!って言われてる。
 でも、場所を確認して見た目をおぼえて帰ったらミーナにジマンできる。へへっ。

 魔素のニオイに向かって走る。

『……あれ?』

 魔素が動いた?
 ……薬草じゃない。魔獣だ!!

 気づかれないように風下に回る。何かが動く物音。
 葉っぱの多い茂みの陰から様子をうかがう。

 グルルルルゥ……

 顔や背中にコブのあるクマのような魔獣。頭部にツノが生えている。鬼熊だ。
 立ち上がればかなり大きい。3m以上あるだろう。
 注意すべきは、その高さから振り下ろす前脚の爪。あの爪でえぐられたら、ひとたまりもない。
 やり過ごすべきか? 戦うべきか?

 フゴッ フゴッ

 鬼熊は鼻を鳴らしながら周囲を確認している。
 気づかれたか?
 ……いや、違う。

 鬼熊は前方にある木に突進し、なぎ払った。
 木が倒れると同時に放り出された小動物を空中でつかむ。
 枝にいたリスだろうか?
 丸ごと口に押し込むとバリバリとかみ砕く。
 だいぶ腹を減らしているようだ。よく見ると脇腹から血を流している。
 ケガで狩りがうまく行かず、満足にエサを食べてないのかも。

(あのまま進めば、ミーナとばあちゃんの家、ある……)

 鬼熊が真っ直ぐに歩き続けるとは限らない。
 だが、見回りニンム中のラルは行動を決めた。

 鬼熊の動きを見ながら先回りして高い木に登る。
 息をひそめ、鬼熊を待つ。

(今だ……っ!!)

 鬼熊の頭上に飛び降りると同時に電撃を放つ!

「グガアァァッ!」

 突然の攻撃に、鬼熊はパニックを起こした。
 敵の姿を確認する事なく、四方八方、腕を振り回す。
 硬く鋭い爪に切り裂かれて周囲の木々の葉は飛び散り、枝は折れ、幹はえぐれて倒れる。
 幸い、鬼熊は小さなラルに気付いてないようだが、こうなるとは思わなかった。
 舞い上がる土砂や枯葉、降って来る枝葉や倒木をよけながら、ふまれないように移動する。

(一撃で、しとめるつもり、だったのに)

 鬼熊のあぶらぎった毛皮が電撃の威力を弱めているようだ。
 かと言って、毛皮の薄い鼻面を狙うのはリスクが高い。

(そうだ!)

 暴れる鬼熊の横手に回り、ケガをしている脇腹を狙う。
 振り回している腕をかいくぐり、固まりかけた血でおおわれた傷口に前脚を触れ、電撃をたたき込む。

 バチィッ!!

 閃光と衝撃。
 ビクン!と跳ね上がった鬼熊は硬直し、そのままモノも言わずに倒れ込んだ。





「それじゃあ、もう大丈夫なのね? アン!」

「あたしゃ、まだまだくたばる気はないさ」

「お互い100まで生きよーね。せっかくヤンバで生き残ったんだし?」

 家の方から知らないニンゲンの声がする。誰か来てるようだ。
 エンガワに、ばあちゃんと並んでもう一人。ニコニコした小太りのニンゲンが座っている。
 ばあちゃんと同じくらいのおばあさんだ。
 俺は姿勢を低くして観察を続ける。

「ねえ、おミヨ。ナグモ君を覚えてるかい? 魔法を教えてやった……。あの子、魔法医になって深州総合病院に居るんだよ」

「あら、あのイタズラ坊主。そういや外国の大学に行く資金を貯めるって言ってたねぇ。帰って来たんだ。診てもらったの?」

「1週間は安静にしてろってさ」

「アハハハ……。アンタ、働き過ぎだよ。孫も戻って来たんだし、ゆっくり寝てな」

 ばあちゃんは、ちょっと前までこの山の上の一軒家でひとりで暮らしていた。
 今では孫のエレナと、養女になったミーナがいる。

 ばあちゃん達の様子を植木鉢の陰から見ていたら、後ろから声をかけられた。

「お帰り、ラル」

 ミーナだ。
 俺の視線に気づいたミーナが付け加える。

「今、おばあちゃんの友達が来てるの。昔の冒険者仲間なんだって」

 ばあちゃんの友達か。ならいいや。
 俺はミーナに向き直り、体をなすりつける。

『ただいま』

 ミーナは俺を抱き上げて家に入り、俺の手足を手ぬぐいで拭く。
 本当は手足を持たれるのは好きじゃないけど、ミーナだから許す。じっとしてればすぐに終わるし。

 俺専用の器に入れてある水を飲み、俺専用の座布団の上でゴロンと横になる。

『あー、つかれたぁ!』

「はいはい」

 ミーナが笑いながら薬を出してくれる。
 黒猫印のタグ付き魔法薬。
 ミーナが俺のために売らないで取ってある手作りの薬だ。
 水の器の隣の、ご飯茶碗についでくれる。
 ペロリ、ペロリ。

『うまい!』

 ジワっと疲れが消えてゆく。

「それじゃあね、アン。元気になったら孫と一緒に店に食べにおいで。サービスするよ」

「そうね。久しぶりに行こうかね」

「楽しみにしてる……ああ、そうだ! サノ爺が、峠で手負いの鬼熊を見かけたって。ここまで降りては来ないだろうけど、一応、気をつけて」

「ありがとよ。来たら鼻っ柱に氷針アイスニードルでもお見舞いしてやるさ」

「そりゃあいい! じゃあね!」

 どうやらばあちゃんの友達が帰るようだ。
 俺は薬を飲み終え、ミーナの膝の上に登る。
 ミーナは俺を抱きかかえ、背中をなでながら話しかけてくる。

「見回り任務、ご苦労様。今日はどうだった?」

『まあまあ、かな。いつも通り?』

 報告を終え、俺はミーナの腕の中で丸くなった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

素直になる魔法薬を飲まされて

青葉めいこ
ファンタジー
公爵令嬢であるわたくしと婚約者である王太子とのお茶会で、それは起こった。 王太子手ずから淹れたハーブティーを飲んだら本音しか言えなくなったのだ。 「わたくしよりも容姿や能力が劣るあなたが大嫌いですわ」 「王太子妃や王妃程度では、このわたくしに相応しくありませんわ」 わたくしといちゃつきたくて素直になる魔法薬を飲ませた王太子は、わたくしの素直な気持ちにショックを受ける。 婚約解消後、わたくしは、わたくしに相応しい所に行った。 小説家になろうにも投稿しています。

転生しても山あり谷あり!

tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」 兎にも角にも今世は “おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!” を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?

『自重』を忘れた者は色々な異世界で無双するそうです。

もみクロ
ファンタジー
主人公はチートです!イケメンです! そんなイケメンの主人公が竜神王になって7帝竜と呼ばれる竜達や、 精霊に妖精と楽しくしたり、テンプレ入れたりと色々です! 更新は不定期(笑)です!戦闘シーンは苦手ですが頑張ります! 主人公の種族が変わったもしります。 他の方の作品をパクったり真似したり等はしていないので そういう事に関する批判は感想に書かないで下さい。 面白さや文章の良さに等について気になる方は 第3幕『世界軍事教育高等学校』から読んでください。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

処理中です...