60 / 87
番外編(不定期短編)
いつもの任務(前編)
しおりを挟む「ごちそうさま!」
朝ごはんを食べ終えたミーナがいつもの呪文を唱える。
ああすると、次もおいしいご飯が食べられるらしい。ニンゲンの、おまじないだ。
だから俺もミーナに続けて唱えておく。
『ごちそうさま!』
めんどうくさい時には「ニャオ」と小声で鳴くだけだが、ちゃんと唱えるとミーナが喜ぶ。
ミーナが喜ぶと、俺もうれしい。だからミーナに合わせてるのだ。
「えらいね、ラル」
ほおら、ミーナが優しくなでてくれる。
俺が「ごちそうさま」を覚えたら、ばあちゃんもビックリしてた。でも、こんなの何でもない。
「はいよ、お粗末様」
言いながら茶碗を集めるおばあちゃんの手をミーナが押さえる。
「おばあちゃんはゆっくりしてて。後片付けは私がやるから」
ばあちゃんは少し前に胸の奥が痛くなって死にかけた。
俺とミーナが見つけたキラキラの実で治ったけど、しばらくはアンセーにしてるようにと医者のニンゲンに言われている。
アンセーはおとなしく寝てないとダメらしい。
ばあちゃんは「体がなまっちまうよ」とキゲンが悪い。
食後のお茶を飲み始めた二人の横を通り抜け、明かり取りの窓にヒョイと飛び乗る。
『いってきます』
出かける前のアイサツも忘れない。
「いってらっしゃい」
ミーナの返事を聞いてから外の地面に飛び降りる。
これからナワバリの見回り。毎日の大事なニンムだ。
まずは母家をグルリと一周。
うん、イジョーなし!
そのまま隣の作業場へ。
ここはミーナとばあちゃんが魔法の薬を作る場所。
ネズミが入らないようによくよくチェック。
うん、イジョーなし!
次はその横の物置へ。
ここにはホゾンの薬とか食べ物が置いてある。
一応トビラはついてるけど、ガタガタだしスキマが多いから注意が必要だ。
あ!
ネズミのニオイ!
棚の奥の方からニオイがする!
近づくと「チュッ」と鳴き声。
棚に飛び乗ると反対側からツルリと走り出てくる。
弱虫め。
よし。これでイジョーなし!
小さいけど、わりとおいしいヤツだった。
裏庭の先にある畑は一目で見渡せる。
ここはネズミよりも大きいヤツにねらわれることが多い。
体が大きいけれど葉っぱが大好きなヤツらが来る。
キバやツノがあるから気をつけて、ってミーナは言うけど、まぁ、俺の方が強いから大丈夫。
念のため、畑の先にある木の根元にオシッコをしておく。
これで弱いヤツは逃げていく。
畑にするとばあちゃんに怒られる。ココ重要!!
畑のワキから細い山道を登る。
その先には、ばあちゃんのヒミツの畑がある。
魔法の薬を作るザイリョーの薬草をうえてあるのだ。
近づくといい香りがしてきた。
サワサワサワ……
お日さまを浴びて青い葉っぱがゆれている。
シュッと長い草や、ちょっとクサイのも生えてる。
ここには、ばあちゃんが魔獣よけの魔法陣が描かれたフダをぶら下げてるけど、土の中にはあまり効いてない。
魔獣には、土の中を進むモグラみたいなヤツもいるのだ。
畑に近づき、鼻を土につける。
目をつむって土の中のニオイを探る。
……………うん。大丈夫。土の中を動く魔獣はいない。
何か小さなのはいるみたいだけど、たぶん、ミミズ。
あのプルプルしたヒモみたいなヤツだ。アレはおいしくない。
『イジョーなし!』
さて。ここから先は「訓練」だ。
毎日、知らない場所へ歩いて行き、また帰って来る。
少しづつ歩いて道をおぼえなさいと母ちゃんも言ってた。
昨日は川をのぼって滝を見つけたから、今日は別の所へ行ってみよう。
魔法の薬に使える薬草を見つければ、ミーナも喜ぶしな。
岩を超え、倒木をくぐり、ツタのからまった森を抜ける。
途中、濡れた枯葉で足をすべらせたけど、ミーナが見てなかったからセーフ。
自分のいる場所を頭の中で思い描きながら、迷子にならないように気をつける。
まあ、分かんなくなる方が多いんだけど。
そうなったらミーナのいる方に帰るのだ。ミーナだけは、どこにいてもわかるから。
シダの茂みをくぐり抜け、土手を登ると広い道に出た。
ニンゲンの道だ。
はば広く土を削って平らにしてある。
でもミーナとアガサ村に行く時に通る道じゃない。
『どこに行く、道かな?』
道にそって歩く。登り坂だ。カルラがいる山の上とは別の方向に進んでいる。
時々、荷物を乗せた馬やニンゲンが通るけど、道端の木や岩の陰に隠れてやり過ごす。
物陰に隠れて敵に見つからないように移動する事を「オンミツ」と言うのだと、エレナに教わった。
『へへっ。オンミツもうまい、俺。………あれ?』
ふと前方を見ると、道が空に消えていた。
あわてて走り寄る。
『あ………なーんだ!』
終わってるのは道ではなく、登り坂だった。そこから下りになっていて、先が見えないだけ。
今来た道を振り返ると、そっちも下り坂になっている。
『よし! 今日は下り坂を、2ついっぺんに、見つけた!』
これで帰ろう。
遅くなるとミーナが心配するからな。
道を外れ、林を突っ切る。
地面は枯葉や枯れ枝で歩きづらいが、倒木や岩の上を渡って器用に移動する。
と、何かに気づいて顔を上げる。
0
お気に入りに追加
220
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
素直になる魔法薬を飲まされて
青葉めいこ
ファンタジー
公爵令嬢であるわたくしと婚約者である王太子とのお茶会で、それは起こった。
王太子手ずから淹れたハーブティーを飲んだら本音しか言えなくなったのだ。
「わたくしよりも容姿や能力が劣るあなたが大嫌いですわ」
「王太子妃や王妃程度では、このわたくしに相応しくありませんわ」
わたくしといちゃつきたくて素直になる魔法薬を飲ませた王太子は、わたくしの素直な気持ちにショックを受ける。
婚約解消後、わたくしは、わたくしに相応しい所に行った。
小説家になろうにも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
転生しても山あり谷あり!
tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」
兎にも角にも今世は
“おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!”
を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる