黒猫印の魔法薬 〜拾った子猫と異世界で〜

浅間遊歩

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番外編(不定期短編)

いつもの任務(前編)

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「ごちそうさま!」

 朝ごはんを食べ終えたミーナがいつもの呪文を唱える。
 ああすると、次もおいしいご飯が食べられるらしい。ニンゲンの、おまじないだ。
 だから俺もミーナに続けて唱えておく。

『ごちそうさま!』

 めんどうくさい時には「ニャオ」と小声で鳴くだけだが、ちゃんと唱えるとミーナが喜ぶ。
 ミーナが喜ぶと、俺もうれしい。だからミーナに合わせてるのだ。

「えらいね、ラル」

 ほおら、ミーナが優しくなでてくれる。
 俺が「ごちそうさま」を覚えたら、ばあちゃんもビックリしてた。でも、こんなの何でもない。

「はいよ、お粗末そまつ様」

 言いながら茶碗を集めるおばあちゃんの手をミーナが押さえる。

「おばあちゃんはゆっくりしてて。後片付けは私がやるから」

 ばあちゃんは少し前に胸の奥が痛くなって死にかけた。
 俺とミーナが見つけたキラキラの実で治ったけど、しばらくはアンセーにしてるようにと医者のニンゲンに言われている。
 アンセーはおとなしく寝てないとダメらしい。
 ばあちゃんは「体がなまっちまうよ」とキゲンが悪い。

 食後のお茶を飲み始めた二人の横を通り抜け、明かり取りの窓にヒョイと飛び乗る。

『いってきます』

 出かける前のアイサツも忘れない。

「いってらっしゃい」

 ミーナの返事を聞いてから外の地面に飛び降りる。
 これからナワバリの見回り。毎日の大事なニンムだ。

 まずは母家をグルリと一周。
 うん、イジョーなし!

 そのまま隣の作業場へ。
 ここはミーナとばあちゃんが魔法の薬を作る場所。
 ネズミが入らないようによくよくチェック。
 うん、イジョーなし!

 次はその横の物置へ。
 ここにはホゾンの薬とか食べ物が置いてある。
 一応トビラはついてるけど、ガタガタだしスキマが多いから注意が必要だ。
 あ!
 ネズミのニオイ!
 たなの奥の方からニオイがする!
 近づくと「チュッ」と鳴き声。
 棚に飛び乗ると反対側からツルリと走り出てくる。
 弱虫め。
 よし。これでイジョーなし!
 小さいけど、わりとおいしいヤツだった。

 裏庭の先にある畑は一目で見渡せる。
 ここはネズミよりも大きいヤツにねらわれることが多い。
 体が大きいけれど葉っぱが大好きなヤツらが来る。
 キバやツノがあるから気をつけて、ってミーナは言うけど、まぁ、俺の方が強いから大丈夫。
 念のため、畑の先にある木の根元にオシッコをしておく。
 これで弱いヤツは逃げていく。
 畑にするとばあちゃんに怒られる。ココ重要!!

 畑のワキから細い山道を登る。
 その先には、ばあちゃんのヒミツの畑がある。
 魔法の薬を作るザイリョーの薬草をうえてあるのだ。
 近づくといい香りがしてきた。

 サワサワサワ……

 お日さまを浴びて青い葉っぱがゆれている。
 シュッと長い草や、ちょっとクサイのも生えてる。
 ここには、ばあちゃんが魔獣よけの魔法陣が描かれたフダをぶら下げてるけど、土の中にはあまり効いてない。
 魔獣には、土の中を進むモグラみたいなヤツもいるのだ。

 畑に近づき、鼻を土につける。
 目をつむって土の中のを探る。

 ……………うん。大丈夫。土の中を動く魔獣てきはいない。

 何か小さなのはみたいだけど、たぶん、ミミズ。
 あのプルプルしたヒモみたいなヤツだ。アレはおいしくない。

『イジョーなし!』

 さて。ここから先は「訓練」だ。
 毎日、知らない場所へ歩いて行き、また帰って来る。
 少しづつ歩いて道をおぼえなさいと母ちゃんも言ってた。
 昨日は川をのぼって滝を見つけたから、今日は別の所へ行ってみよう。
 魔法の薬に使える薬草を見つければ、ミーナも喜ぶしな。

 岩を超え、倒木をくぐり、ツタのからまった森を抜ける。
 途中、濡れた枯葉で足をすべらせたけど、ミーナが見てなかったからセーフ。

 自分のいる場所を頭の中で思い描きながら、迷子にならないように気をつける。
 まあ、分かんなくなる方が多いんだけど。
 そうなったらミーナのいる方に帰るのだ。ミーナだけは、どこにいてもわかるから。

 シダの茂みをくぐり抜け、土手を登ると広い道に出た。
 ニンゲンの道だ。
 はば広く土を削って平らにしてある。
 でもミーナとアガサ村に行く時に通る道じゃない。

『どこに行く、道かな?』

 道にそって歩く。登り坂だ。カルラがいる山の上とは別の方向に進んでいる。
 時々、荷物を乗せた馬やニンゲンが通るけど、道端の木や岩の陰に隠れてやり過ごす。
 物陰に隠れて敵に見つからないように移動する事を「オンミツ」と言うのだと、エレナに教わった。

『へへっ。オンミツもうまい、俺。………あれ?』

 ふと前方を見ると、道が空に消えていた。
 あわてて走り寄る。

『あ………なーんだ!』

 終わってるのは道ではなく、登り坂だった。そこから下りになっていて、先が見えないだけ。
 今来た道を振り返ると、そっちも下り坂になっている。

『よし! 今日は下り坂を、2ついっぺんに、見つけた!』

 これで帰ろう。
 遅くなるとミーナが心配するからな。

 道を外れ、林を突っ切る。
 地面は枯葉や枯れ枝で歩きづらいが、倒木や岩の上を渡って器用に移動する。

 と、何かに気づいて顔を上げる。
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