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第二章 シヴァール国の黄金の実
おばあちゃんと孫娘たち
しおりを挟むおしゃべりしてるうちに病院の面会時間が近づく。
麦わら帽子はまた今度買うことにしよう。
店を出ると、気づいたラルが屋根から降りて来る。
「おいしいお土産があるよ」
『やったー!』
すぐに食べたいと言うので近くの空き地で食べさせる。
みつ豆が入った器を地面に置き、別添えの黒みつをかける。
『黒いのは、いらなくない?』
「黒いのが甘くておいしいんだよ」
『ホントだ!』
どうやら気に入ったみたい。うれしそうにパクパク食べてる。
つい、みんなで見守ってしまった。
だって可愛いんだもん。
「それじゃあ帰るか」
名残惜しそうにラルを見ながらゴッツさんが立ち上がる。
「私はこれから病院」
「どこか悪いのか?」
心配そうにケイが聞く。
「ううん。おばあちゃんのお見舞い。目が覚めてるといいけど」
「なら、あたしも婆さんの顔を見てくる。夕方まで時間あいてるし、いいよね? ダンジョン始まったらしばらく行けないから」
「じゃ、先に帰ってるぞ」
「アン婆さんによろしくな」
ゴッツさん達はパーティで借りてる部屋があるそうだ。
冒険者向けの集合住宅に、大きめの部屋と小部屋を一つづつ。小さい方は女性用。前も女性が一人いたのでそういう構成で借りてたんだって。
そこで冒険の準備をしたり、ダンジョンの地図や報告書を清書したりする。パーティの本拠地だ。
今度こそ連絡が取れるように住所を教えてもらってからバイバイする。
ゴッツさんはいつまでもラルに手を振っていたけど、ラルは興味なさそうに毛づくろいをしてた。
病院に着くと、笑顔の看護婦さんが早足で近づいて来る。
「アンゼリカさんの意識が戻ったわよ」
集中治療室から普通の病室に移動になったそうだ。
エレナと私は大喜びで病室に向かう。
「おばあちゃん!」
六人部屋だけど、今のところ他の患者さんはいない。
奥のベッドに寝ているおばあちゃんだけ。
でも近づいてハッとする。
くぼんだ目、血の気のない肌、点滴のチューブ。
いつもの元気なおばあちゃんとは全く違う姿にショックを受ける。
「…ミーナ……。心配かけたね。……おや?」
後ろに立っているエレナに気づいたらしい。
「おばあちゃん、エレナだよ。ミランダさんの子供」
「エレナ・ハリオです。その……連絡をもらって……」
「お姉ちゃんになってくれるんだって!」
おばあちゃんが目を見開く。そしてすぐ、うれしそうに涙ぐんだ。
「……来てくれたのね」
「邪魔じゃなかった?」
「会いたかったさ。ミランダによく似てる。……ああ、でもあの業突く張りに見られたら」
「大丈夫。借金ならあたし達で返すから」
「やっぱり来たのね。あの外道!」
鼻息も荒く顔をしかめるおばあちゃん。
娘とは冒険者になるならないで大ゲンカをして家出同然に別れた。でも薬を渡した後に二度と戻ってくるなと言ったのは、あの金貸しのおじさんに見つからないようにするためだった。
お金を貸す時には親切にしてくれたのに、借金をしたらすぐに、娘を働かせればいいと言い出したんだって。あの変なおじさんは、いかがわしい酒場をいくつも経営しているらしい。
ゲドウって何だろう?
「なーに、心配しなくてもいいさ。すぐに退院して、また薬を作って稼ぐから………ううむ」
「おばあちゃん!」
「だめだめ。大人しく寝てて? あたしがアガサ・ダンジョンで稼いでくっからさ」
「お姉ちゃんはゴッツさんとパーティを組んだの。一緒にダンジョンに潜るんだって」
「そうかい。ゴッツなら安心だ。あのコは強いよ。それにあそこのパーティの第一目標は『ちゃんと帰ってくる』だしね」
おばあちゃんはホッとしたように目をつぶる。
疲れたのだろう。
「また来るね」
エレナと私は静かに病室を出た。
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