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第二章 シヴァール国の黄金の実
行動あるのみ!
しおりを挟む翌日から私は魔法薬作りに取り組んだ。
溶剤はまだたっぷりあるから、ひたすら挑戦するのみ!
おばあちゃんのアドバイスを思い出し、定着率を考えて多めの魔素を集めて流し込む。
「よし!」
フラスコの中の液体は綺麗な水色に輝いている。成功だ。
出来上がった魔法薬を小ビンに移して栓をする。
魔素の含有量は水銀堂で測定してもらえることになっている。
規定量以上なら正規の封をして納品、足りなければ返品。黒猫のハンコを押したタグをつけて持って帰ってくるつもり。
魔素が規定量に満たない魔法薬は正規のルートで売買できないけど、自分で使うのは構わない。魔獣のエサにもなるようだ。
ラルはおばあちゃんの畑周りや敷地内のネズミを駆除するという「任務」の後、黒猫印の体力回復薬を一本飲むのが最近の日課になっている。
エレナは、仕事を探しに出かけた。
昨日、水銀堂の帰りにギルドで入洞申請を出そうとしたら、すでに締め切られていた。募集を開始して二・三日で定員に達したらしい。
そこを何とか!と粘ったけどダメだった。二次募集はいつになるか分からない。
「何か少しでも仕事を探してくるよ。それに、もしかしたらどこかのパーティに入れてもらえるかもしれない」
と、朝早く家を出た。
ダンジョン開きまで、あと3日。
エレナが危険なダンジョンに潜るのは心配だけど、彼女の両親も祖父母も冒険者。ダンジョン攻略の話を聞いて育ち、今の私と同じ10歳で、すでに比較的安全な初心者向けダンジョンに挑戦していたらしい。そういうのをダンジョンっ子て言うそうだ。
「とりあえず、これだけあればいいかな」
できたばかりの数十本の魔法薬をながめる。
どれもキラキラと輝いている。色も綺麗な水色だ。
全部合格するとは限らないけど、エレナにもらった腕輪のおかげで魔力の暴発を心配しないで多めに魔素を詰め込めた。
きっと合格率は高いだろう。
冒険者ギルドで管理しているおばあちゃんの銀行口座を確認すると、口座には来月の利息分の貯金があった。まずはひと安心。
それでも一ヶ月なんて、あっという間に過ぎてしまうだろう。次の返済日までに二人で稼いでおかないと。まだ半人前の私もできることを精一杯やろう。
それに、おばあちゃんの意識が戻ってもしばらくは入院が必要だ。その入院代も工面しないとならない。
「ああー、お母さんがいつもお金を気にしてた気持ちがよく分かるよ」
生活するって大変だ。
できあがった魔法薬を木製のケースに並べ、魔法のカバンに収容する。
『ミーナ。準備、できた?』
「うん。戸締りしたら水銀堂に行くよ」
『おっひる、おっひる、お昼ごはん~♪』
ラルは上機嫌で自作の歌を歌いながら歩いている。
ホーマーさんの奥さんが、昼は水銀堂で食べればいいと提案してくれたのだ。
毎日、作った魔法薬を水銀堂まで届けるついでにお昼をご馳走になる。
都合がつけばエレナもいっしょに。
それからおばあちゃんのお見舞いをして、他に用事があれば済ませて帰る。
しばらくはその繰り返しだろう。
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