上 下
32 / 87
第二章 シヴァール国の黄金の実

新しい家族

しおりを挟む

「とにかく! 金は必ず返してもらいますからね!」

 状況を把握したおじさんはゴッツの手を振りほどき、捨てゼリフを残して逃げて行く。

「やれやれ……なんて奴だ」
「ヒドイことばっかり言って……許せない!」
「一発ぐらいブン殴ってやるんだった!」

 口々に文句を言いながら、私たちも雨を避けて裏口からギルドに入る。
 ギルド内は相変わらず人が多い。ダンジョン開きが近いためだろう。

「ゴッツ。戻ったか。アン婆さんの容体は?」

 ギルドマスターのオガワさんが私達を見つけて近寄って来る。

「ああ、うまく会えたんだな。ミーナちゃん、もう聞いたと思うが、この人はアン婆さんの孫のエレナさん。エレナ、こちらは婆さんの養女になったミーナちゃん」

「「「 え!? 」」」

「ナグモが一緒に飛んでったからまず大丈夫だろうが、———どうした?」
「養女?……この子、アン婆さんの孫だって…」
「歳が離れ過ぎてるからな。みんな『孫』って呼んでる」
「そ、そうだったのか?」
「なんだ、ゴッツも知らなかったのか?」
「私がおばあちゃんの本当の孫じゃないって……知ってたんですか?」
「知ってるも何も、マイナが手続きした時に一緒にいたじゃないか。婆さんから、『孫と似た境遇の子を養女にする』と聞いたぞ?」
「本当なの?」

 エレナが私の顔を見る。
 そう言えば、養子縁組の書類にサインしたような…

「騙すつもりじゃなかったの。両親が死んだ話をしたら、最初、おばあちゃんは孫が帰って来たと思い込んじゃったみたいなの。そう言われて、私も本当のおばあちゃんなんだと思った。でも違ったの」

 あの嫌な大叔父さんより、ずっとずっと優しかった。

「気付いた時にはもう言い出せなかった。だっておばあちゃん、とってもうれしそうだったし。私も行く当てがなかったから」
「そうだったの。………いきなり怒鳴りつけて悪かったよ」
「怒って当然。だってエレナさんは…」
「エレナでいい。さん、いらない」
「じゃ、エレナ。おばあちゃんを心配して急いで来たんでしょ? ニセモノがいたらビックリするよ」

 するとエレナは首を振った。

「ううん、怒ったのはもっと個人的な理由。母さんは勘当かんどうされたって聞いてた。だからおばあちゃんに会いたくても会えないし、ギルドに連絡が入るまで居場所すら知らなかった。アタシも嫌われてるんじゃないかと怖かったんだ。なのにニセモノが可愛がられてる思ったらカッとしちゃって……」
「本物の孫が帰って来たと聞いたら、おばあちゃんはきっと喜ぶよ。ミランダさんとのこと、すごく後悔してたから。おばあちゃんと一緒に暮らしてあげて? 私は……私はラルと一緒に暮らせる場所を探すから」
「え? ちょ、ちょっと! 何も追い出そうなんて……それじゃ私がすっごく悪いヤツみたいじゃない!」

 エレナは手を伸ばしてミーナの手を握る。

「別に……居たらいいじゃん。婆さんの養女なんでしょ? 婆さんの【孫】なら、あたしの…い、妹みたいなモンだし?」
「……………え?」
「何よ。文句ある? ………イヤなら従姉妹いとこでも……」
「私、一人っ子だったからうれしい! エレナ……お姉ちゃん?」

 友達が兄弟姉妹のことを口にする時の、あのちょっと迷惑そうでうれしそうな雰囲気に憧れていた。別にイイもんじゃないよ、とも言われたけど。

『なんだよお。ミーナには俺がついてるじゃん!』

 タオルから顔を出して、ちょっとすねたようにラルが言う。

「そうだけど。家族が増えるのってうれしくない?」
『そお? 闇豹って、だいたい、いつもひとり』
「そっか」

 元の世界でも、ヒョウは群を作らない生き物だった。

「ひとりの気ままな自由もいいね」
『だろ?』

 そう言ってラルは身体をミーナに押し付ける。もっとなでろ、という意味だろうか?
 その矛盾に突っ込みたいけど可愛いから許す!

「それ、ミーナの猫?」
「うん。ラルっていうの。猫じゃなくて闇豹だけど」
「えっ!?」

 やっぱり驚かれた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜

和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。 与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。 だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。 地道に進む予定です。

処理中です...