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第二章 シヴァール国の黄金の実
新しい家族
しおりを挟む「とにかく! 金は必ず返してもらいますからね!」
状況を把握したおじさんはゴッツの手を振りほどき、捨てゼリフを残して逃げて行く。
「やれやれ……なんて奴だ」
「ヒドイことばっかり言って……許せない!」
「一発ぐらいブン殴ってやるんだった!」
口々に文句を言いながら、私たちも雨を避けて裏口からギルドに入る。
ギルド内は相変わらず人が多い。ダンジョン開きが近いためだろう。
「ゴッツ。戻ったか。アン婆さんの容体は?」
ギルドマスターのオガワさんが私達を見つけて近寄って来る。
「ああ、うまく会えたんだな。ミーナちゃん、もう聞いたと思うが、この人はアン婆さんの孫のエレナさん。エレナ、こちらは婆さんの養女になったミーナちゃん」
「「「 え!? 」」」
「ナグモが一緒に飛んでったからまず大丈夫だろうが、———どうした?」
「養女?……この子、アン婆さんの孫だって…」
「歳が離れ過ぎてるからな。みんな『孫』って呼んでる」
「そ、そうだったのか?」
「なんだ、ゴッツも知らなかったのか?」
「私がおばあちゃんの本当の孫じゃないって……知ってたんですか?」
「知ってるも何も、マイナが手続きした時に一緒にいたじゃないか。婆さんから、『孫と似た境遇の子を養女にする』と聞いたぞ?」
「本当なの?」
エレナが私の顔を見る。
そう言えば、養子縁組の書類にサインしたような…
「騙すつもりじゃなかったの。両親が死んだ話をしたら、最初、おばあちゃんは孫が帰って来たと思い込んじゃったみたいなの。そう言われて、私も本当のおばあちゃんなんだと思った。でも違ったの」
あの嫌な大叔父さんより、ずっとずっと優しかった。
「気付いた時にはもう言い出せなかった。だっておばあちゃん、とってもうれしそうだったし。私も行く当てがなかったから」
「そうだったの。………いきなり怒鳴りつけて悪かったよ」
「怒って当然。だってエレナさんは…」
「エレナでいい。さん、いらない」
「じゃ、エレナ。おばあちゃんを心配して急いで来たんでしょ? ニセモノがいたらビックリするよ」
するとエレナは首を振った。
「ううん、怒ったのはもっと個人的な理由。母さんは勘当されたって聞いてた。だからおばあちゃんに会いたくても会えないし、ギルドに連絡が入るまで居場所すら知らなかった。アタシも嫌われてるんじゃないかと怖かったんだ。なのにニセモノが可愛がられてる思ったらカッとしちゃって……」
「本物の孫が帰って来たと聞いたら、おばあちゃんはきっと喜ぶよ。ミランダさんとのこと、すごく後悔してたから。おばあちゃんと一緒に暮らしてあげて? 私は……私はラルと一緒に暮らせる場所を探すから」
「え? ちょ、ちょっと! 何も追い出そうなんて……それじゃ私がすっごく悪いヤツみたいじゃない!」
エレナは手を伸ばしてミーナの手を握る。
「別に……居たらいいじゃん。婆さんの養女なんでしょ? 婆さんの【孫】なら、あたしの…い、妹みたいなモンだし?」
「……………え?」
「何よ。文句ある? ………イヤなら従姉妹でも……」
「私、一人っ子だったからうれしい! エレナ……お姉ちゃん?」
友達が兄弟姉妹のことを口にする時の、あのちょっと迷惑そうでうれしそうな雰囲気に憧れていた。別にイイもんじゃないよ、とも言われたけど。
『なんだよお。ミーナには俺がついてるじゃん!』
タオルから顔を出して、ちょっとすねたようにラルが言う。
「そうだけど。家族が増えるのってうれしくない?」
『そお? 闇豹って、だいたい、いつもひとり』
「そっか」
元の世界でも、豹は群を作らない生き物だった。
「ひとりの気ままな自由もいいね」
『だろ?』
そう言ってラルは身体をミーナに押し付ける。もっとなでろ、という意味だろうか?
その矛盾に突っ込みたいけど可愛いから許す!
「それ、ミーナの猫?」
「うん。ラルっていうの。猫じゃなくて闇豹だけど」
「えっ!?」
やっぱり驚かれた。
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