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第一章 迷子と子猫とアガサ村
薪割りクエスト
しおりを挟む「ラル、ダメだよ」
『大丈夫。コロさない』
「ま、ま、ま、待ってくれ!」
よく見ると、前に冒険者ギルドの入り口でぶつかりそうになった人だった。
にらみつけるラルに後ずさりしながら、
「あやしい者じゃない。俺は冒険者のゴッツ」
そう言うと冒険者手帳を取り出して見せた。
「仕事の依頼を受けて……君、アン婆さんのトコの子だろう?」
手帳には「薪割り。2時間程度。20シエル、もしくは初級体力回復薬1本」の書き込み。
「もしかして、おばあちゃんの依頼を受けてくれた人? ついさっき依頼したばかりだよ」
「ああ、そうだ。依頼を見つけた時、ちょうど君がギルドを出てくとこだった。すぐに追いかけたんだが、まっすぐ山へ帰らんようだから、声をかけたもんか悩んでなぁ」
「今日は買い物して帰るんです。色々買う予定だから時間かかりますよ?」
「なら先に行ってる」
ゴッツは立ち上がり、土ぼこりを払った。
「場所は…」
「あー、大丈夫だ。前にも受けた事がある」
ゴッツは頭をかきながら道を戻っていった。
1時間ほどで予定していた買い物が終わった。
帰ろうとした時、肉屋の店先でおいしそうな揚げたてコロッケを発見。買うしかない。これは買うしかないよね!
異世界に行った人が食べ物で苦労する話がよくあるけど、アキツの食文化は当たりです。ありがとう、神様!
「2つください」
「あいよ」
自分の薬を売ったお金があるのでおばあちゃんの分と2つ注文した。
おばあちゃんと夕御飯に食べよう。……あれ?
『これ、うまい?』
ラルが興味津々でコロッケを見つめている。どことなくうれしそう。
…しまった。もう1つはラルの分だと思ってるよね?
「ラル。残念だけど、猫はタマネギを食べられないの。闇豹もダメなんじゃないかなあ?」
『えっ!?』
ものすごいショックを受けた顔で固まってる。
目に涙までにじんできた。そんなにショック!?
「あ、あのっ、タマネギの入ってないコロッケってありますか?」
「…ないねえ」
店の親父さんが申し訳なさそうに答える。
「あっても油が強いから…、ラルには無理かな…」
チラリと足元に目をやると、ラルはションボリとうなだれていた。
「…ラルの分のお肉、買おうか?」
『ミーナとおんなじのが、いい』
ポツリとつぶやく。あああ、どうしよう。
でも猫も犬もタマネギは中毒を起こすって…
「それ、魔獣だろ?」
後ろから声がした。振り向くと冒険者らしい男の人が後ろに並んでる。
「魔獣なら、コロッケくらい食えると思うぜ?」
「本当!?」
ラルも顔を上げて冒険者を見つめる。
「魔獣は普通の動物みたいに食べ物を消化吸収するんじゃなくて、魔素に分解して吸収するらしい。ろくにエサのないダンジョンでも生きてるだろ? 好き嫌いがあるだけで、本当は何でも食えるって話だ」
「コロッケ、3つにしてください!」
「あいよ!」
『やった!』
すぐに注文数を訂正してから少し考え、もう1つ追加して、それは別に包んでもらった。
「アイツの分?」
「そうだよ」
紙に包んだコロッケをカバンにしまう。
「だって驚かせちゃったから」
『アイツが、悪い。ミーナを狙ってるのかと、思った』
「うん、うん。守ってくれてありがと。でも、これからも仕事を頼むかもしれないし…。ラルも今度はおとなしくしててね」
『はいはい』
先にラルの分を買ったせいか、それほど機嫌は悪くないみたい。
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