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第一章 迷子と子猫とアガサ村
誰か、つけてくる
しおりを挟む膝の上に居たラルをしっかりと抱えてカウンターに向かう。
今日の担当はマイナさんではなく、もう少し年上の男性だった。
「冒険者ギルドへようこそ。本日のご用件は?」
「あの、先日、冒険者の登録をしたんですけど、代金がまだで。今日、持って来たんですけど」
緊張しながら冒険者手帳とギルドカードを差し出す。
「ミーナ・ウェスリー様ですね。しばらくお待ちください」
男性はカードに書かれた私の名前と登録番号を確認すると、奥の棚からファイルを取り出し、照合した。
「アガサ村住人には村から補助が出ますので、登録料50シエルになります」
「はい」
おばあちゃんから預かった封筒には10シエル札が5枚。
アキツに消費税はない。ピッタリでいいらしい。
「それでは…さっそく依頼を受けられますか?」
「いえ、今日は時間がないので。代わりにコレ」
必要事項が書かれた紙を差し出す。
「依頼をする方、ですね?」
「はい。おばあちゃん…祖母から頼まれたものです」
仕事の依頼。それは薪割りだ!
毎日お風呂に入るので、薪をだいぶ使ってしまった。
山のように積んであるから平気かと思ってたら、薪は使えるようになるまで一年以上かかるらしい。だから使ったら早めに追加して自然乾燥させるんだって。
いざとなれば魔法で乾かせるらしいけど、量が多いから積んどく方が楽だよね。
「承ります」
職員の男性は受け取ったメモを確認して専用の用紙に書き写す。用紙は複写式で、上の紙に書いた文字が下の紙にも複写される。
手数料を払うと両方の紙に今日の日付のハンコを押し、片方を渡してくれた。もう片方は、すぐに係員が掲示板に貼りに行く。
「よろしくお願いします」
受付の男性に挨拶して席を立つ。
受けられる仕事を探してみたいけど、今日は時間がない。
水銀堂の支店に目をやると、タモト店長が気づいて遠くから手を振ってくれた。会釈して、そのままギルドを出る。
「次は…古着屋さんよ、ラル。そのうちにちゃんと仕立ててもらうけど、すぐに使える服を探すなら、古着なんだって。リサイクルショップだね」
古着屋は商店街の端の方にある。家に帰るには遠回りになるけど、服以外の買い物もあるのでまとめて買い物できる商店街は助かる。
私の足元を歩くラルは何度も何度も後ろを振り返った。
「道は覚えてるから大丈夫だよ?」
『……アイツ、ずっと、つけてくる』
「えっ!?」
ラルが気にしてるのは帰り道じゃなかった。
後ろを見たけど通行人が多く、誰がラルの言う「アイツ」か分からない。
「行き先が同じだけじゃないの?」
『ううん。ミーナを見てるし。大きいのに、ミーナに合わせて、ゆっくり歩いてる』
何だろう。怖い。
思わず早足になる。
…後ろから足音が付いてくる?
買い物客が多い生鮮食料品や惣菜の店を過ぎ、人通りが少なくなった辺りでついにラルが切れた。
『お前、ついて、来るな!』
シャアッ!と牙を剥く。
「うわああああぁっ」
飛びかかるラルを避けようとして尻餅をついたのは、ラグビー選手みたいに体の大きな男の人。
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