黒猫印の魔法薬 〜拾った子猫と異世界で〜

浅間遊歩

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第一章 迷子と子猫とアガサ村

東の果ての黄金の国

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 ホーマーさんが稲荷寿司をたくさんお土産に持って来てくれたので、夕御飯は具沢山味噌汁を作るだけにした。
 甘じょっぱく煮しめたお揚げがおいしそう。
 皮が裏返しになってる方は柚子風味なんだって。何それおいしそう!!

「そういえば、こないだギルドで聞いたんだけど……」
「何だい?」

 自家製の野菜を切るおばあちゃんの横で鰹節かつおぶしをかきながら、気になっていた事を聞いてみる。

「おばあちゃん、イングラ人なんだって?」
「そうだよ。知らなかったのかい?」
「だってニホ……アキツ語がとても上手だから」
「若い頃にこっちに来たからねぇ。もう、イングラよりアキツでの生活の方が長いよ」
「へー。おじいちゃんは、こっちの人?」
「そうだよ。ヤンバで知り合ったんだ。当時、あの辺りに立て続けに穴が開いて……」
「穴? あ、ダンジョン?」
「そう。アキツには悪質な魔物が少なかったのに、いきなり八つも穴が開いて大混乱さ。でも、新しいダンジョンには資源も眠ってる。まだ国際協定のない時代だからね。世界中から冒険者が集まって来たんだよ。それに魔物による被害も甚大でね。それで国を閉ざしていたアキツ皇国も世界に向けて国を開くことになって……」
「へえぇぇ~~~」

 おとぎ話の様なアキツの歴史。
 鎖国をしていたアキツ皇国は、黒船ではなくダンジョンと魔物の到来で政治形態が変わったらしい。
 急激に外国の文化が流入してから、まだ50年も経っていないそうだ。

 アキツ皇国は少し日本に似ている。似ているけど、違う。
 一番違うのは島じゃない事かな?

 南北に細長く、弓なりで、周辺に数千の島々を持つ国なのは日本と一緒。だけど北東部と南西部で大陸とつながっている。つながってはいるが、その部分は高く険しい山脈で隔てられていて、山越えをしてやって来る人は少ない。
 日本海に当たる部分には内海があるが、大陸側は断崖絶壁。内海に船を出せる場所がアキツ側にしかない。
 だから外国から来る人や物は、基本的に海を通って来る。
 グルリと回って外海側の港につけた方が楽なのだ。船の方が荷物も大量に運べる。
 アキツ皇国は、すめらぎを国家元首とする海洋国家だった。



『葉っぱのスープ~?』

 出来上がった具沢山味噌汁を見て、ラルが不満そうにナ~オと鳴く。

『肉がいいよ、ミーナ』
「そうねえ。ラルには肉がいいねえ。でも、今、ないんだ」
「今度、シシ肉をもらってやるから、今日はこれをお食べ」
『あ、これは、割とウマイ』

 ラルは冷やご飯に削った鰹節をかけたものをパクパク食べている。
 鰹節かけご飯を「猫飯ねこまんま」と呼ぶくらいだから、昔から猫にやったりしたのかも。でもペット文化や栄養学のある日本から来た私から見ると、

「うん。タンパク質が足りない」

 どうしても気になる。
 ラルも猫まんまを食べ終わると、を探しに出て行ってしまった。

「ねえ、おばあちゃん。アガサ村で肉って買える?」
「買えるさ。ただ、ホーマーに何から何まで頼むのも気が引けてね」
「じゃ、私が行く。カバンもあるし」
「そうだねえ。この際、色々と買ってきてもらおうかねぇ」

 二人で買いたい物を話し合い、それからお風呂に入って寝ることにした。
 たぶん、まだ夜の八時半くらいだと思うけど、アキツの夜は早いのだ。




 ピギッ! ガサガサ……バキッ……


 変な音で目が覚めた。

 ピギッ! プギッ! シャアッ

 家の外から奇妙な音が聞こえてくる。

「………な、何の音?」

 思わずつぶやくと、隣の布団でおばあちゃんが起き上がる気配。

「こりゃ、猪だね」
「イノシシ?」

 確かにちょっと豚っぽい鳴き声?
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