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第一章 迷子と子猫とアガサ村
おいしいごはん
しおりを挟む「裏の畑には薬草だけでなく野菜も植えてある。それを狙って来たのかもしれん」
「………こっちに来る?」
「家の中までは来ないさ。でも食べ頃の野菜の味を覚えて通われると厄介だねぇ」
おばあちゃんがつぶやいたその時、
バチッ ドン! ピギャッ……!!
外で衝撃音と共に閃光が走り、ひときわ大きい声を上げてイノシシが静かになった。
「一体、何が……」
おばあちゃんは枕元に置いてあるランプに手をやり、明かりをつける。
コンセントに繋がってないから乾電池式だと思っていたら、魔晶石というのを利用した魔法の道具なんだそうだ。
「大変、おばあちゃん。ラルがいない!」
「え?」
「寝る時は一緒の布団に居たのに、どこにも居ない」
キョロキョロと部屋を見回してると、
『ミーナ!』
ラルの声がした。
『俺、ココ。ココだよ』
外だ。
おばあちゃんが細く雨戸を開け、二人で恐る恐る外を見る。
山側の裏庭にはイノシシが横たわっていた。首の後ろが焦げている。
体の上には、誇らしげなラルの姿。
『肉、ある!』
そして、へへっと笑った。
ラルが狩ったイノシシは、早速おばあちゃんが処理を始めた。すぐに血抜きをしないと肉が臭くなってしまうんだって。
『倒すのは、一人でできるけど、運ぶのが、できないから、ここまで追い込んで、来たんだ』
「へええ、すごいね」
『なんだよう、ミーナ。うれしくないの? 肉だぞ、肉!』
そうか。肉がないって言ったから、獲ってきてくれたのか。
「うれしいよ。ちょっと眠いのと、……驚いただけ。ありがとうね、ラル」
『へへっ』
抱きしめてほおずりすると、ラルはクニャリと柔らかくなって体を預けてきた。
可哀想、って言うのは簡単だ。でも、たぶん偽善だ。
日本のスーパーに並んでいる肉だって元は生きていたんだし。
ラルが皆で食べようと思って獲ってきてくれたんだもの。「ありがとう、いただきます」って手を合わせて美味しく食べるのが一番良い方法だろう。
「またこれを使う事になるとは思わなかったよ」
おばあちゃんは作業着に着替えてゴツい手袋の付いたチョッキのような物を羽織った。あれも魔法の道具かな?
「素早く動けないから戦闘には使えないけど、力仕事にはコレだね」
マスク代わりの布で口元を覆ったおばあちゃんは、大きなイノシシをヒョイとかつぐと高い木の下へ持って行き、枝につるした。その下に汚物を埋める穴を掘り、血抜きをする。
血管を傷つけた後、イノシシの体に魔力を通して心臓を動かし血のめぐりを早めるらしい。電気ショックで心臓マッサージをするみたいな感じ?
「ダンジョンの近くに町や村があるとは限らないからね。昔はよく野営をしたもんだ。誰かが狩ってきた獲物をこうやって食べられるように処理して……懐かしいねぇ」
「おばあちゃん、冒険者だったの?」
「そうだよ。男より腕力や体力が弱い女でも、魔法が使えりゃ入れてくれるパーティもあったから……ああ、今じゃ普通の事だけど、昔は女がつける仕事が少なくてね。給料も安いし。でも冒険者なら、危険だけど稼げたんだよ。ヤンバじゃ金まで採れたからね。イングラで数年、そのあとアキツに渡って来たんだ。もう探索の方は引退したがね」
おばあちゃん、生き生きとしてる。若い頃を思い出してるのかな?
「うん、致命傷以外にケガはない。リンパも腫れてないし、健康な若い個体だ。いい獲物を選んだね、ラル」
『えへへへ…』
「これならレバーも食べられそうだよ。内臓を抜いたらしばらく水にさらして……ミーナ? 大丈夫かい?」
イノシシの解体を見てたら、ふうっと気が遠くなった。
月明かりの下で、血が赤く見えないから平気かと思ったら、濃い血のニオイと流れ落ちる内臓を見て気持ち悪くなってきた。
「後はあたしがやっとくから先に寝てな」
『ばあちゃん、俺、ミーナに付いててやるから、肉、とっといて』
「あいよ。ラルの分もちゃんと取っとくよ」
ミャオミャオと鳴くラルの声は、おばあちゃんには言葉として聞こえてないはずなのに会話が成立してる。おかしいの。
「うん……おやすみ……」
私はラルを抱え、のそのそと這うように寝室に戻る。
スローライフは、結構、ハードだ。
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