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第1章 初めての旅
野宿も楽し
しおりを挟むカブが売れて空いた場所には、買い付けたばかりの漬物の大きな樽が3つ置かれた。どれも違う種類の漬物らしい。ウモグル村の塩漬けとは違い、少し酸っぱい匂いがする。
「この樽は、寄りかかると服に匂いが移るから気をつけろよ」
樽をロープで固定しながらマグリーが言う。美味しい漬物は好きだけど、漬物の匂いの服はちょっと嫌だなぁ。
荷台に積まれた商品は、そういった配慮をしながら置き場所が決められているらしい。ウモグル村で買い付けた毛織物も、匂いや汚れがつかないように上の方にある網棚に置かれている。
ようやく、馬車の中に座れる場所ができたが、私はそのまま御者台に乗って行くことにした。
御者は交代。今度は隣にマグリーが座って手綱を持った。
「次はナグライ村だ」
「よく覚えてるね、マグリー」
「そりゃ、毎月、回ってんもん」
旅と言っても移動のスケジュールは決まっている。毎月、決まった日に立ち寄る行商人を、どの村でも楽しみに待っていた。
ナグライ村では雑貨を売り、燻製を仕入れた。肉や魚、卵の燻製まである。
売買が終わるともう夕方が近かった。
この後は村の空き地に馬車を停めさせてもらい、そこでキャンプする。
村人や村長さんのお宅に泊めてもらえる村もあるらしいが、そんな時でもデレファンは馬車の見張りを兼ねて荷台で眠るんだって。
大きな町に着いたら、ちゃんとした宿屋にも泊まる予定らしい。
でも今日はキャンプの日。
荷馬車を風除けにしてテントを張る。
「すまないね、ミリアナ。乗合馬車なら村ごとに客が乗り降りしても、もう少し速いだろうが」
「ううん、とっても楽しい。ルーベンさんの馬車で良かった! ご飯もいっぱいあるし」
馬車から少し離れた所に火を起こし、燻製肉と野菜と穀物を入れた雑炊スープを作って夕食にした。豪華な食事ではないが量は充分にある。もちろん、ウモグル村でもらったカブも入っている。ベーコンの脂から出たうまみが染みてとっても美味しい。
馬も水を飲み、飼い葉にカブの皮や葉を混ぜたエサを食べている。
「たっぷり食べな。ミリアナの旅費として、かなり受け取ってるしな。あの金、用意するの大変だったろ?」
「仕事の勧誘に来たおじさんが送ってくれたの」
「前金じゃなくて?」
「給料とは別よ。そもそも面接を受けに行くんだから、採用されるかはまだ分からないの」
「金持ちだな。何の仕事だろう?」
「ハッキリとは教えてくれないの。魔法に興味ある?とか、木や花は好き?とか聞かれた。世話といえば世話のようなものかも、だって」
「変な仕事じゃないだろうな。父さんはその人、知ってるの?」
マグリーににらまれたルーベンさんは、眉を上げ、
「直接知っているわけじゃないが、知り合いの職人が懇意にしているそうだ。それに、マホテアでは役所関係の仕事をしているそうだよ。おかしな人物ではあるまい」
「ははーん、もしかして……」
デレファンが何か思いついたらしい。
「きっと、あれだよ。大金持ちの大奥様、つまり先代の奥さんが歳をとったせいでちょっと頭が弱くなってしまって、その身の回りの世話とかじゃないかな? 暴れたり騒いだりしなくても、色々思い出せなくなったり今までできた事ができなくなったり。身内だとそういうの見てるだけでもツライだろ? 一緒に花を育てたり話し相手になったりするんだ。名がある家だから、大っぴらに事情を話して回れないのさ」
「兄さん、すげえ! ありそう!」
「もしそうだったら、私、一生懸命にお世話するわ!」
「う~ん、どうかねぇ……」
赤ワインに蜂蜜とスパイスを入れ、お湯で割ったものを飲みながらみんなでおしゃべり。
私の分はワインを少なめにしてくれたけど、グッと大人になった気分がする。
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