上 下
7 / 40

ニーナとペガサス

しおりを挟む

「とりあえず学院に帰ろう」

 まだ完全には回復していないが、転移魔法陣までたどり着ければ後は魔法で送ってもらえる。

「あ、あのっ。ぼくも連れていってもらえますか?」

 不安そうな子供。
 こんな小さな子が『神々の島』にいるなんて。
 畑番のおじさんみたいに島の住人か、施設職員の子供だろう。

「なんだ、迷子か。大体の場所は分かるから一緒に帰ろう」

「ありがとうございます!」

 輝くような笑顔で元気よく返事をする。

「ぼく、クオンタムと言います。よろしくお願いします」

「俺はライゼル。アトラ聖獣学院の学生だ」

 ピピユ、ピピユ、ピー

 小鳥が鳴きながら飛んで来てクオンタムの肩に止まる。
 他と少し色の違う青と白の小鳥には見覚えがあった。

「あれ? お前…」

「この子がここまで案内してくれたですよ。そしたらライゼルが倒れてて」

「そうか。今度は助けられたな。ありがとう」

「ピ!」

 小鳥は元気よくひと声鳴く。が、すぐに逃げるように飛び去る。
 上空に何かが現れたからだ。
 人間より大きい聖獣が空を飛んでいる。

 さっき見たゴールドドラゴンはあんなに大きくはなかった。
 俺とクオンタムは近くの木の下に身を隠す。
 『神々の島』には大陸にいるような魔獣は存在しないはず。けれども全ての聖獣が人間に従順かと言うと、そうでもない。
 特に体の大きな聖獣は力が強いので、悪気がなくてもちょっとした事で事故につながりやすい。テイムするつもりでなければ、やり過ごすのが一番だ。

「ライゼルーッ」

(んんん?)

「ライゼル、どこにいるのー。返事をしてーっ!」

 必死に俺を探している。あの声は……ニーナ?

「ニーナ! ここだ!」

「ライゼルッ!!!」

 木の影から出て見上げると、聖獣の上にはニーナの姿。
 呼びかけに気付いて俺を見つけたようだ。
 翼を持つ馬、真っ白なペガサスにまたがったニーナが空から降りてくる。

「ライゼル! 良かった……生きてたのね」

 泣いている。
 カチュアからは「泣き虫ニーナ」と呼ばれているニーナだけど泣きすぎだ。

「だって……ヴォスラ火山のガケから落ちて、死んだって聞いて……ヒック」

「ええ!?」

 いや、合ってるか。
 チビ助が同化して助けてくれなければ、あのまま死んでいた。

「色々あって……。それよりこのペガサス、お前の?」

 俺は話をそらした。
 あのジークが人殺しなんて、自分でもまだ信じられない。

「うん。ついさっき契約したの」

「へえ~~~っ!」

 思わずマジマジと観察する。
 大きな翼を持つ純白の馬。伝説上にしか存在しない聖獣ペガサス。
 俺には全く目をくれず、素知らぬ顔をしているがそれとなくニーナを守っている。
 もしも俺がニーナに良からぬ事をしようものなら、この場で蹴り殺されてしまうだろう。

「スゲー! カッケー!! いいな、伝説種レジェンド!」

 それを聞いた途端にニーナの目がキッと釣り上がった。

「そりゃ伝説種レジェンドはみんな狙ってるけど……。だからって、何であんな馬鹿な事をしたの? ライゼル!!」

「はあ?」

 どう言う意味だ??



 俺たちは転移魔法陣まで徒歩で移動した。
 舗装されていない山道なので、雑草や石がゴロゴロしていて歩きにくい。
 ニーナはペガサスで飛べば早いのだが、俺とクオンタム…クオが歩くので一緒に歩いた。
 その道すがら、俺はずっとニーナから説教をくらっていた。

「聖獣と契約するのは、ただ野生動物を捕まえるのとは違うのよ?」

「?、…うん」

「誰だって勢い余ってやりすぎたり感情的になったりはあるけど、やったらマズイ事の判断くらいはつくでしょ!?」

「うん…」

「気持ち、分からなくはないけどさ。それでライゼルが死んじゃうなんて嫌だよ」

 俺が大人しく返事をするので少しは反省してると思ったのか、激怒していたニーナも落ち着きを取り戻したようだ。
 怒られてる俺の方は何が何だかサッパリなのだが、隣を歩くクオがたびたび転びそうになるので手を引いてやるのに忙しい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

田舎土魔法使いの成り上がり ~俺は土属性しか使えない。孤独と無知から見出した可能性。工夫と知恵で最強に至る~

waru
ファンタジー
‐魔法-それは才能のある者にしか使えぬ古代からの御業。 田舎に生まれ幼い頃より土魔法を使える少年がいた。魔法が使える者は王の下で集められ強力な軍を作るという。16歳になり王立魔法学園で学ぶ機会を得た少年が知ったのは属性によりランクがあり自分の属性である土は使う者も少なく最弱との事。 攻撃の火・回復の水・速度の風・最強の光と闇・そして守りの土。 その中において守りや壁を作り出す事しか出来ない土は戦場において「直ぐに死ぬ壁役」となっていた。役割はただ一つ。「守りを固めて時間を稼ぐ事」であった。その為早死に繋がり、人材も育っていなかった。土魔法自体の研究も進んでおらず、大きな大戦の度に土魔法の強者や知識は使い尽くされてしまっていた。 田舎で土魔法でモンスターを狩っていた少年は学園で違和感を覚える。 この少年研究熱心だが、友達もおらず生き残る術だけを考えてきた 土魔法しか使えずに生きる少年は、工夫によって自身の安全を増やして周囲の信頼と恋慕を引き寄せていく。 期待を込めて入った学園。だがその世界での常識的な授業にもついていけず、学業の成績も非常に低い少年は人と違う事を高める事で己の価値を高めていく。 学業最低・問題児とレッテルを張られたこの少年の孤独が、世界と常識を変えて行く…… 苦難を越えた先には、次々と友達を得て己を高めていく。人が羨ましがる環境を築いていくが本人は孤独解消が何よりの楽しみになっていく。…少しだけ面倒になりながらも。 友人と共に神や世界の謎を解いていく先には、大きな力の獲得と豊かな人脈を持っていくようになる。そこで彼は何を選択するのか… 小説家になろう様で投稿させて頂いている作品ですが、修正を行ってアルファポリス様に投稿し直しております。ご了承下さい。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

処理中です...