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あじさい祭り

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「さあ、どうぞどうぞ」
「すいません。また、こんなにたくさん いただいてしまって…」

 帰りぎわ、またしても紙ぶくろいっぱいのピーマンを おみやげにもらってしまいました。ママもパパも笑顔でお礼を言います。もちろん、わたしも。

「このピーマン、いて しょうゆをたらすと、ビールにもごはんにも よくあいますねえ! いいんですか? こんなに」

 パパはもう、すぐにでも食べたそうな顔をしています。

「どうか、お気になさらず。特にピーマンは 次から次へと できるもので。ムダにしたくありませんし、食べていただけるなら助かります」

 おぼうさんは、自分が食べる分と ほとけ様におそなえする分を作ろうと 畑を始めたのだそうです。でも今では作るのが上手じょうずになりすぎて、食べるのに くろうするくらい できてしまうんだって。

 もう一度 あいさつをして帰ろうとしたその時、応接室おうせつしつの かたすみに はってあるポスターが目に入りました。

『 あじさい祭り 』

 変わったアジサイと お寺のイラストがえがかれたポスター。どうやら蓮行寺れんぎょうじで行われる祭りの お知らせのようです。

「お祭りですか?」

 ポスターに気がついたパパが聞きます。

「ああ、コレは…」

 おぼうさんは、ちょっと こまった顔をしました。

「年に一度、山の上の本殿ほんでんから本尊ほんぞんをおむかえして、お盆に公開するのですよ。その時に、いっしょに夏祭りをやるのです。山アジサイの花にかこまれ、いくつもの屋台がならぶ、とても楽しい祭りでした。ですが 三年前、大型台風がこの辺りを直撃して、ひどいガケくずれが起きたのです。さいわい、村人に ひがいは出ませんでしたが、本殿との間の道がふさがってしまって…」

 その道が今でもまだ通れないため、ほとけ様をこちらにおむかえする事ができず、それ以来、お祭りは開かれてないのだそうです。
 そう言われると、ポスターは少し色あせて、古いものに見えます。

「山をぐるっと遠回りして、本殿の掃除そうじやおそなえにはまいりますが、その道はけわしく、往復おうふくで五時間以上かかります。もちろん、車は通れません。村内の復旧ふっきゅう工事がこんなに長引くとは思っていなかったもので…」
「ざんねんだわ」
「また お祭りが開かれるようになったら、かならず来ますから!」
「ぜひ、みなさまでおいでください」
「うん。ぜったい来る!」

 わたしたちは、おぼうさんに約束やくそくして 蓮行寺を後にしました。
 車に乗り、お寺の駐車場ちゅうしゃじょうを出ようとした時、

「あ!」
「どうした? いずみ」
「……ううん、何でもない」

 いっしゅん、あの二ひきのネコたちが お寺のかげから こちらを見ている気がしましたが、きっと気のせいでしょう。
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