上 下
31 / 48
第4話 アンダンテで行こう★

ダンジョンの掃除屋

しおりを挟む

 地下1階は石造りの回廊になっている。遺跡の地下構造なのか、地上にあった建造物が陥没したのかは分からない。時代は古そうだが、当時の技術としては丁寧に作られた最先端のものだったのかもしれない。古い石のブロックは風化しているものの、構造はしっかりしている。所々、欠けたり抜け落ちたりしてる部分はあるが、天井や壁が崩落しそうな気配はない。

「キイッ」

 曲がり角から、小さな影が飛び出す。灰緑色のシワだらけの肌、骨の浮き出た歪んだ体、ゴブリンだ!
 ギルドの講習で習った内容を思い出す。
 この階のゴブリンは、もっと下の階に住むゴブリンの群れから追い出されたハグレだ。凶悪そうに見えるが、群れで最弱の個体と思っていい。落ち着いて行動すれば負けることはない。

「フン!」

「あったれえ!☆」

 ゴブリンがリトとピップルの攻撃で倒される。
 リトは細身の反りがある剣を2本、逆手に握った双剣使い。ピップルは何と両手持ちのブロードソードをぶん回している。どちらの武器もパパラチアキャットの手に馴染むよう小ぶりに作られているが質は良さそうだ。
 そこそこ敏捷性の高い俺よりも猫達はすばやく、俺が攻撃する前に戦闘は終わった。もちろんステップを踏む時間なんかない。
 ゴブリンて、ほんと弱いな。いやいや、人間だってナイフのひと突きで死ぬこともある。油断は禁物だ。

 次の敵は半壊した扉の影から飛び出して来た。
 やっぱりゴブリンだ。そしてあっという間に倒される。今回も俺の出番は無し。
 1階を徘徊するモンスターのほとんどがゴブリンだ。ゴブリンは骨格的には人間に似ているが、人間とは全く違う魔法生物で、泥のように濃い瘴気から発生するとも言われている。
 ラヴィ達と1階を通り抜けた時も、出て来たモンスターの半分以上はゴブリンだった。残りは大きなネズミと……

「うぇっ」

 汚物臭いゴブリンとは別の、鼻を突くツンとした匂い。ヌメヌメと光る粘液の塊が石ブロックの隙間からにじみ出てくる。ポップルがカンテラを掲げると、直径1mほどのぶよぶよしたモノが這うように動いている。可愛い顔がついてるタイプではない。

「これ、スライムか?、リト。本物!?」

「ああ。見るの初めてか?」

「居るとは聞いてたけど、こないだは急いで移動したから」

「そうか。ユウキ、スライムは……」

「分かってる。ダンジョン内のゴミやモンスターの死骸を処理してくれるから倒さないんだろ? ギルドで習った」

「襲われた時は別だけどな。ピップル?」

「大丈夫。魔石は取り出したよ」

 倒したゴブリンの側で作業していたピップルが立ち上がり、スライムの通り道を開ける。スライムはピップルには見向きもせず、ゴブリンの死骸に這い寄り、おおいかぶさった。ゴブリンはゆっくりとスライムに取り込まれてゆく。

 モンスターの体の中には魔石と呼ばれる魔力の結晶がある。魔法生物である彼らの命の源のようなものだ。質と大きさによって値段は違うが、魔石は冒険者ギルドで買い取ってくれる。加工品に使える角やウロコ、武器やアイテムなどの所持品がなくても、モンスターならば必ず体内の中央辺りに魔石があるため、モンスター討伐は冒険者の収入に直結している。

 その後も、戦闘では俺に攻撃の順番は回って来なかった。俺だけでなく、ポップルにも。彼女の場合は攻撃手段が魔法なので、魔力の温存が目的だが。
 俺が攻撃するまでもなく戦闘が終わってしまうので、自然と2・2での移動になっている。後列になるなら、何か遠隔攻撃の手段を持った方が良いかも知れない。ギルドで教わった水魔法は生活魔法とも呼ばれる簡単なもので、攻撃に使えるようなものではない。

 地下2階は1階よりも通路が狭いので、結局1列に並び直す。

 戦える強い冒険者が先頭を歩くのは当然だが、一番後ろを弱い冒険者にしてもいけない。背後から敵に襲われる事もあるからだ。今日は後ろから強そうなギルド職員達がついて来てるのでバックアタックはないだろうが、いつも通りに行動してと言われてるので彼女達は考慮しない。

「じゃ、ユウキが前ね」

「待って! ちょっと待ってポップル」

 いくら軟弱な俺でも小柄な女のコ猫よりは強いと信じたい。いや実際には魔法が使える彼女の方が強そうな気はするが、俺の方が体が大きいから物理的に耐久高そうだし、何より可愛い猫を盾にするようじゃ人間として終わってる気がする。……前衛も猫だけど。

 結局、リト、ピップル、ポップル、俺、の順番で歩く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!

日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」 見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。 神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。 特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。 突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。 なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。 ・魔物に襲われている女の子との出会い ・勇者との出会い ・魔王との出会い ・他の転生者との出会い ・波長の合う仲間との出会い etc....... チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。 その時クロムは何を想い、何をするのか…… このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……

ユニークスキル「ダンジョンショートカット」が無敵すぎる件について

ss
ファンタジー
ここは「スキル」という特殊な能力が存在する世界。そんな世界の田舎町で生まれた"ルイ・ルーク"は7歳の頃にスキル持っていない「スキル無し」と告げられる。 落ちこぼれとされているルイ・ルークには実は隠れざる唯一無二のスキル、ユニークスキルというものがあり、そのユニークスキルは神が創造した「ダンジョン」というものを容易にクリア出来る「ダンジョンショートカット」というものである。 このダンジョンショートカットを使い、ルイ・ルークは英雄になることを目指す。 ※本気で執筆してるためhotランキングに載らなかったら打ち切りにさせていただきます。何卒、応援のほどよろしくお願いします。

契約スキルで嫁沢山!-男少女多な異世界を正常なる世界へ-

Hi-104
ファンタジー
HOT2位 ファンタジー12位ありがとうございます! 慌てて乗った電車は女性車両、しかも周りは女子中高生だらけ… 女子中高生に囲まれたまま異世界召喚発動! 目覚めた先に婆さんが現れて男女の比率が狂った異世界を救えと… 魔王は倒さなくていいって?でもゴブリンどもは皆殺し? チートも伝説の武器もくれないって?唯一貰った物がこれって… あまり期待されていない感じがするが気のせいだろう… そしてついに!女子中高生の待つ場所へ送ってくれると婆さんがおっしゃった! いざ楽園へと旅立つがそこに待ち受けていたものは… 記憶力に自信がない主人公はしっかりと使命を忘れずにいられるのか!? 異世界で幸せを掴めるのか!?世界を救ったりできるのか!? ちょっとおバカで、たまに真面目そんな物語の始まりです。

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。 光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。 目を開いてみればそこは異世界だった! 魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。 あれ?武器作りって楽しいんじゃない? 武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。 なろうでも掲載中です。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...