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第1話 踊れ★情熱★パパラチア!
ダンジョンと冒険者
しおりを挟む「ユウキ。今日のダンス、全然ダメだったぞ」
「ゆうき、へた。ぼく、うまい」
「ご、ごめん。緊張しちゃって…」
「後半は良かったナー」
ステージの裏で飲み物を飲みながらの反省会。
「あの…っ、パパラチアダンスについて教えてくれないか?」
「ダンスはみんなを幸せにするナ」
うんうん、と周囲の猫達もうなずいている。
「それって、魔法なんですか?」
「「んー…」」
みんな首をひねって考え込む。
「よく分かっていないのよ。アレが何なのか」
答えてくれたのは、飲み物の差し入れをくれたエルフのルーフィエルさん。今朝、朝食を食べに行ったカフェ「カレンデュラ」の店員さんで、親切で優しいお姉さんなんだけど、エプロンを付けてお盆を持ってるエルフって絵面だけで笑い出しそうになって困ってる。
「聖職者による祝福に似てるんだけど、それよりもっと威力が大きいの。効果は丸一日しか続かないけど、戦闘が楽になるからダンジョンに潜る冒険者はみんな猫ダンスを見てから冒険に行くわ」
「ダンジョン? 近くにダンジョンがあるんですか!?」
「あらあら。このネコランドの真ん中にあるでしょう?」
通路沿いで見かけた案内板にあった園内イラスト地図を思い出す。いびつな楕円形のネコランドの中央には遺跡の存在を示す絵と文字があった。観光地にあるような古い城や神殿の跡なのかと思ってたけど。
「あの遺跡……?」
「そうよ。地上の入り口はそれほど大きくないけど、中はとても広いし深いの。あれを目当てに冒険者が集まるから、私たちの商売も成り立つってワケ」
ネコランドは、アトラクションの代わりにダンジョンがあるテーマパークなのか!?
もっと聞きたい事があったが、ルーフィエルさんは飲み物が入っていたポットとカップを片付けて職場のカフェへと戻って行った。
「ゆうき、ダンス、れんしゅう、する?」
首をかしげてチビスケが聞く。
「これから店の手伝いなんだ。次の公演の後、ここで練習してもいいかな?」
「うん。ぼくも、れんしゅう、する!」
「仕方ねえ、ちょっと見てやるよ」
「ありがとう。チビスケ、リト」
タイショーのラーメン屋「ぐるぐる」は朝10時開店だが、急いで戻ると店の前にはもう並んでる人がいる。繁盛してるってのは本当みたいだ。
「おう」
列の一番前に並んでいたおじさん……て言うにはまだ若いか。イケメンのおにいさんが声をかけて来た。
知らない人のハズだけど?
「坊主、昨日、猫達と一緒に踊ってただろ?」
「あ、そです」
昨日のステージを見ていた人らしい。そう言えば居たかも。金属の鎧を着てた人だ、たぶん。筋肉がすごい。やっぱり鎧も武器も重いんだろうな。
「人間? それとも変身したパパラチアキャット?」
これは隣のお姉さん。魔法使いっぽい格好をしてた人だと思う。顔にあるワンポイントの不思議な紋様に見覚えがある。描いてるのかな? イレズミかな?
魔法使いと言うとヒョロガリのイメージがあったけど、彼女もそこそこ筋肉質だ。研究職じゃなくてダンジョンで冒険する様な魔法使いは、自分の足で歩いて戦士について行くから鍛えられるんだろう。
2人とも、私服だと普通の人に見えるな。スポーツインストラクターのお兄さんが同僚のお姉さんを連れて街のラーメン屋に並んでる感じ。スマホみたいな板状の物を手に持ってるから余計にそう見える。
「人間です。フツーの」
「普通の人間はあのステージに上がれん気もするが」
「そうなんですか?」
「なんか結界みたいなのがあるんだよね」
「へー」
結界を越えるんじゃなくて中に出現したから大丈夫だったんだろうか?
「おーい、悠希か? 帰って来たのか?」
店の中からタイショーの声。
「あ、いっけない。仕事仕事。あと少しで開店ですので、もうしばらくお待ちください」
そう言ってガラス戸を細く開け、ただいまを言いながら体を滑り込ませた。
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