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第四十八話 大掛かり過ぎて気付けない

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 俺がエイルと、ガルドルフがパメラ嬢とわだかまりを解き、しっかり種付けしてスッキリした翌日。

 教皇の間の机をひっくり返し、俺、ドネア、マグス、キリルの四人は魔術で隠された地下格納庫を暴いていた。中は暗く狭く何もなく、天井に精緻な魔法陣が刻まれているのみ。

 どんな代物かは見ただけではわからないが、詳細を聞いた今は確認無しにさっさと壊す。

 プラスチック爆弾を放り込み、蓋を閉めて部屋外に退避。

 起爆スイッチを押して爆音を轟かせ、埃が落ち着いたらぽっかり空いた穴を確認する。破片に残る虹色の軌跡が破壊成功を表していて、四人揃って同じようにため息を一つ吐いた。

 ――――知らなければ、こんな代物に気付けるものか。


「これで、向こうからこっちへの入れ替えはもうできないのよね?」

「ガルドルフが言うには、その筈だ」

「後は、この部屋の大理石を産出した鉱山を攻略すれば終わりか…………にしても、向こうとここに全く同じ部屋を作って、何かあれば部屋丸ごと相互転移とか規模が大きすぎだろ…………この部屋だけで、三階建ての家がすっぽり収まるんだぞ?」

「まぁ、腐らずに前向きに行こうじゃないか。鉱山の場所はわかってんのか?」

「徒歩で一週間の山岳だ。車両で行けば一日で着ける」


 四人連れ立って部屋を出て、廊下を過ぎて中庭へ。

 中世貴族の屋敷にありがちな、噴水付きの豪華な庭園。野球場並みの言葉が浮かんで、整列する一団は物騒さで比較にならない。

 身を包むはユニフォームではなく、防弾防刃のジャケットとズボン。

 手に持つはバットとグローブではなく、大口径フルオートショットガンやアンチマテリアルライフルの重装備。

 俺とマグスの分隊が、殺戮殲滅の命令を待つ。


「総員、ドネア中佐に傾注!」


 張り詰めた雰囲気に緊張と緊迫を更に足し、一人の差も無く軍靴を鳴らす。

 指揮官として部下達の見事を誇りに思い、無用な悦には入らない。これから行うは一切の無駄を省いた冷酷と非道。人道を脇に置いた慈悲無き行進であり、優先すべきは目的の達成と自身と仲間の生還のみ。

 それ以外は、他者の生命すら些末事だ。


「これより、エルデナク教皇の追撃作戦を行うわ。最終目標は対象の殺害。生け捕りの必要は無し。サイトに入り次第撃ちなさい。邪魔をする者も同様よ。ただ、不運にも命が残ってしまった場合は手足と喉笛を潰してカゲツに渡して」

「逃亡先の情報提供者は、エルデナク教皇とオーラン大司教の止めをご所望だ。俺のストレージに一時保管し、公開処刑を行わせる」

「繰り返すけど、もし、万が一、生きていた場合のみの話よ? 怪しい素振りを見せたら躊躇せず殺しなさい。自分と仲間の生存が第一。任務の遂行が第二。危なくなったら、貴方達の隊長に押し付けて任せなさい」

『了解っ!』

「よろしい。では、全隊行動開始!」


 ドネアの号令に、三つの部隊に別れて外へと駆ける。

 互いのアサルトマンとスナイパー同士を一つのセルとし、俺達を含めて五人編成の隊を作った。急襲制圧の俺、陽動工作のマグス、後方支援のドネア。キリルは駄々をこねて俺と一緒で、エイルはドネアの補佐に付く。

 …………ようやっと終わるんだな。

 この世界に生まれてから、ずっと続いていたエルデナクとの戦争が。


「そういやドネア。大将と連絡は取れたのか?」

「えぇ。カゲツが魔王を篭絡して、こちらに付けたと報告したわ。今頃本隊は大騒ぎよ?」

「魔王と言えば、カルネリアは連れて行かないのか? あんなにカゲツにべったりで、離れる度に頬を膨らませて不機嫌になるのに」

「…………もう現地に向かってる」

「……は?」


 目を丸くするキリルの反応に、俺とドネアは苦笑した。

 実力的にも人員的にも、カルネリアは科学式の軍隊で持て余す。当初は単身遊撃を任せようかと話をしていて、本人からもっと簡単な方法があると笑顔で言われた。

 『私が終わらせてきますわ』と。

 普通なら、この上なく心強い言葉だろう。しかし、ノディク軍が迫る中でも教皇は余裕を持っていたと聞く。リュエラ改め二十九番の進言を重視し、俺達の到着までは偵察と防御に徹するよう言いつけていた。

 守れなかったら、目隠ししてバイブ突っ込んで緊縛して、同室でドネアとキリルとエイルを孕ませると脅してもある。

 仲間外れの放置プレイはキツイだろ?


「強者故の驕りって奴だ。相応の実力があるからこそ、弱者を見誤る。本当の弱者って奴は、追い詰めた時が一番怖いってのにな……」

「仕方ないわ。私達と違って、カルネリアはカゲツとの繋がりがまだ薄いもの。少しでも役に立って、気を惹きたいって思うのは当然よ」

「あぁ、わかる。カゲツが女を抱いてる時、『自分の女』って感じが強いから、何か取られそうで嫌なんだよな。一番と二番を手に入れた時なんて、私の事を忘れてるんじゃないかってくらい相手してくれなかったし」

「今度教えてやってくれ。そういう時は気にせず混ざれって」

「嫌だよ。自分で言えって」

「お~い、お前らっ。さっさと行くぞっ?」


 急かすマグスの手振りを見て、俺達はそれ以上を切り上げた。

 緊張感のない会話はここまで。ここから先は、緊張どころか重圧が絶えない死地への旅路だ。精々死なないよう気を張って、迫る死神共にたっぷりの銃弾爆弾を喰らわせてやる。

 もう少し。あと少し。

 それで、ひとまずの終わりが訪れるのだから。
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