しなずち ~転生触手妖怪 異世界侵略風味、褐色爆乳女神と現地収穫の巫女衆を添えて~

花祭 真夏

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第165話 夜明けは始まり。良くも悪くも

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 十メートル程の大蛇の姿で、夜の海を沖に泳ぐ私の分体。

 くねくねくねくね身体をよじらせ、背に乗せるは仏頂面の爆乳アイドルだ。現役時代に着ていたと思しき吊り下げ式の前掛けビキニに身を包み、二秒に一回、爪を立てて背中の鱗を指でつつく。

 凄く…………凄く不機嫌です。

 皆の前で全裸と絶頂とあられもない姿を晒した上、呆けた頭のまま私に滅茶苦茶に犯された。楽しむ余裕もなく快楽を快楽で上書きされて塗りつぶされて、ノーマルに戻れなくなったらどうするんだ責任取れと何度も何度も怒られた。

 ひたすらにひたすらに謝って、本作戦中は彼女の分体に意識を移す事で許して貰えはした。ただ、完全に許されたわけではない。どんな報復をしようかと、巫女衆最高の頭脳はずっと思考と思案を回し続けている。

 どうか程々にお願いします…………。


『ノーラ、機嫌直して……?』

「ん~? 別に怒ってなんてないわよ~? 八十回もしたのに追加の分体は二人だけとかケチ臭いなぁ~とか、シムナの出産絶頂が見れなかったのが残念でならなかったなぁ~とか、別に全然これっぽっちも気にしてないから~?」

『ごめんってばぁぁぁぁ…………うぅうぅぅ……』


 刺々しい責めに心を滅多刺しにされ、滲む涙を広大な海へと混じらせる。

 いくら謝罪を重ねても、どんなに代償を捧げても、彼女のへそは見た目と違って大きく歪に曲がっている。あんなに指と舌でたっぷり嬲って解したというのに、余計に拗れて絡まって逆効果だったのだろうか?

 あんなに激しく喘いで、白目剥くくらい悦んでくれたのに……。


「そんな事より、そろそろ夜明けでしょ? シムナ達はどう?」

『うん。シムナ隊、リザ隊、ヒュレイン隊、ナレア隊、ディユー隊、全部行動を開始した。でも大丈夫? この作戦、ノーラが一番危険だよ? シムナに任せた方が良かったんじゃない?』

「私はいつまでも下にいたくないのっ。新しい巫女が増える度に私を視界から外すくせにっ。知の女神の元尖兵は伊達じゃないって思い知らせてやるんだからっ」

『だからって、ジャヌール神を待ち伏せポイントまでおびき寄せるのは…………三体分って言っても、分体だけの力じゃどこまで対抗できるかわからないよ?』

「しなずちは見てれば良いのよ。戦いってのは、魔術や腕っぷしだけでやるもんじゃないんだから」


 自信満々の彼女に、私の不安は募るばかり。

 多分、口八丁でどうにかこうにか言いくるめるつもりなのだろう。しかし、地球で嵐にまつわる神や悪魔は、殆どが荒っぽい激情家だったと記憶している。

 話す前に襲われたりしないか?

 そもそも意思疎通は可能か?


『しなずち様っ。第一拠点に神無し、尖兵三、勇者二、英雄五っ。このまま押し切るっ』

『第二拠点も神無し、尖兵一、英雄二じゃ。さっさと終わらせて次に行くぞぇ』

『第四拠点、船神様と雨神様がいたわ。尖兵も五人。でも、神喰いって本当に神の力が効かないのね…………あら、もっとお薬欲しい?』

『第五拠点、神無し、尖兵なし、英雄八ぃ~。しなずち様が好きそうな女海賊がいたから、お土産に持っていきますねぇ~』


 各所から戦況報告が入り、奇襲の成功を次々に告げた。

 拠点への襲撃は、夜襲か夜明けが定石だ。

 どちらも暗闇で視界が悪く、大半の兵は寝ていて迎撃の準備に時間がかかる。違いと言えば寝ている兵達の眠りの深さで、その事から今回は夜明けを選んだ。

 一度寝入っても、熟練の兵達は戦闘即応の為に浅く眠る。

 時間が経ってもあまり変わらず、何かあれば起き上がって、戦闘開始の興奮で一気に肉体をピークまで持っていく。休憩を挟んでいるから平時より手強く、隠密と暗殺に長けていなければ逆に押し返される恐れがある。

 それを防ぐのが、ごく自然な血の巡り。

 太陽の光と共に身体は起き出し、緩やかに血圧を上げて熱を上げる。起き抜けは脳が十分に働かず、思考がまどろんで夢か現か判断できない。

 時間にして、ほんの数分かそれ以下の隙。

 その間に、出来る限りの大混乱を叩きつける。


「しなずち、ヒュレインからの連絡は? 第三拠点」

『ヒュレイン? 何かあった?』

『すいません、しなずち様ッ! 亡霊神だけじゃなく、嵐神と雷王――――っ!? 総員退避! ミュレー、イスラ、皆を纏めてシムナの所に――――』

『ヒュレイン? ヒュレインッ!?』


 途切れた念話に、現地の苦境を察して震える。

 内容からして、亡霊神ネピルに嵐神ジャヌール、雷王ダマルガンと武闘派が揃っている。だが、ダマルガンは雷の中位神ユロウドリス配下の勇者の筈。事前の偵察でユロウドリスはいなかった筈だから、先行して来ていたのか?

 いや、そんな事はどうでも良い。

 私は頭を上げ、ノーラを見つめた。

 今作戦中はノーラの分体に意識を宿す。その契約がある限り、ヒュレインの援護に向かえない。だから、一時的にでも契約を外す許可を彼女から受け取る必要がある。

 対価も代償も、何だって受ける。

 覚悟の瞳を彼女に向ける。


「早く行ってあげて。待ち伏せ部隊には私から伝えるから」

『ごめん』

「終わったら、二人っきりで百年ね?」

『うん』


 私は目を閉じ、意識を飛ばした。

 向かわせるのは数十キロ先の小島の岸辺。切り立った岩だらけの崖の上で、三方からの攻めを捌く光の駿馬。

 私に最愛をくれる、私の最愛。


『やらせないよ』


 無粋な簒奪の手に、私は万本の触手で以って拒絶を返した。
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