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第161話 不死の魔王と氷界の刃王(下)
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我は血であり、血は池となり、血は地にもなるから全て我。
傲慢な拡大解釈に言霊を乗せ、無理矢理実現させたのが私の祝詞。飛行要塞の上に盛られた土を残らず取り込み、戦場の足場を支配して地の利を奪う。
直接戦闘に関われなくても、巫女達に有利を与えるくらいはできる。
むしろ、ここから先を行えないのが精神的に凄く苦しいんだけど…………。
『この地は全て私の身体。レスティ、好きに使って良いよ』
「あぁ、丁度手数が足らないと思っていた所だ。シース、合わせろ」
『はい、母様』
分体に宿る私の分心が、レスティの求めに大地を捲る。
パイ生地で中身を包むように、クライスと騎士姫諸共纏めて包む。半径五十メートルのドームに三人は閉じ込められ、内二人は状況の悪化から頬に汗を伝わせていた。
真下も含めた全方位がこちらの武器だ。
化け物の腹の中で消化を待つ小動物の如く。ただ、片方には食い破れるだけの力があり、もう片方についても尖兵の能力が判明していない。
先の展開が読めず、気が抜けない。
「クライス殿。氷剣を二振り頂けますか?」
「好きなのを使え」
「感謝します。――――告。氷界の刃王より賜りし剣の兄弟。我が汝らに名を与えん。我が汝らに道を与えん。名と道を辿りて力を示し、御手にて揮われ誅敵を討て。右の名をソルトルフォ。左の名をアルトルファ」
騎士姫の手に渡った氷の長剣に、強大な冷気と魔力が渦を巻いて吸われていく。
言霊の名付けにも似た詠唱。
脅威の生誕を前にして、私の直感が警鐘を鳴らした。大きくとは言わずとも適度に小刻みに、その程度を無意識の内に格付けしていく。
強力ではあるが、過ぎはしない。
剣を渡す隙にレスティも斬り込まなかった。ほんの数瞬なれど、クライスを抑えつつ騎士姫を斬り伏せるには十分な時間だったろうに。
そうしなかったのは何故かと問い、彼女の浮かべる表情に全ての答えが張り付いている。
貴族の息子が新しい性奴を組み敷いて、今正に貫こうとする時の邪悪な笑み。
新しいおもちゃの出現に、レスティの遊び心が表に出ていた。握る魔剣に白い煌めきの炎を纏わせ、対抗する様に熱を上げている。もしクライスと氷の兄弟剣が無ければ、ドーム内は溶岩洞窟を超える灼熱と化していただろう。
騎士姫の手から、兄弟剣がクライスに渡る。
「氷獄剣ソルトルフォと氷牢剣アルトルファ。お使いください」
「銘入れか。後で返す」
クライスの身体が僅かに沈み、一拍を置いてレスティの至近に現れる。
両の氷魔剣は既に振り抜かれ、細い氷の糸を切っ先から長く長く伸ばしていた。斬撃の回数にして二十三回分の四十六本が、阻んだ魔力の壁に貼り付いて氷結侵食を開始している。
刻んだ対象の魔力を喰らい、氷獄と氷牢に縛める、か。
便利で優秀で優良だ。だが、レスティの魔剣が持つ熱に侵食を遅らせられている。相性の問題から気にし過ぎる必要はなく、攻めて押し潰せば問題ない。
むしろ、騎士姫の能力こそ警戒に値する。
クライスの呟いた言葉は『銘入れ』。名無しの剣に銘を入れて、存在の格を引き上げるとでも言えば良いのか。剣神の尖兵らしい素晴らしい能力だ。
ただ、前線に出して良い代物ではない。
自陣の奥深くで、名工と名匠が作り上げる絶品に銘を入れ続けるのが適当。安全にその真価を発揮し続け、戦時だけでなく平時の勢力拡大にも繋げられる。
――――いや、ダメだ。
作り手達の名入れの権利を奪ってしまう。
もしかして、剣神は彼女を持て余しているのではないか? 最大限に活用すると剣鍛冶達の不評を買ってしまう。なら優秀な捨て駒として前線に派遣し、使い潰して有効利用している?
可哀想に。
是非、うちで貰い受けよう。
「起きろ、アヴィルネミス。お前の支配を見せてやれ」
レスティに名を呼ばれ、魔剣が魔力と氷をかき混ぜる。
確かシハイノツルギと同じ、赤の杯から生まれた支配剣だったか。周囲の魔力という魔力を属性・性質問わず掌握して支配下に置き、仕える主に供給していく。熱だけだった纏いに氷が混じり、今にも気化爆発を起こしそうでものすごく怖い。
フッと刀身がぶれて消えた。
剣と剣がぶつかり合う耳障りが五回聞こえ、裂かれた空気の悲鳴が遅れて来る。レスティとクライスは振るった得物を構え直し、視覚で捉え切れない剣戟の舞踏を音で奏でて示して見せた。
援護の為、私の分心がクライスの足元を緩く解す。
踏ん張りを効かなくして利を取ろうとし、すぐに凍らせられて固められた。凍った分の外側はレスティにまで及んでいて、それ以上の手は取れそうもない。
私は分心に、壁と天井からの矢の嵐を提案する。
コンマ三秒置きに五百本を十波連続。単独なら全て落とされそうだが、レスティの猛攻の片手間には難しいだろう。もし一本も中てられずとも、刹那でも隙を作れれば十分だ。
分心が提案に乗って、壁面を矢でびっしり埋めた。
これから何をされるのかわかりやすく示し、視覚で動揺を誘っている。天井にも薄い一枚を挟んで内側に仕込み、横の射出と同時に上を晒して心を揺らそうとする。
いくらなんでも酷すぎ――――?
「ウラブラス、残らず落としなさい」
騎士姫の命に、鎧が勝手に動き出した。
両肩、胴、背中、腰、脚、腕――――きめ細かい麗しの肌を守る装甲が、抜刀の如く宙に引き抜かれる。防御の為か厚刃に仕上げられたそれらは、切断性能を犠牲にしているものの、形状数多のまさしく剣。
大小七十余りが舞い踊り、放たれた矢を一本たりとも逃さず斬り落とす。
「剣神バシュカル様が尖兵の一、アイネーゼ・ガルハウンド。所詮女と舐めてもらっては困ります」
『レスティ、彼女はシースに任せる。そっちよろしく』
『ごめんなさい、母様』
「構うな、任せろ!」
刃と熱と氷の大合唱を尻目に、私は騎士姫アイネーゼに目を向けた。
剣を主体とした白と金の美姫。
カルアンド皇女のヴィディアと色が似通い、しかし違いは明白だ。ヴィディアは速さと鋭さに重きを置いた抜き身の刀。私の巫女となって雌を高めるまで、美しくはあれど女が足りなかった。
対して、アイネーゼは小回りの利くソードブレイカー。
堅い守りで攻撃を捌き折り、隙をついて力強いカウンターを決める防御型。一見豊満な肉体は筋肉の隆起がはっきり見え、戦士と女を高いレベルで両立させている。
ここにカップ増量でIまで届かせたら…………?
寝取りは嫌いだが、キープの横取りはノーカウントだ。分心達への教育も兼ねて、私の巫女へと堕ちてもらおう。
そして――――
『私は生の神しなずち。尖兵アイネーゼ殿、我が分心シースがお相手致します』
『宜しくお願い致します』
――――たったの一夜で処女喪失から、私の分体の出産へ。
気に入ってくれると嬉しいな。
ねぇ?
傲慢な拡大解釈に言霊を乗せ、無理矢理実現させたのが私の祝詞。飛行要塞の上に盛られた土を残らず取り込み、戦場の足場を支配して地の利を奪う。
直接戦闘に関われなくても、巫女達に有利を与えるくらいはできる。
むしろ、ここから先を行えないのが精神的に凄く苦しいんだけど…………。
『この地は全て私の身体。レスティ、好きに使って良いよ』
「あぁ、丁度手数が足らないと思っていた所だ。シース、合わせろ」
『はい、母様』
分体に宿る私の分心が、レスティの求めに大地を捲る。
パイ生地で中身を包むように、クライスと騎士姫諸共纏めて包む。半径五十メートルのドームに三人は閉じ込められ、内二人は状況の悪化から頬に汗を伝わせていた。
真下も含めた全方位がこちらの武器だ。
化け物の腹の中で消化を待つ小動物の如く。ただ、片方には食い破れるだけの力があり、もう片方についても尖兵の能力が判明していない。
先の展開が読めず、気が抜けない。
「クライス殿。氷剣を二振り頂けますか?」
「好きなのを使え」
「感謝します。――――告。氷界の刃王より賜りし剣の兄弟。我が汝らに名を与えん。我が汝らに道を与えん。名と道を辿りて力を示し、御手にて揮われ誅敵を討て。右の名をソルトルフォ。左の名をアルトルファ」
騎士姫の手に渡った氷の長剣に、強大な冷気と魔力が渦を巻いて吸われていく。
言霊の名付けにも似た詠唱。
脅威の生誕を前にして、私の直感が警鐘を鳴らした。大きくとは言わずとも適度に小刻みに、その程度を無意識の内に格付けしていく。
強力ではあるが、過ぎはしない。
剣を渡す隙にレスティも斬り込まなかった。ほんの数瞬なれど、クライスを抑えつつ騎士姫を斬り伏せるには十分な時間だったろうに。
そうしなかったのは何故かと問い、彼女の浮かべる表情に全ての答えが張り付いている。
貴族の息子が新しい性奴を組み敷いて、今正に貫こうとする時の邪悪な笑み。
新しいおもちゃの出現に、レスティの遊び心が表に出ていた。握る魔剣に白い煌めきの炎を纏わせ、対抗する様に熱を上げている。もしクライスと氷の兄弟剣が無ければ、ドーム内は溶岩洞窟を超える灼熱と化していただろう。
騎士姫の手から、兄弟剣がクライスに渡る。
「氷獄剣ソルトルフォと氷牢剣アルトルファ。お使いください」
「銘入れか。後で返す」
クライスの身体が僅かに沈み、一拍を置いてレスティの至近に現れる。
両の氷魔剣は既に振り抜かれ、細い氷の糸を切っ先から長く長く伸ばしていた。斬撃の回数にして二十三回分の四十六本が、阻んだ魔力の壁に貼り付いて氷結侵食を開始している。
刻んだ対象の魔力を喰らい、氷獄と氷牢に縛める、か。
便利で優秀で優良だ。だが、レスティの魔剣が持つ熱に侵食を遅らせられている。相性の問題から気にし過ぎる必要はなく、攻めて押し潰せば問題ない。
むしろ、騎士姫の能力こそ警戒に値する。
クライスの呟いた言葉は『銘入れ』。名無しの剣に銘を入れて、存在の格を引き上げるとでも言えば良いのか。剣神の尖兵らしい素晴らしい能力だ。
ただ、前線に出して良い代物ではない。
自陣の奥深くで、名工と名匠が作り上げる絶品に銘を入れ続けるのが適当。安全にその真価を発揮し続け、戦時だけでなく平時の勢力拡大にも繋げられる。
――――いや、ダメだ。
作り手達の名入れの権利を奪ってしまう。
もしかして、剣神は彼女を持て余しているのではないか? 最大限に活用すると剣鍛冶達の不評を買ってしまう。なら優秀な捨て駒として前線に派遣し、使い潰して有効利用している?
可哀想に。
是非、うちで貰い受けよう。
「起きろ、アヴィルネミス。お前の支配を見せてやれ」
レスティに名を呼ばれ、魔剣が魔力と氷をかき混ぜる。
確かシハイノツルギと同じ、赤の杯から生まれた支配剣だったか。周囲の魔力という魔力を属性・性質問わず掌握して支配下に置き、仕える主に供給していく。熱だけだった纏いに氷が混じり、今にも気化爆発を起こしそうでものすごく怖い。
フッと刀身がぶれて消えた。
剣と剣がぶつかり合う耳障りが五回聞こえ、裂かれた空気の悲鳴が遅れて来る。レスティとクライスは振るった得物を構え直し、視覚で捉え切れない剣戟の舞踏を音で奏でて示して見せた。
援護の為、私の分心がクライスの足元を緩く解す。
踏ん張りを効かなくして利を取ろうとし、すぐに凍らせられて固められた。凍った分の外側はレスティにまで及んでいて、それ以上の手は取れそうもない。
私は分心に、壁と天井からの矢の嵐を提案する。
コンマ三秒置きに五百本を十波連続。単独なら全て落とされそうだが、レスティの猛攻の片手間には難しいだろう。もし一本も中てられずとも、刹那でも隙を作れれば十分だ。
分心が提案に乗って、壁面を矢でびっしり埋めた。
これから何をされるのかわかりやすく示し、視覚で動揺を誘っている。天井にも薄い一枚を挟んで内側に仕込み、横の射出と同時に上を晒して心を揺らそうとする。
いくらなんでも酷すぎ――――?
「ウラブラス、残らず落としなさい」
騎士姫の命に、鎧が勝手に動き出した。
両肩、胴、背中、腰、脚、腕――――きめ細かい麗しの肌を守る装甲が、抜刀の如く宙に引き抜かれる。防御の為か厚刃に仕上げられたそれらは、切断性能を犠牲にしているものの、形状数多のまさしく剣。
大小七十余りが舞い踊り、放たれた矢を一本たりとも逃さず斬り落とす。
「剣神バシュカル様が尖兵の一、アイネーゼ・ガルハウンド。所詮女と舐めてもらっては困ります」
『レスティ、彼女はシースに任せる。そっちよろしく』
『ごめんなさい、母様』
「構うな、任せろ!」
刃と熱と氷の大合唱を尻目に、私は騎士姫アイネーゼに目を向けた。
剣を主体とした白と金の美姫。
カルアンド皇女のヴィディアと色が似通い、しかし違いは明白だ。ヴィディアは速さと鋭さに重きを置いた抜き身の刀。私の巫女となって雌を高めるまで、美しくはあれど女が足りなかった。
対して、アイネーゼは小回りの利くソードブレイカー。
堅い守りで攻撃を捌き折り、隙をついて力強いカウンターを決める防御型。一見豊満な肉体は筋肉の隆起がはっきり見え、戦士と女を高いレベルで両立させている。
ここにカップ増量でIまで届かせたら…………?
寝取りは嫌いだが、キープの横取りはノーカウントだ。分心達への教育も兼ねて、私の巫女へと堕ちてもらおう。
そして――――
『私は生の神しなずち。尖兵アイネーゼ殿、我が分心シースがお相手致します』
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