しなずち ~転生触手妖怪 異世界侵略風味、褐色爆乳女神と現地収穫の巫女衆を添えて~

花祭 真夏

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第158話 さくせんかーいぎ!

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「ではこれより、第一回対神戦争対策会議を開催致します。司会は私、知の女神キサンディアです。どうぞ宜しくお願い致します」


 王城会議室に集まった面々を前にして、触手製ソファーに座ったキサンディアは臨月並みの腹部を愛おしそうに撫でた。

 私の子を身篭ったわけではない。

 ヴィラとの間にカーマを作って以来、世界は私に子を作らせてくれない。おそらく多方面に影響が及ぶ事を危惧し、ある程度情勢が安定するまで封印しておく気なのだろう。

 無論、属神達も巫女達も、不満不満の大合唱。

 今回の逆レイプ制圧で全員ボテ腹にしてしまったから余計にそう。母性と妊娠欲を刺激してしまったらしく、私の耳には脅迫に近い要望希望が殺到した。特に前世の頃から私を狙っていたキサンディアは点いた火が収まらず、最期まで食い下がって実力行使までされたのだった。

 本当に、手のかかる娘達だ。

 でも、手間をかけさせてくる過剰な想いは愛おしい。

 私は巫女達に与えた分体を子宮の中に仕込み直し、彼女達の遺伝子を組み込んで出産できるように手を加えた。多くは時忘れの牢獄で済ませて満足していたが、キサンディアとシムナだけは、もう少し感じていたいと未だに胎動を味わっている。

 …………実は、この一柱と一人には分体じゃないのを仕込んであるんだけどね。

 そろそろ産まれそうだったから、代わりに産んでもらおうかと思って。

 獄狼の子達。


「まずは敵となる神々と国々、脅威となり得る実力者の確認です。あくまで、私達が持っている情報と状況を整理し、推測した内容となります。実際とは異なる可能性がありますので、その点はご注意ください」

「推測ねぇ……にしては、随分と細かい所まで載ってるじゃないの」


 配られた分厚い書類束を捲る清水さんが、単眼用眼鏡の縁を触手で上げる。

 あまりの情報量の多さに、出席者の多くは頭から湯気を上げていた。

 まともに読めているのは清水さんの他、ヴィットリア、フォルゴ、私、ラスティ、レスティ、ユーリカくらい。神喰いの面々は自分が知っている相手や勢力を探してリストアップしており、情報を共有したらこちらに任せる腹積もりのようだ。

 わからなくもないよ。

 百を超える神と五百近い尖兵、七十の国に二百以上の勇者と英雄なんて全部把握できるわけがない。

 うちだって、そんな事を出来るのはキサンディアとラスティ、レスティ、それにノーラくらいだ。


「神界再編戦争の開催が宣言された際、ルエル神の手で神々の管轄域が公開されました。そこに、今回創造神様からご提供頂いた敵の侵攻方向と数、国、地域の情報を合わせて纏めてあります。本当であれば、もっと確度の高い情報をご提示できれば良かったのですけれど…………」

「十分よ十分――――ん? クライス・テューラーって、南の最強勇者よねぇ? 敵に回りそうなの?」

「彼は報酬次第でどんな勢力にでもつく傭兵勇者です。十中八九、敵側に雇われて私達の前に立つでしょう」

「他にもちらほら知られた名があるな。逆境上等の英雄ユーノ、転生王バルミコス、雷王ダマルガン、勇者帝ミルシオス・エイバーライン…………」

「神と尖兵も、七割下位神だけど油断ならないよ。色んな連中がいるから、組み合わせ次第で能力の相乗効果が現れるかも」

「組み合わせ表は八十五ページから九十七ページまでに纏めてあります。ですが、何柱揃っても神喰いの抵抗力は抜けません。そして、そこがこの戦争の肝となります」


 キサンディアは指を鳴らし、彼我の戦力差を表す幻影を会議室中央に浮かび上がらせた。

 神喰い八十五名、吸血鬼隊五百七十余名、巫女衆二百五十八名がこちらの戦力。すぐ用意できる増援はドルトマのハーレム三十名程度で、合計の数字は千にも届かない。

 対して、敵方は数と規模が凄まじい。

 神と尖兵と勇者と英雄だけでこちらと同数に近い上、一般の兵達が約百万人加わる。一度に襲い来ることはないだろうが、それでも驚異的な数字だ。

 おおよそ、一対千。

 スパルタのレオニダス王にでもなった気分だ。


「今回、神界再編戦争のルールに縛られ、しなずちを含むこちらの神々は戦争に参加できません。滅神は神滅戦線の皆様に担当して頂き、それ以外を他のメンバーで撃退します」

「キサンディア様、殲滅でなくて良いのですか? むしろ死体が多い方が、レスティとラスティの死霊術でこちらの戦力が増えますが?」

「シムナ。敵側に死霊を操れる神が何柱かいるから、死体は少ない方が良い。それと、怪我人の後方輸送にリソースを割かせれば、戦費や人員、食料の圧迫を誘発出来る。そうだよね、キサンディア?」

「しなずちが賢くなってくれて嬉しいです」


 不出来な生徒が立派になって泣く教師の様に、キサンディアは目元にハンカチを当てた。

 深慮遠謀とまではいかなくても、多少の戦術くらいは考えられるってば。

 でも、この世界では魔術の治療を行える。多少の怪我ではすぐに治して戦線に復帰させられかねず、腕や足の一本二本を落とさないと戦傷者として見なされない。

 それでいて、処置が遅れれば簡単に死ぬ。

 難しい所だが、戦争とはそういう物だ。

 無理と理不尽と面倒が滅茶苦茶に積み重なって、目の前でダンスするのを見続けなければならない。見飽きて目を離したら、踊り手は満面の笑みを浮かべて私達の首元に指をかける。

 首を括られない様、そして、相手の首が括られる様に立ち回らないと。


「今回の戦で特筆すべき点は、敵の規模が大きすぎる事。それだけ皆様は神々にとって脅威であり、神の力を介さない戦力で殲滅しようと攻めてきています。戦力差を考えれば絶望的ですが、手はいくらでもありますのでご安心ください」

「キサンディアの予想だと、勝率はどのくらい?」

「現在の戦力で六割、ドルトマが加入して九割九分九厘です」

「いやいやいや、北の最強勇者って言ってもそう簡単にいかないでしょぉ~? ねぇ、しなずちぃ~」

「あ、フォルゴは知らないんだっけ? 少し前、ドルトマには私の血肉を食べさせて神喰いになってもらったんだ。だから、神と尖兵は雑魚同然で、通常戦力はまさしく雑魚。勇者と英雄なら何とかって所だけど、そもそも二番手以下とは実力差が…………魔王以外は相手にならないんじゃないかな? どう、ラスティ、レスティ?」

「主様。惨めになるから私達に話を振るんじゃない」


 話題を向けられたラスティとレスティが、ドロドロに濁ったジト目で私に対して非難を寄越す。

 元魔王だから詳しく分かるんじゃないか?

 単純にそう思ったのだが、視線には何故か強烈な恨みの念が篭っていた。彼女達とドルトマが相性最悪なのは承知しているけれど、この圧の強さはきっとそれだけではない。

 どうしたんだろう?


「ドルトマは主様の血肉で神喰いになったから、対不死能力まで持ってしまったんだ。尖兵で不死の私達は、二度と奴にはかなわない」

「もうまともにやり合えるのは、グアレス、アーカンソー、ヴァテア、マックス、それにアイシュラ陛下の兄君であらせられるエルドゥ閣下くらいだ。ちなみに、この五人より私達の方が強いからなっ? そこの所を間違えるんじゃないぞっ?」

「結局はしなずちのせいですね。埋め合わせは時忘れで存分にどうぞ」

「「また仕込んでやるからなっ?」」

「ひぃっ!?」


 魔獣の苗床堕ちを宣告されて、私は急いで机の下へと潜って隠れた。

 次に発情期が来るのは、デスミストドラゴンのクァールだった筈。

 レスティの居城アヴィルハイネを、一帯まとめて死の瘴気で覆っていた災厄級魔獣。あの子も私によく懐いていたけど、ドラゴンだけあってアレの大きさは私の身体より遥かに大きい。

 大丈夫?

 っていうか、入らないでしょ?


「話を戻します。敵陸上部隊は死巫女衆と黒巫女衆が担当し、吸血鬼部隊は夜間の敵陣地襲撃をお願いします。海上部隊は血巫女衆と朱巫女衆が担当です。白巫女衆はクロッセンド城を本部として各戦線を支えてください」

「私達はどうするの? 客人だけに戦わせておくなんて、仮にも王族としてプライドが許さないわ」

「ヴィットリア嬢と神滅戦線の方々は、神を失くす研究を進めてください。進展によっては戦況が更に有利になります。しなずちもそっちですからね? くれぐれも前線に出張らないように」

「伝令役くらいしても――――」

「ラスティ、カラ、カル、ニヌ。貴女達はしなずちの護衛兼監視です。あまりに言う事を聞かない様なら限界まで搾り取って構いません。どうせ戦いには出れないのですし」

「「了解」」

「「『承知しました』」」


 キサンディアの命に是を返した娘達は、溢れた涎を袖で拭った。

 擬似出産までしておいて、まだ足りない――――あ、ちょっとニヌッ! 影に引きずり込もうとしないでよ! カラもカルも服の下を弄らないでっ!


「詳細な作戦については、ヴィットリア嬢と私で詰めて指令書を作成します。本格的な開戦まであと二週間。各々、やるべき事をしっかりやり遂げましょう」

「「「「「応っ」」」」」

「待って! 誰か、誰か引っ張って! 入口になんか刺さってる、刺さってるから!」

「ねぇ? 私もちょっと時間が空くんだけどぉ……ご一緒しても良いかしらん?」

「清水さん、だったか? 私達はしなずち様の専用だ。そこの所を理解してくれるなら構わない」

「ありがとねぇ~ん。さぁ、し・な・ず・ち・ちゃん? アナタは男の子の声? それとも女の子の声? どっちでイッちゃうのかしら、た・の・し・みぃ~っ」

「やだやだやだやだやだっ! ヴィラ、キサンディア、皆助けて! 雄相手に攻めも受けもないでしょ、嫌ったらイヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 皆が私に憐憫の一瞥を向け、見なかった事にして解散していく。

 床を掻いてどうにか逃れようとするものの、白い触手が手を、腰を、脚を巻いて拘束してきた。目の前で特に太い一本をゆらゆらゆらゆら見せ付けられて、上と下のどっちにしようかと交互に揺れる。

 期待の眼差しが一つと四対。

 普段触手で貫く側が貫かれてどうなるのか。そんなどうでも良い事を楽しそうに楽しみにしている。汗の匂いで興奮が伝わり、何をどう間違ったらそんな風に育っちゃうの?

 間違ってるよ?

 タスケテ……。
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