しなずち ~転生触手妖怪 異世界侵略風味、褐色爆乳女神と現地収穫の巫女衆を添えて~

花祭 真夏

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第150話 肯定 対 拒絶

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 池から生まれた数千の触手が、同じく数千とぶつかり合って散っていく。

 綺麗に透き通っていた池の水は、もはや虐殺現場の比ではない程に朱くて赤い。漂い浮かぶ肉片を拾っては集め、取り込んで成型して新たな触手へと変えて繰り出す。

 物量と物量の押し付け合い。

 多分こうなると思っていたが、予想通り過ぎて逆に新鮮味が無い。

 互いに周辺の自然環境に配慮して、池の水以外取り込んでいないのも悪材料。このままではいつまで経っても終わりが無く、生の衝動を持つ私の方が欲求不満で音を上げてしまいそうだった。

 どうしよっかなぁ……。


「ねぇ、圭。つまんない」

「『つまんない、じゃない』」

「だって、しなずち同士の力は見た感じ互角でしょ? 少年漫画なら自分を超えようと限界まで努力するんだろうけど、私達は力や技より知で勝負するタイプ。キャラじゃない熱血なんて勝利の糸口にしたくないよ」

「『何だ? もう勝てる気でいるのか? お前の言った通り、俺達は互角だ。逆を言えば、信念が陰って心が折れた方が負けなんだろ』」

「折れないでしょ、私と俺は。『止まれ』」


 俺の繰り出す触手に言霊を当て、制止させて隙間と隙間に私の触手を通して編み込む。

 ぎっちぎちに詰めて詰めて密着させ、触手同士の動きを封じる。新しく生やすスペースもきっちり無くし、あと出来るのはお互いの身体でやれる事のみ。

 長さ二十メートル、幅三メートルの肉壁の廊下で正面から向き合う。


「真っ向から共食い勝負でどう?」

「『妖なる者の夜の欠片、我が血から生まれ、糧を求めて果てなく貪らん』」

「え?」


 壁の俺の部分に十の蛇の目が浮かび上がり、血の涙を流したと思ったら十体の人型がずるりと這い出した。

 体中から血色の蛇頭と蛇身を生やして伸ばす、俺と瓜二つの狩りの蛇。

 五十対を超える目の全ては私に向き、狩りの獲物とみなしたようだ。瞳を縦に細めて狭め、舌をチロチロ動かしている。

 えぇぇぇ……? こんな閉所で、ちょっと狡いんじゃない?


「「「「「「「「「「赤いバラを持っテないいいイイイイイ?」」」」」」」」」」

「あ、妖なる者の夜の欠片、我が血から――――っ!?」


 祝詞を唱え、力が練れない事に今更気付く。

 神の力が狩り蛇を認識していない。

 防御用の守り蛇も同じで、能力自体がすっぽり抜け落ちている。狩り蛇と守り蛇は妖怪しなずちの分体だから、生の神しなずち『だけ』では作り出せないのか。

 それはつまり、アレらは神の力が及ばない妖怪のみの力と言う事。

 本当に、ルエル神の指摘は単純だけど適格だな。こうして直面してみないと全然わからなくて、自分で気付くのはまず無理だろうけど。


「『疾っ』」


 言霊を篭めて右手を振るい、五本の指先から血の斬糸を射出する。

 ほぼ閉鎖空間に在り、避けようがない攻撃に狩り蛇達は刻まれ落ちた。血に含まれる私の対不死性で再生もできず、血溜まりに解けて池の中に染み果てる。

 良いね良いね。妖怪の自分を思い出してきた。

 狩り蛇、守り蛇、斬糸。どれもグランフォートでクソ大司教に消し飛ばされるまでは好んで使っていた。直面している問題の答えがこんな所にあるなんて、世界ってうまい事できているんだなぁ……。


「『ちぃっ! 守り蛇の目、栄え――』」

「『疾っ』」


 私は胸の中に手を突っ込み、俺に向かって一気に駆ける。

 良い意味で均衡が崩れ、自分だけが持つカードを見れるようになった。久々に握る長い柄は私の手にしっくり馴染み、接敵と同時に抜き放つとやっと出番かと鈍く輝く。

 世界に一振りしかない私だけの武器、シハイノツルギ。

 今思えば、この子はこの瞬間の為に生まれたのだろう。


「『離れろ!』」

「『嫌だ!』」


 拒絶と拒絶の言霊が衝突し、衝撃を生んで身体をビリビリ震わせる。

 ほんの少し振りが遅れて、その間に俺は後ろに退いた。

 数メートルしかない後方のスペースに飛び退いて、行き止まりの壁を蹴って私の頭上を飛び越える。追い詰められたを追い詰めたに逆転させ、両手から血を吹き出させて一対の双剣を作り出した。

 長物一刀と、普通の二刀。

 有利なのはどっちだ?


「剣は素人なのに無理しなくていいよっ!」

「『それはお前もだっ!』」


 受けにくいように下から斬り上げ、半身を引かれて避けられる。

 返しの刃が顔に迫り、柄を立てて止めて弾く。しかし、次の刃はすぐさま飛来し、手数で押されて反撃の目を見つけられない。

 近距離は不利だ。

 少し距離を置いて有利を取ろうとし、分かっていたと言わんばかりにすぐ詰められる。

 取り回しのしやすい双剣の乱舞に、防ぐので手いっぱい。一歩一歩圧されて退かされ、四歩もいかない内に背中に肉の感触がぶつかった。

 見なくても、後ろが壁だとすぐにわかる。

 むしろ、見ている余裕はない。

 目の前で剣を振るう俺は、機を逃すまいと更に回転を上げた。両手の二刀に八本の触手刃を加え、上下左右様々な角度と速度と重さで細切れにしようと展開してくる。

 そうだ。私でもこうする。

 巷の二流剣士にすら、私達の技は届き得ない。それでも剣を持つのは、相手の意識を剣に向けさせ、適当な所で生物としての理不尽を押し付ける為。

 急に想定外を持ち込まれて、対処できる人間なんていやしない。

 『人間』は、ね。


「ざんねんでした」

「『ちぃっ!』」


 世界に干渉し、私は俺の背後に転移してシハイノツルギを突き刺した。

 剣の支配力が体内を侵食し、自由を奪って動きを封じる。

 魂の格が同等だから抵抗されるかと思ったが、妖怪と上位神の差がプラスに働いてくれたらしい。俺の意識までは掌握できなかったが、壁を形成する触手は私に下り、崩れて集って取り込まれてくれた。

 青々とした空の下、清々しい風が頬を撫ぜる。


「どうなるかと思ったけど、やっぱり私の勝ち」

「『クソがっ! 離せ!』」

「『嫌だ』。じゃあ、勝者の権利を行使しようか。感覚を共有して、社にいる血巫女衆と死巫女衆に私達を犯させる。絶頂の度に共有部分が絡み合って、解せないくらいになったら二心同体の妖怪神の出来上がりだよ」

「『お前、本気か!? そんな事をしたら、シムカとアシィナとレスティに飼い慣らされるぞ!?』」

「ラスティとガルマスアルマが止めてくれるって信じたいけど、まぁ無理かな? でも、俺が悪いんだよ? 何が何でも私を拒むから、拒めなくさせないと話を聞いてくれない。もう私達は私達だけのモノじゃないんだから、拾って抱えて背負った命を最後まで面倒見切るんだよ」


 太い一本を腰から生やし、俺の身体を巻いて持ち上げて尻を一発強めに叩く。

 ヴィラから始まり、シムカ、ナレア、ディユー、ネスエル、ニース、アマディ、トロー、アシィナ――――共に在ると誓った最愛の命達を、私達は預かっている。

 なのに、俺のエゴで危険にさらす?

 以ての外だ。

 私は俺で、俺は私。尊重するし従いもするが、絶対の不許可は何があってもやってはならない。

 最高の優先は、何をおいてもやらなければならない。

 わかっているだろう? そんな事は。


「それじゃ、行こうか。怯えなくていいよ? 前と後ろと弱点……一竿二穴を時忘れの牢獄で百年くらい犯してもらうだけだから。狂うか狂わないかの瀬戸際で手を取り合って、快楽刺激に脳髄を犯されながら正気を失わないように頑張ろう」

「『自分から破滅に向かうんじゃない! もっと他に方法があるだろう!?』」

「俺の不手際は私の不手際。罰は片方ではなく両方で受ける必要がある。一蓮托生で行こうよ。もっと簡単に言えば、『諦めろ』」

「『断る! さらっと言霊を混ぜるな! せめてヴィラにやらせてくれ! 彼女の言葉なら俺も耳を傾けずには――――』」

「――――もっと良い方法があるよ?」


 ビシリッと空気が凍り付いて、私達の身体を縛った。

 聞き覚えのある声に『嘘だ!』と心が叫びを上げる。物理的にも心理的にも精神的にも首を回せず、頭の後ろに目を作って見ると水面に女が一人立っていた。

 幼女と少女の間くらいの、白い肌の金髪の娘。

 聖歌隊にいるような、母性・父性を刺激する可愛らしさとあどけなさを併せ持つ天上の美の化身。シャツを捲って露わにした膨らみかけの先端は固く尖り、既に準備してきたのだろう下着の内から粘性のある液体が腿へと伝う。

 え? どういう事?


「琥人、男じゃなかったの……?」

「最初は両性で、二回目と三回目は女、今回だけ男だったんだよ。でも、アルセアとする時はいつもこっちの身体だったし、それなりに慣れてるから安心して任せてね?」

「『や、やめろっ! 来るな、来るなぁああああああああああああああああああっつ!』」

「本当、往生際が悪いんだから。あっ、それと、僕はディプカントからの干渉は受け付けないから、き・み・の・こ・ど・も・を・は・ら・ん・じゃ・う・か・も・ね?」

「誰かっ! 誰か助け、助けて! アンダル神、見てるんでしょ!? どこ!?」

「邪魔者はソウに任せてあるよ。それじゃ、いただきますっ」


 その言葉を最後に、私と俺は正気を手放した。

 ――――正気でなんていられるかよ……。
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