しなずち ~転生触手妖怪 異世界侵略風味、褐色爆乳女神と現地収穫の巫女衆を添えて~

花祭 真夏

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第147話 神以前に私は何だ?(中)

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「マスター? シムカだけでなくアシィナまで一緒に呼ぶなんて、今日こそ私の手で天上へ送られたいと仰るのですね? 孤児娘達の拙さに燃え上っても燃え切らなかった事を踏まえ、万全の態勢で至極の昇天に至りたいと? 欲張りさんですねぇ。さ、横になって下を脱いで――――」


 夜空を集めたような煌びやかな漆黒の翼をはためかせ、堕天使巫女ネスエルは羽衣に指をかけて肩から落とした。

 張りのあるぷりんっ、だぷんっが露わになり、長く垂れさがる赤黒い髪でカーテンの様に覆われる。その下では準備万端と固い先端が尖っており、隠す隙間から明確な自己主張をしっかと見せ付けてくる。

 本当に、相も変わらず私の腹上死を狙っているんだね……。


「ネスエル。終わったら目隠ししてつるし上げて前と後ろから無理矢理仕込んであげるから、まだもうちょっとだけ羽衣は着ておいて」

「何を仰います。等しく死を振りまく死天使たる私に、『殺すならまず私を殺せ』と言って組み敷いて犯したのはマスターです。あと半刻で死ぬ予定だったナレアとディユーの分だけでも、私の死を受け入れて貰えるまではマスターの御命を頂かなくてはならないのです」

「不死に死ぬまで付きまとうぞって、もう告白と変わんないわよ……?」

「アシィナ。ネスエルにとっては最大級の愛情表現なんですから許してあげましょう。それにしても、私達三人が集まるだなんていつぶりでしょうか? シムナが勇者として社に攻め込んだ時以来?」

「思い出話はその辺にしておこう。早速だけど、三人には神の私と妖怪の私をより分けてもらいたい。方法は任せる。出来るだけ痛くないようにしてもらえると嬉しいな?」

「じゃあ、まずは腑分けする?」


 当たり前のような口調で、アシィナが酷く物騒な事を口にする。

 袖からメスと鋸を作り出して、まずは脚か、それとも腹かと、わかっていたけれどその解剖解体嗜好はどうにかならないの?

 胴を落とした下半身だけ持っていかれて、休憩と称して使われた過去を思い出す。

 生首のまま放置され、隣の部屋から漏れ聞こえる喘ぎと嬌声に涙した三時間。思考と理性が蚊帳の外にあって、本能だけが見えない快楽に震える行為は、もう二度と御免被る。

 まぁ、オシオキを兼ねて緊縛目隠し触手蹂躙プレイでお返ししたけど。


「全身隈なく舐め取って、味で違いを探しましょう。昔の味がしたら妖怪の部分、今の味がしたら神の部分です」

「味かぁ。そういえば、まだサンプリングしてなかったっけ。身体の中の出来たてと出した後の違いくらいは確認しておこうかな?」

「ねぇねぇねぇ? 二人ともどうしてそんなに痛い方向に持っていくわけ? シムカは人として痛くて、アシィナは痛覚的に痛くて、いくら私が何をされても受け入れるからって少しは自重しない?」

「何言ってるのよ。空気に触れる前か後かで、効能がガラッと変わる薬はたくさんあるんだから。学術的に必要なだけ。決して、しなずち様が怯えて泣きそうになりながら堪えてる表情が大好きでたまらないからなんてあるわけないじゃない」

「本性曝したよね? 今、曝したよね?」


 私の追及を鋸の腹で遮り、アシィナは解体の方針についてシムカと話し合う。

 だから解剖も解体もやめてって言ってるのに…………本当に必要ならやっても良いけど、その前にいくらでもやる事はあるでしょ? そっちをやらずに自己の願望を追及するなんて、ちょっと酷くて涙が出て来た……。

 柔らかい、すべすべで白い二つの膨らみが、正面から私を包み込んでくる。

 溺れながら見上げると、慈愛に溢れた母性の微笑みをネスエルが注いでくれた。思わず縋って飛び込んで、頭を横にぐりぐりぐりぐり振って振って振って回して堪能する。

 シムカの母性はまさしく母だが、ネスエルのはまた違う。

 歳の離れた近所のお姉さんに感じる様な、初恋の憧れを含んだ瑞々しさ。言うなれば赤リンゴと青リンゴの違いの様な、甘さと酸味のバランスで全く異なる味わいを見せてくれる。

 汗もちょっと酸っぱい感じだし。


「ねすえるだいしゅきぃぃ~……」

「ふふっ、本当に変わられましたね。私がカロステンに出向く前はピリピリ突き刺さる感じでしたのに、今は丸ごと呑まれて延々舐られ続けられそうな感じです」

「んん~? ちがうの~?」

「はい。私は死天使。死と安息の神アンダル様より、死を司る力を賜った存在です。マスターの死否定の御力が強く刺さって、身を裂かれんばかりの苦しみに苛まれる事がしばしばございました。――――身を離す命をお受けしたのは、それが為でもございます」

「え゛っ!? ご、ごめん、そんな事になってるだなんて気付けなくて……ごめん、なさい…………っ」

「打ち明けなかった私のせいでもございます。お気になさりませぬよう……」


 背中に腕を回し撫でられ、ふわふわのふわふわに包まれ委ねる。

 不死の妖怪と死天使という相反した存在から、巫女化には何かしらの影響があるとは思っていた。実際には『何かしら』どころか『かなり辛い』であり、彼女を愛する男として非常に大きな失態だ。

 お詫びに十年くらい、好きにさせてあげようかな?

 いや、私も凄く昂って来た。

 恋人よりも夫婦よりも濃密な愛を交わしたい。指と指の間を互いで埋めて、隙間という隙間に互いを差し込んで、五体余す所なく互いの熱を感じ合いたい。

 あ、耳。耳が寂しい。

 声が聞きたいよ。

 もっとたくさん。


「ネスエル、名前で呼んで?」

「どうかしましたか?」

「『マスター』も良いけど、私を私として呼んで欲しい。ネスエルの想いを向ける先が、輪廻煉獄唯一の私であると聞きたいんだ」

「改まると恥ずかしいですね。畏まりました。しなず――――っ!?」

「っ!? ネスエル!?」


 途中まで言いかかった所で、ネスエルが口と鼻から血を吹き出した。

 涙腺からも血涙が流れ出し、次瞬、身体から力が抜ける。私を見つめていた瞳はぐるんと上を向いて白目になり、明らかな異常に思考が感情に置いて行かれる。

 私は彼女を抱き留めて、治療用に触手を撃ち込んだ。

 一体何があったのか、検証するのは後回しだ。今は彼女の命が最優先であり、アシィナを呼んで出来る限りの処置を施す。ギュンドラにいるであろうテトにも念話を飛ばして、死天使に詳しそうなアンダルに連絡も取った。

 やれる事は、なんだってやる。

 ネスエルに与えてしまった苦しみへの贖罪は、木っ端の欠片も済んでいない。

 済ませるまでも済ませた後も、彼女は私と共に永劫を歩む番いなのだ。こんな形で終わりを告げるなんて、何が許しても私が絶対に許さない。

 だから、生きて。

 無事でいて。

 お願いだよぉ…………。
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