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第145話 そんな事だろうと思ってた。
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魔王国の首都であり魔城『ヴァル・ヴィエンデ』の天井に吊るされた、黒水晶で出来た鳥かごの様な部屋。
光を通さない薄暗がりの中で、私はルエル神とアイシュラ神を相手に対していた。供は連れずに一つのテーブルを三柱で囲み、用意された書類一枚一枚を眺め読み込む。
内容は、神滅戦線に関する詳細事項。
どうやって調べたのかわからないが、記載されている内容は非常に有益な物だった。構成人数、組織図、潜伏中の都市、現在行われている作戦、拠点となる二つの国と、いつかその小ぶりのケツに極太触手をぶち込んでアヘ顔を晒させてやりたいクソ頭領の憎らしい写し絵。
ヴィットリアから『半年前に渡界した』って聞いた時、もしかしてと頭に浮かんだのがまさかの正解だったか。
琥人の野郎……っ。
「アルセア神の尖兵のくせに、何で神を滅する組織を率いてるんだよ、アイツッ」
「リスクマネジメントの一環と言っていたわ。アルセアの尖兵達は、ディプカントの様々な場所に拠点を置いて、多大な影響力を行使する管理者達だったの。中でもハイエルフの族長である琥人は、様々な種族や組織から頼られてご意見番を務めていたわ」
「貴方の管轄内にあるラスタビア勇国、カルアンド帝国、白狐族も、元は彼の管理範囲です。尖兵でありながらやっている内容は神に等しく、数千年前に中位神二十三柱と衝突した際には、たった一人で残らず返り討ちと滅神をしています。ソウ様の尖兵であるカエデと同等の実力者です」
「いつでも潰せるから、遊ぶ玩具にでもしようとした……? どこまで性格が悪いんだよ…………」
書類を捲りながら、琥人が考えそうな悪巧みを予想する。
対神戦争の鉄砲玉。
便利な伏兵。
増えすぎた神を間引くための自浄作用。
どれもありえそうで、逆に一つだけでなく全てを意図しているようにも感じる。方針だけ与えて勝手をさせている辺りがまさしくそれ。ハチャメチャな幹部に運営を任せて、わざと暴走させている懸念も浮かぶ。
こいつら、本当にどうにかしないとまずいな。
「神喰いは、ユーゴ、ヴィットリア、清水さん、ジェンを筆頭として八十五人? いくらなんでも多すぎでしょう?」
「先程言った、琥人が返り討ちにした神をメンバーに喰わせた結果です。でも、この程度は自軍のみで処理できないと、とても上位神なんて名乗れません」
「ふふっ……言うじゃないの、ルエル。全くもってその通りだけど……」
挑戦的かつ煽りいっぱいのルエル神の笑みと、静かで穏やかで盛大に煽りを含むアイシュラ神の微笑み。
なんだか、始めから仕組まれていたのではないかと思えて来た。
私の実力を見定める為に、わざわざ準備して用意しておいた課題の一つ。評価するのは目の前の二柱と他多数で、うまくやれればそれで良いし、うまくやれなければそれまでの奴だ、と。
気に入らない。
試す場と機会を用意しておいて、知らぬ存ぜぬを決め込む腹黒い連中全員が。
「…………参考までにお聞かせください。お二方なら、彼の者達は脅威となりますか?」
「それ以前の問題ね。私の元まで辿り着けると思えないわ」
「癪ですが、アイシュラと同意見です。いくら神喰いとはいえ、敵対する神の前に立てなければ有象無象と変わりません。彼らの中で最も強い『神吸いのユーゴ』でさえ、並みの勇者にすら劣ります」
「余計な事かもしれないけれど、貴方は尖兵一人一人に力を分け過ぎたのでしょう。本来なら勢力全体の底上げとなる行為が、逆に神喰い達の付け入る隙となってしまっている。抜本的に、組織の管理方法を見直す事をお勧めするわ」
「……そう、ですか…………」
私は、先達である二柱の言葉に自らの行いを顧みて、すぐに省みる事をやめた。
巫女達に血と力を分け与えたのは、男として愛する女を守りたかったからだ。
たまたま何百人という人数がいるだけで、判断の基準はどこまでいっても個と個の関係の延長でしかない。組織の長として適当ではないと評されたとして、はいそうですかと頷く事は到底できない。
彼女達への愛を、否定なんてできない。
ならばどうするのか?
私の血による攻撃は、神喰い達に殆ど通じない。言い方を変えれば、それは私の愛が彼の者達の前には無力という事。
大変気に入らない。
かといって、嫌だ嫌だと言うだけではただの愚図と同じだ。
(要は、神喰い達に対抗できる手段を見つけ、巫女全員が使える様にすれば良い。理想は私が与えた力を土台としていて、神となった後も神に染まっていない力)
そんな物があるのだろうか?
何度かの自問自答を繰り返して結局思いつかず、私は書類を纏めて席を立った。
「貴重な情報と機会を頂き、ありがとうございます。神喰い達への対処については、持ち帰って少し考えてみたいと思います」
「良い答えが出せる事を期待しております」
「あ、しなずち神。指輪と婚姻の誓いのお礼にヒントを差し上げます。ヴィラ神の尖兵だった頃の貴方なら、神喰いに対して一切の不利はありませんでした」
「? それは、どういう――?」
「私から言えるのはここまでです。答え合わせは、貴方の属神達と一緒にすると良いでしょう。ご武運を」
ルエル神はそれだけ言うと、指を鳴らして周囲の世界から光を奪った。
真っ暗な闇の中に放り出され、ほんの少しの浮遊感の後に両足が地を踏みしめる。夜明けの様に少しずつ光が戻っていくと、目の前に骨組みだけになった社の本殿が現れた。
留守を頼んだ巫女達が、目を丸くして私の姿を見つめている。
どうやら社にまで転移させられたようで、すぐ背後にはシスター姿のユーリカもいた。何が起こったのかと戸惑っていて、私は触手で胴を巻いて傍らへと引き寄せた。
「ただいま、皆。ヴィラとキサンディアはどこ?」
光を通さない薄暗がりの中で、私はルエル神とアイシュラ神を相手に対していた。供は連れずに一つのテーブルを三柱で囲み、用意された書類一枚一枚を眺め読み込む。
内容は、神滅戦線に関する詳細事項。
どうやって調べたのかわからないが、記載されている内容は非常に有益な物だった。構成人数、組織図、潜伏中の都市、現在行われている作戦、拠点となる二つの国と、いつかその小ぶりのケツに極太触手をぶち込んでアヘ顔を晒させてやりたいクソ頭領の憎らしい写し絵。
ヴィットリアから『半年前に渡界した』って聞いた時、もしかしてと頭に浮かんだのがまさかの正解だったか。
琥人の野郎……っ。
「アルセア神の尖兵のくせに、何で神を滅する組織を率いてるんだよ、アイツッ」
「リスクマネジメントの一環と言っていたわ。アルセアの尖兵達は、ディプカントの様々な場所に拠点を置いて、多大な影響力を行使する管理者達だったの。中でもハイエルフの族長である琥人は、様々な種族や組織から頼られてご意見番を務めていたわ」
「貴方の管轄内にあるラスタビア勇国、カルアンド帝国、白狐族も、元は彼の管理範囲です。尖兵でありながらやっている内容は神に等しく、数千年前に中位神二十三柱と衝突した際には、たった一人で残らず返り討ちと滅神をしています。ソウ様の尖兵であるカエデと同等の実力者です」
「いつでも潰せるから、遊ぶ玩具にでもしようとした……? どこまで性格が悪いんだよ…………」
書類を捲りながら、琥人が考えそうな悪巧みを予想する。
対神戦争の鉄砲玉。
便利な伏兵。
増えすぎた神を間引くための自浄作用。
どれもありえそうで、逆に一つだけでなく全てを意図しているようにも感じる。方針だけ与えて勝手をさせている辺りがまさしくそれ。ハチャメチャな幹部に運営を任せて、わざと暴走させている懸念も浮かぶ。
こいつら、本当にどうにかしないとまずいな。
「神喰いは、ユーゴ、ヴィットリア、清水さん、ジェンを筆頭として八十五人? いくらなんでも多すぎでしょう?」
「先程言った、琥人が返り討ちにした神をメンバーに喰わせた結果です。でも、この程度は自軍のみで処理できないと、とても上位神なんて名乗れません」
「ふふっ……言うじゃないの、ルエル。全くもってその通りだけど……」
挑戦的かつ煽りいっぱいのルエル神の笑みと、静かで穏やかで盛大に煽りを含むアイシュラ神の微笑み。
なんだか、始めから仕組まれていたのではないかと思えて来た。
私の実力を見定める為に、わざわざ準備して用意しておいた課題の一つ。評価するのは目の前の二柱と他多数で、うまくやれればそれで良いし、うまくやれなければそれまでの奴だ、と。
気に入らない。
試す場と機会を用意しておいて、知らぬ存ぜぬを決め込む腹黒い連中全員が。
「…………参考までにお聞かせください。お二方なら、彼の者達は脅威となりますか?」
「それ以前の問題ね。私の元まで辿り着けると思えないわ」
「癪ですが、アイシュラと同意見です。いくら神喰いとはいえ、敵対する神の前に立てなければ有象無象と変わりません。彼らの中で最も強い『神吸いのユーゴ』でさえ、並みの勇者にすら劣ります」
「余計な事かもしれないけれど、貴方は尖兵一人一人に力を分け過ぎたのでしょう。本来なら勢力全体の底上げとなる行為が、逆に神喰い達の付け入る隙となってしまっている。抜本的に、組織の管理方法を見直す事をお勧めするわ」
「……そう、ですか…………」
私は、先達である二柱の言葉に自らの行いを顧みて、すぐに省みる事をやめた。
巫女達に血と力を分け与えたのは、男として愛する女を守りたかったからだ。
たまたま何百人という人数がいるだけで、判断の基準はどこまでいっても個と個の関係の延長でしかない。組織の長として適当ではないと評されたとして、はいそうですかと頷く事は到底できない。
彼女達への愛を、否定なんてできない。
ならばどうするのか?
私の血による攻撃は、神喰い達に殆ど通じない。言い方を変えれば、それは私の愛が彼の者達の前には無力という事。
大変気に入らない。
かといって、嫌だ嫌だと言うだけではただの愚図と同じだ。
(要は、神喰い達に対抗できる手段を見つけ、巫女全員が使える様にすれば良い。理想は私が与えた力を土台としていて、神となった後も神に染まっていない力)
そんな物があるのだろうか?
何度かの自問自答を繰り返して結局思いつかず、私は書類を纏めて席を立った。
「貴重な情報と機会を頂き、ありがとうございます。神喰い達への対処については、持ち帰って少し考えてみたいと思います」
「良い答えが出せる事を期待しております」
「あ、しなずち神。指輪と婚姻の誓いのお礼にヒントを差し上げます。ヴィラ神の尖兵だった頃の貴方なら、神喰いに対して一切の不利はありませんでした」
「? それは、どういう――?」
「私から言えるのはここまでです。答え合わせは、貴方の属神達と一緒にすると良いでしょう。ご武運を」
ルエル神はそれだけ言うと、指を鳴らして周囲の世界から光を奪った。
真っ暗な闇の中に放り出され、ほんの少しの浮遊感の後に両足が地を踏みしめる。夜明けの様に少しずつ光が戻っていくと、目の前に骨組みだけになった社の本殿が現れた。
留守を頼んだ巫女達が、目を丸くして私の姿を見つめている。
どうやら社にまで転移させられたようで、すぐ背後にはシスター姿のユーリカもいた。何が起こったのかと戸惑っていて、私は触手で胴を巻いて傍らへと引き寄せた。
「ただいま、皆。ヴィラとキサンディアはどこ?」
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