しなずち ~転生触手妖怪 異世界侵略風味、褐色爆乳女神と現地収穫の巫女衆を添えて~

花祭 真夏

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第142話 魔王神の御膝下

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 地獄というか魔界というか、魔族の都として世間一般にあるイメージはそこには無かった。

 濃厚過ぎる魔力が霧の様に薄く漂い、都全体を白く覆って視界を遮る。

 熱感知も音探査も全てが狂わされて役に立たず、辛うじて見えて聞こえて感じるのは、巡回警備している巨大な魔導ゴーレムの足と音と振動だけ。生ある者の気配は全く感じられず、これまで訪れた国の中で最も警戒感を抱かせられた。

 流石、あの魔王神アイシュラの御膝下だ。


「お前らは初めてだよな? ここがアイシュラ魔王国の首都『ヴァル・ヴィエンデ』。アイシュラに認められた者しか来る事はできないし進めもしない、正しい意味で魔の巣窟だ。敵意を持って踏み込んで、生きて帰れたのは二人しかいない」

「片方はアンダルとして、もう一人いるのか? そんな人外が……」

「俺だよ。ロザリアに要らない事を吹き込んだクソ親父をぶん殴りに行ったんだ。当時の俺じゃ敵わなかったけど、あれから何度も血反吐を吐いて鍛えた今だったらリベンジできるだろうなっ」

「こっちの用事が終わってからやってね? ユーリカ、私の身体を握って離れないように」

「正直、怖くて離せません。この霧の魔力、全てたった一人が片手間で展開しています。都市を丸ごと覆い尽くす程の魔力なんて、これまで感じた事がありません……」

「やってるのは親父だ。多分、俺達が来たってもう気付いているだろ」

『その通り。陛下がお待ちだよ、ヴァテア。御客人に失礼が無いようにご案内差し上げなさい』


 耳元で確かに声が聞こえ、咄嗟に顔を向けるが霧しかない。

 ほんの少しの揺らぎが見えて、何をどうしたのかが頭に浮かぶ。耳元の魔力を振動させて音を作り、声を再現して伝えて来たのだ。

 何て緻密な魔力制御。

 広域展開と同時にやってのける技量は、ヴァテアとリザ以外に見た事が無い。ヴァテアの父親というのも伊達ではないらしく、私は最低でもユーリカを守り切ろうと全身の魔力を滾らせ回す。

 私の統魔適性は、封魔、退魔、降魔の三つ。

 対魔防御に秀でた組み合わせで、厳しい先生の下で何年ものマンツーマン特訓をやらされた。十分に抗しきれると自分自身を信じ、服を握るユーリカの手を私の方から迎えて掴む。

 彼女の生と命と熱と、震えと怯えを押さえて制す。

 肌を通して心が通い、ユーリカは平静を取り戻した。私の巫女として、眷属として、立派に凛を纏って微笑みを浮かべる。

 大丈夫。私がいるのだから。


「あっ、しなずち様。ちょっと濡れてきちゃいました……」

「我慢しようね? ヴァテア、案内よろしく」

「了解。こっちだ」


 そう言うと、ヴァテアは正面でも左右でもなく上を指した。

 指先に流れる魔力を異常に回し、霧の魔力を掌握して渦を巻かせる。人一人が十分通れる大きさだけ視界を晴らすと、はるか上空に大地と共に飛ぶ円筒状の城が見えた。

 いや、城なのか?

 どちらかというと、これは要塞ではないか? 城というのは、訪れた者に権威を示す美や技巧を施した魅せる芸術。前世の東洋西洋どちらも同じく、一目見ただけでそれが『城』とわかる。

 しかし、アレは違う。

 形容するなら、ホールケーキを二つ重ねた円筒城塞。等間隔に並んだ窓は面白みが無く、ただただ無機質で無骨な不気味さしかなかった。

 世界に合わず、異質に過ぎる。


「レスティから聞いてたイメージと違うんだけど……?」

「理由は二つ。一つは、神国とやり合う為の拠点でもあるから、壊されてもすぐ直せるように形状に凝っていない。もう一つは、魔霧で覆うからそもそも魅せる必要が無い」

「えぇぇぇぇぇ?」

「その分内装には凝ってるからっ。ただ…………ディプカントらしくないって点はどうしてもあるな。カルアンド以上の超技術で、一万人の人口を賄える生産設備を整えてる。住民は全員インテリ系のエリート揃いで――――って、説明するより見た方が早い。さっさと行くぞ」


 ヴァテアは周囲魔力の流動で身体を浮かせ、付いて来いと手招きする。

 乗せてもらうのは良いけど、自分で飛ぶのは苦手なんだけどなぁ……。

 仕方なく、私はユーリカの身体をお姫様抱っこで抱き上げ、背中から四対八枚の翼を生やした。抱き上げる時に股辺りの湿りがやけに凄かったが、もう少し保って我慢してお願いだよお願いだからね?

 うっとり、恍惚とした雌の顔が私をじぃっと見つめて見つめる。

 もう、すっかり発情しちゃって…………。


「……我慢出来たら時忘れで、ね?」

「はぁい。準備してお待ちしております。ふふっ」

「怖いって言ってたのはどこに行ったんだか……」


 首に腕を回されて頬と耳穴を舐られながら、私は空へと跳躍する。

 妖怪としての要素に空を飛ぶ物は入っていないが、一応は龍の化身でもある。翼は容易く空気を掴んで舞い上がり、次いで足が地についていない不安が身体と心に染みて凍らせた。

 水龍として、地龍として、大地から離れる恐怖は計り知れない。

 もうさっさと着いてしまおうと全力で飛んで飛んで飛んで飛ぶ。武力侵攻と思われようが、後で弁明するから構いやしない。とにかく土が、地面に、足を着ける場所を求めて急いで急ぐ。


「ちょっ、待――――」


 五秒くらい正気でいて、そこから先は覚えていない。

 これだから、私は飛行が苦手なのだ。
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