しなずち ~転生触手妖怪 異世界侵略風味、褐色爆乳女神と現地収穫の巫女衆を添えて~

花祭 真夏

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第131.5話 神嫌い達の暗躍

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 神は何故神なのか。それは人がそう決めたからだ。

 神が人を創り給うたと、前世の宗教家共は総じて説いた。そう説くお前らがいなければそうならない程度の存在が、絶対の創造主であるなんて私は絶対に認めない。

 人を弄ぶだけのクズ。

 人を巻き込むだけのクズ。

 クズとクズとクズとクズと、クズの中のクズとしか評するに値しない。張りぼての座にふんぞり返って不幸を見下し、悦に入る正真正銘のドクズのドクズ。

 そんな奴らに一泡吹かせる為、私はひたすら前世を思考した。

 人間社会を崩壊に導く、経済恐慌の開始と展開。

 勘付いた病神が疫病を撒き散らし、交易を断絶し始めたのには冷汗をかいた。他世界の侵攻神達が救済と復興をしてくれたおかげで少しの遅れで済み、起点となる芸術の都『ジャンユー』の物価は、遂に開始前の三十倍にまで膨らんだ。

 後は隣国と北の港湾都市を経由して、全世界を混乱のるつぼに叩き落とす。

 戦と混沌でこの世は満ち、人口は減り、今ある文明は三世代程後退に向かうだろう。

 その中で、どれほどの神が信仰を保っていられる?

 存在していられる?

 惨めに滅び、私を呪う?

 あぁ……直接この目で見られないのが残念でならないわ……。


「ヴィットリア様」


 変声期を過ぎたばかりの、若々しい男の声が部屋の外から静かにかかった。

 窓の外はオレンジ色に染まり始め、もう少しすれば暗がりから暗闇に。机と椅子とベッドが一つという殺風景な室内は、徐々に徐々に夜を濃くして、私の身体の半分を黒の色に染めている。

 寝ていたベッドから起き上がり、短く詠唱して灯りを点す。

 美姫とは言えないまでも、自慢の女が薄明りに照らされた。

 昼間に吸われたわき腹や胸、きっと首筋と背中にも跡がついている。つけた相手は外の彼ではないから、見せれば嫉妬して乱暴にされてしまうだろうか?

 誘惑するまでもなく腕を掴まれて押し倒され、愛撫もそこそこに容赦も加減もなく貫かれる。

 それも良い。

 彼のは太くておっきくて、溢れるくらいたくさん出せる。今の私を満腹にさせるくらい、気絶しないでやり遂げてくれる。

 吸い尽さない保証はないけど、まだ夜になり切っていないから我慢くらい出来ると思う。

 多分。


「開いてるわ」

「いえ、ここで失礼致します。マルドイユにいるラバンとグラゴーの隊より鳩が届きました。残念ながら、悪い知らせです」

「誰か捕まった?」

「いえ。ブラックマーケットの人買い達が、ジャンユー近郊の都市や町村から奴隷を買い漁っています。余程の上等な資金源があるのか、住民の半分が買われた村もあるとか」

「ふぅん……人を減らして金をばらまいて、需要と供給のバランスを崩してきたか。音頭を取ってるのはどこ? バルネバのグランマ? テュラック商会のテュラック・バルバー?」

「いえ、その…………大変、申し上げにくい事なのですが……」


 言葉を詰まらせる彼の躊躇いに、私はドアの前まで歩いて開けた。

 可愛らしい犬耳の青年が驚きの表情で迎え、頭を掴んで深い谷間に引いて落とす。

 私の体臭に発情し始めた彼は、息を荒くして尻尾をブンブンブンブン振って振る。部屋に引き込んでベッドに放り投げると、持っていた伝令書を手から放して、されるがままに転がされた。

 ゆっくり、ゆっくり。

 獲物に近づく蛇の様に。

 狙いを澄まして、這って、這い寄る。


「良いから言いなさい。でないと、前の子みたいに食べきっちゃうわよ?」

「っ!? マ、マヌエル山脈の災厄が動きましたっ! 信用できる筋からの情報では、創造神ソウによって尖兵から上位神へと召し上げられ、レレイジュ神を調伏して北への侵略を開始したと!」

「あのハーレム坊やが上位神? 随分と面白くない話ね?」

「面白くないで済ませられるかっ。悠長に男なんて喰っていないで、計画への影響の精査と修正をしろっ」

「あら? ユーゴ、戻っていたの?」


 隅の暗がりから吹き出した霧が、黒い外套に身を包むマスクの男に集まり成った。

 国内のヴァンパイア達を率いる、私と同格の幹部の一人。

 表の顔であるギュンドラ王国建国の英雄『閃夜のユーゴ』の活動は一段落したのだろうか? 表情が憤怒の上に激怒と苛立ちを混ぜて捏ねて塗りたくったようで、余程腹に据えかねる事があったのだろうと窺い知る。

 ギュンドラで、一体何があったのか?

 確か、異世界からの侵攻神達と無事に示談に持ち込めたと報告があったが……?


「随分と怒り心頭ね?」

「ああっ。昔の仲間が戻ってきたと思ったら神にされていやがったっ。魔王神アイシュラに、ギュンドラ王国の滅亡とどちらか選べと強制されたとっ」

「かける言葉が無いわね…………でも、神である以上、私達の駆除対象には含まれてしまう。覚悟を決めるか、フォルゴの研究が成るまで待つか……」

「待ってはいられないっ。今回を逃したら、次の神界戦争は何万年後になるかわからないっ。神共の同士討ちなんて最高の機会を逃す手はないっ」

「ならどうするの? すぐ状況を確認するけど、経済恐慌を引き起こす計画は多分もう無理ね。何故か通信技術を発達させられないこの世界では、何もかもが緩やかに進行していく。意図的なインフレもデフレも、監視がきつくなった市場で引き起こすのは難しいわ」

「他の手を…………他の手……手を……」


 ユーゴは真剣な表情を浮かべ、ブツブツ呟きながら思案にふける。

 流石にこの状況でやり始めるわけにはいかず、犬人の青年に軽くキスをして仕事に戻らせた。明日の朝にもう一度来るよう命じておいて、夜まで好きにさせてあげると小さく囁く。

 期待に満ちた顔が実に可愛らしい。

 性に疎い少年青年との火遊びはやっぱり楽しいし気持ちいい。ユーゴも神への復讐だけではなく、こういう愉しみを覚えれば良いのにと切に思う。

 今度、寝所に誘ってみようかしら?


「そういえばユーゴ。頼まれていた物が手に入ったのだけど、持っていく?」

「――ん? 頼んでおいた……アレか? いや、もう今更だから……」

「は? 物価インフレを引き起こすついでに稼いだ資金の八割も使ったのよ? もう要らないとかふざけた事を言うなら、今後の貴方への資金援助は考えないといけないわね?」

「んんっ!? す、すまないがそれだけは勘弁してくれっ! 女神軍との戦いで動員したヴァンパイア達への給金支払いで、もう予算が底をついてる! むしろ補充がないと碌に活動もできなくて――――」

「なら、一度でも有効に使いなさい。世界最高の対不死武器で、元は貴方の仲間の得物でしょう? 丁度出しゃばってる不死神がいる事だし、首の一つでも取ってきなさいな」

「ん…………奴の首、か……」

「?」


 それまで激しく燃えていたユーゴの怒りが、雨に打たれたように小さく燻っていく。

 怒りは怒りとして存在するものの、複雑に色を重ねている。許しがたい暗い色、沸き上がる激しい色、諦めかけのくすんだ色、落ち着きを見せる静かな色――――。

 カッとなりやすい知性派ヴァンパイアらしからぬ反応だ。

 いつもの真っ先に手を出してしまう短気さと短慮さがない。相手が誰であろうと向かって行き、構わず噛みつく彼らしくない。

 これまでの反応を見るに、鍵はマヌエル山脈の災厄か?

 単なる女の敵というわけではない? ユーゴに躊躇いを持たせるだけの何かを持っていると?

 少し、ちょっと、微かにだけれど、興味が惹かれる。


「思う所でもある?」

「…………アンダルが俺達の元に戻って来たきっかけが奴だ。その分の恩を返さないまま、滅神するのは気が引ける」

「あらあら。一度負けたのに、次は勝てると言わんばかりじゃない? その自信はどこからくるのかしら? 言わなくてもわかるけど」


 私はテーブルの引き出しから鍵を一つ取り出し、ユーゴに向かって投げ渡した。

 ふぬけた面に叩きつける勢いで投げたのに、当たり前のように軽く受け取られる。萎えているのは外見だけで、中身はいつも通りの磨がれた牙のままらしい。

 少し安心した。

 そして、気の毒に思った。

 神となったが故に、以前圧倒出来た相手に圧倒されなければならない不死なる彼を。

 二重に弱点を突かれ、為す術無く滅されなければならない不幸な彼を。

 上位神、しなずちを。


「頭領には私から言っておくわ。やっちゃいなさい。『神吸い』ユーゴ」


 紅く光る夜の瞳に、私は確かに静かに命を下した。
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