しなずち ~転生触手妖怪 異世界侵略風味、褐色爆乳女神と現地収穫の巫女衆を添えて~

花祭 真夏

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第126.5話 正しき道

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 『違える事なき誓いを共に』。

 尖兵となる時、私とレレイジュは互いに誓った。

 自らを律し、自らに課し、自らが重んじ、自らで成す。

 決して破ってはならない誓い。

 必ず成し遂げる誓い。

 世界が変わってもそれは変わらず、変わらないからこそ私達は在る。


「サカキ団長。救出した人々は野営地に辿り着きました。殿はもうよろしいかと」


 後方からかけられた声に、私は少しばかりの安堵を漏らした。

 夜の森の街道で、斬り倒した木のバリケード越しにマルドイユの方角を見る。

 狭まった道幅から視界は狭いが、索敵は別にいるから問題はない。私の担当は追って来る連中を斬り伏せる事。指揮官と言う立場にはふさわしくないが、私以上に出来る者がいないから私がやる以外に選択肢はない。

 一人でも多く追っ手を食い止め、救出した奴隷達の逃げる時間を稼ぐ。

 野営地まで行けば、事前に用意しておいた馬車がある。無事に乗れれば本国までは一夜で着け、彼らは不当な境遇から解放される。

 あと少しで、それは成る。

 だが、あの街には奴がいる。

 女を人と見ず、性処理道具としか見ない人外の外道。過去に他の英雄や勇者達と討伐に向かい、討ち果たせなかった不手際を悔いても悔いても悔いきれない。

 しかも、今この場にあの時の仲間は誰もいない。

 いるのは私一人だけで、出来るのはただただ寄って斬って殴って斬ってのみ。それだけなら第二位勇者と張り合える自信はあるものの、彼の様に魔術も言霊も使えないから取れる手が極端に少ない。

 相対する前から、負けのビジョンしか浮かばない。

 しかし、それを表に出せる程、私の立場は軽くない。


「了解した。先行部隊に合流してそのまま本国へ向かえ。だが気を抜くな。マーケットを制圧しようとしたガルドラスの隊が、マヌエル山脈の災厄にやられたと聞いた。まだ奴がいるとしたら、その時は命を賭して時間を稼ぐ」

「おいおい、アンタに死んでもらっちゃ困るぜ、団長。レレイジュ様の尖兵はもうアンタだけだろ? 新しいのもなかなか見つからねぇしよぉ」

「本来であれば、神殿で大人しくしていて欲しい所なんですよ? なのに危険な任ばかり受けて…………宣誓騎士団長兼教皇と言う自分の立場をきちんと理解しているのですか?」

「ココが私の任地だからな。怖ければ、バザもニヌも先に行って良い」

「ざっけんなっ。アンタの誓いが成し遂げられるかを、一等の席で見届けるのが俺の楽しみなんだぜ? 旗色が悪いからって遠ざけるのは良くねぇなぁ?」


 とても騎士とは思えない口調で、バザは私に笑い掛けた。

 劣勢どころか負け確なんだが、きっと言っても聞き入れはしない。獲物の片手斧でジャグリングを始め、緊張も恐怖も無縁に見える。

 見習いたいし、見習わせたい。

 レレイジュに宣誓した者達の殆どは、誓いの内容を曲解して好き勝手にやる愚物ばかり。五つある騎士団の内、まともに騎士を名乗れるのは二つだけで、劣勢となれば我先にと逃げだす臆病者が大半を占める。

 貴様らの誓いはそこまで軽いのか?

 幾度となく問い質し、考えが古臭いと断ぜられた。

 誓いは自分への契約であり、破る事は自らを唾棄する行為と理解できないのだろうか? そんな簡単な事もわからないような者が、誓いの騎士を名乗るなど笑わせる。


「…………そういえば、奴は理解してくれたんだったか……」


 討伐に向かった先で、幾人もの女性を侍らせ犯していた邪なる者を思い出す。

 その醜態に恥ずかしくないのかと問い、返ってきたのは『これが私なんだ』という自嘲染みた答え。

 悩んで諦めて認めた行き止まりを、終世の居場所と定めたどうしようもない大馬鹿者。やってる事がもう少しまともなら別の付き合い方も出来たろうに。残念で残念で途方もなく苦しく辛い。

 …………今からでも、和解できはしないだろうか?


「あん? どうした?」

「何でもない。それより、常に地面には注意を払え。土と水は奴の身体も同然だ」

「多重属性のバケモン相手はつれぇな、おい。名を失いし堕ち神とどっちがマシだろうな?」

「当然、堕ち神だ。レレイジュ神の神託では、しなずちは上位神へと至ったらしい。属神も三柱いて、かつてラスタビア勇国を滅ぼしかけた異界の魔神をも従えている」

「あぁ~……ニヌ? 今からでも一発やらねぇ? 最後がお前なら悔いなく逝けると思うんだよ」

「生きて帰れたら好きなだけどうぞ。――――ユウト。糸の振動が七つ分、馬よりも早く近づいてきます。接敵まで二分」


 両手の指と腕に巻いた何百もの糸束から、ニヌが敵の接近を感じ取り報告してきた。

 魔力の糸を広範囲に張り巡らせ、範囲内の状況を把握するのが彼女の得意技だ。この場を中心に半径十キロをカバーしていて、追っ手は必ずこの網に引っ掛かる。

 レレイジュ教国に繋がる街道は、この一本のみ。

 脇に外れれば目印も何もない森を行かねばならず、夜行性の魔獣や魔虫の襲撃に晒される。まともな頭があれば街道以外を選ぶはずがなく、そうなれば私達の布陣と正面からかち合う。

 にしても、追っ手が七?

 内一つが奴として、六人も連れてきている理由は何だ? 追撃、制圧、掌握から従属までを一人でこなせるアンデッドが、何故足手纏いを六人も連れる?

 配下の巫女共は単なる性奴。元勇者のソフィアとヒュレイン以外は、万人に一人程の美貌を除いて戦う力を持っていなかった筈。

 一体――――っ!?


「ユウト!」

「わかってる! 二人とも、俺の後ろに入れ!」


 私は腰の鞘から右手で剣を抜き、左手に全身を覆える大盾を構える。

 ザルな魔覚でもすぐにわかった。

 空を埋め尽くさんとする量と規模で、魔力の塊が孤を描いて飛来してくる。数にして千か二千か。宵闇に紛れて視覚で掴めず、中途半端に押し返しても隙間と脇から抜けてくるだろう。

 ――――よりよってアイツが堕とされたのか。

 アイツと私は同格の英雄だ。一瞬でも気を抜けば容易くねじ伏せられる。機動力もあるから追いつかれる可能性も高く、何としてもここで止めなければならない。

 最初から全力。

 加減は出来ない。


「全て押し返すっ!」


 私は私に誓いを立て、滾る力で盾を押した。
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