しなずち ~転生触手妖怪 異世界侵略風味、褐色爆乳女神と現地収穫の巫女衆を添えて~

花祭 真夏

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第124話 商業城塞都市マルドイユ

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 会議から一週間が経ち、私とエドルは社の遥か北遠に位置する商業城塞都市マルドイユを訪れていた。

 レレイジュ教国、グランガ傭兵国、バルネバ精霊国の三国国境が重なる一点。軍事衝突を避ける為に各国二つずつ砦を設け、それぞれを城壁で六角に繋げた強固な都市だ。

 中小国家首都の、一歩手前程の規模を誇る。

 だが、それはあくまで表の話。

 裏と言うか地下には、地上部の五倍を超える大遺跡が埋まっている。既に踏破されて宝などは残っていないが、残された遺跡そのものが彼らにとっては宝同然だった。

 ブラックマーケットを取り仕切る裏組織『六角連合』。

 簡単に言えば、地上にある六つの砦のもう一つの顔だ。

 彼らは日々の業務をこなす傍ら、時に競り合い、時に協力し合い、遺跡の改修を進めてきた。おおよそ五百年という月日をかけて九割近い範囲に手が入れられ、そこで表に出せない品々がいつの間にか捌かれている。

 そして、私もここに品を卸す一人。


「少し増えた?」


 地上部の正面門を潜り、通りに並ぶ屋台の数を前回と比べて数えて眺める。

 以前は屋台と屋台の間に余裕があったが、今は殆ど隣で隙間がない。それでいて品の並べ方は素人同然に整理が甘く、古参の商店主がレイアウトのレクチャーをしながら立体収納用に小型の机を売りつけていた。

 一体何をやっているのだろう?

 売りに来て買っていては本末転倒だ。売り手なら如何に売るかを考え、買うなら本当に必要か考えなければならない。

 幸い、あの店主が売っている机は折り畳み式だから他でも使用できる。これが普通の机なら、終わった後に片付ける手間が増えてしまう所だった。

 新参者が多く流入している。

 大元は、おそらく北。


「しなずち。曲がり角のミートサンドの屋台を見ろ。値段の張り紙が二回上貼りされてる」

「元値から二割増し、か。これから本格的に影響が出そうだな」

「あぁ。急ごう。――――衛兵さん、落とし物を預かってください」


 私達は城壁に寄りかかる衛兵を捕まえ、銀貨一枚を掴ませる。

 銀貨は入場料。落とし物は合言葉。

 部外者や査察を遠ざける為、ブラックマーケットに入るには三回の入場チェックと三枚の銀貨を必要とする。街の衛兵達がチェック役で、どこの誰に言っても意味は通る。

 ただ、彼はまだ日が浅いようだ。

 私達の幼い姿に、無駄な正義感から露骨に嫌な顔を向けてきた。


「おいおい。こんな程度の落とし物なら懐に入れちまえよ、坊や達」

「商人たるもの、銅貨一枚も無駄には使うな。父の言葉です」

「っと、テュラックの御曹司でしたか。失礼しました。そちらの方はご友人ですか?」

「人ではないですが、友です。落とし物、預かって頂けますか?」

「承知致しました。それと、申し訳ございません。この度の非礼をお詫びしたいので、詰め所までご同行願えますでしょうか? 隊長より常日頃、問題を起こした際は報告するよう言いつけられております」

「承知しました。お願いします」


 二人の掛け合いを横で眺め、よく舌が回るものだと感心する。

 第一のチェックは街の衛兵、第二のチェックは詰め所の責任者が行う。

 衛兵は最初に部外者を遠ざける言葉を使い、その後に資格がある者を詰め所に連れて行かなければならない。周囲から見て怪しまれない内容と話題をアドリブでこなす必要があり、チェックされる私達もそうある事を求められる。

 これがなかなか難しい。

 私は初対面の相手にはまず無理で、いつも顔見知りを見つけては精力剤の営業ついでにチェックしてもらっていた。入場料の銀貨は衛兵の取り分なのに、貰った額より払った額の方が多いと何度愚痴られたかわからない。

 まぁ、仕方ない。

 十五も下の奥さんを娶ったんだ。毎晩満足させる為なら安いもんだろう。


「どうぞ、こちらへ」


 丁寧な案内と先導で、街の奥へと私達は向かう。

 背が高いレンガ造りの街並みに、隅から隅まできちっと舗装された石畳の大通り。

 行き交う人々はいつもよりまばらで、歩いていて人を避ける必要がない。今日あるイベントを考えれば異様に思え、摘発でもされるんじゃないかと熱感知で街全体を窺い調べた。


「あっ」

「なんだよ、しなずち?」

「街の各所に合計三百人、重装備の騎士兵が潜んでる。多分、レレイジュ教国の国教騎士団だ」

「まさか摘発か? どこのどいつだよ、ヘマ打ったのは……」

「いや、まだ入り口を見つけられていないみたいだ。偵察員が何人も出て、結構乱暴に探ってる。通りに古参の連中が少ないわけだよ。早めに下に行って避難してるんだ、きっと」

「全く……どうする?」


 答えがわかり切った問いをエドルから向けられ、私は軽く胸を叩いた。

 呼び出しに応じ、朱い羽衣の白狐姉妹が私の影からずるりと這い出す。

 可愛らしい微笑みと懐っこい頬擦りを両頬に貰い、発情しない程度に舌を絡める。頭を撫でて髪を梳き、優しく冷たく命を下す。


「『全員生け捕り。一人も逃がさず連れておいで』」

「「『了解しました』」」


 返事と共に、カラとカルの姿が霞の様に掻き消えた。

 追い詰めている筈が追っ手を差し向けられ、追っている先からも追われて袋小路に迷い込む。

 結果、どうなるかは明々白々。三百人の取締官は同じ数の奴隷となり、今日という日に方々に向けて売られていく。

 ――――七人くらいは手元に置こうか。

 なかなか良い身体をしている女体の熱に、私は出品用の過剰媚薬を取り出した。一粒で気狂いしかねない代物だが、いっそ壊れた方が国への忠義をさぱっと捨てられて丁度良いだろう。

 そして、私のモノへと成り果てる。


「にしても、自分で手を下せないのは少し面倒だな…………カラとカルに頼みっぱなしになりそうだ」


 かけた労の対価、どうしようかなぁ……?
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