しなずち ~転生触手妖怪 異世界侵略風味、褐色爆乳女神と現地収穫の巫女衆を添えて~

花祭 真夏

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第122話 戦時中の土木建設舐めてました、ゴメンナサイ

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「こんな時に何やってやがんだ、てめぇは…………」


 ほぼ骨組みだけになった本殿を見上げながら、闘士と見紛う屈強な老人は自身の髪をガシガシ掻いた。

 地上三階の巨大木造建築のなれ果て。

 破られた壁は全て除かれ、家具や巫女達の私物は昨日の内に移動した。素人目では建設途中の工程に見えなくもなく、壁と床さえ張り直せば元通りになるのではないかと思われた。

 しかし、老人――――棟梁の表情は難しい事この上ない。


「すいません。それと、同じ大きさの建物を二棟増築したいんですけど――――」

「エダから聞いてねぇんか? どっこもかしこも戦争で、砦やら何やら作るのに市場から資材が消えちったよ。薪の代わりだってぇ木っ端まで残らず持ってっちまう。金はあっても売るもんがねぇって、テュラックの坊が目ぇ回してんぜ?」

「ぇぇぇ~……? この辺は前線からかなり離れてるのに……?」

「関係ねぇ。戦争が始まったら、終わった後も資材不足が続かぁな。とっくに木の値が跳ね上がっから、こん前の三倍くれぇは覚悟しとけ。ま、それ以前に再築できっだけの量がねぇがな」

「何か手はないですか?」

「俺ん方が訊きてぇよ」


 腰に差していた木槌を手に持ち、棟梁はそこかしこの柱や土台を叩いて回る。

 微妙な音の響きの違いで、痛みや歪み、割れ等がないかを確認している。木、土、石等、素材の違いは障害にならない。長年の経験が同じケースを割り出して、確かな結果を示してくれる。

 ただの音にしか聞こえない私には、羨みしか向けられない。


「補修いらんか。周りん山木ぃ切り出して使やぁ、多少なりぃマシになんやろ」

「それは出来ません。以前の勇者連合との戦いで、周辺の山々は傷ついています。少しの間伐でも植生と獣達のバランスが崩れかねません。五脈に影響も出るでしょう」

「んなら、いよいよ打てっ手はねぇね」


 頼みの綱が首を振り、お手上げとばかりに両手を上げた。

 いくら職人でも、材料が無ければ出来る事はない。ごく当たり前の事で、本来は施政者である私が何とかすべき問題だ。

 ただ、勇国でミカ・ヴァスを作ったようにはいかない。

 ここは五脈が集中する特大の霊地。植物の促成栽培に大規模な地質改変を行えば、他とのバランスが崩れてかなりの広範囲に影響が出る。

 湿地が草原に変わったり、乾燥地域に大雨が降ったり、偏西風が止んだり、街の中心が噴火したり――――正直な所、何が起こるか予想がつかない。

 もしやるなら、こことは別の適当な場所でないと……。


「大事なお話をされている所、申し訳ございません。しなずち様。テュラック商会のエドル副会長がお見えです。お爺様も交えて緊急のご相談がある、と」

「エドルが? 何だろ?」

「売るもんがねぇって言ったろがぃ。買い集めんのに駆け回ってんよ。うんまくいってねぇって聞ぃてんがね」

「え?」


 棟梁の言葉に、私は冗談だろうと本気で思った。

 エドルはテュラック商会会長の御曹司で、若いながら先鋭的かつ巨視的な視野を持つ稀有な人材だ。

 普通なら考えもつかないような発想を実現できる形に落とし込み、幾つも同時に進行させる事で関連事業をコントロールしている。洗脳薬と媚薬のシンジケートも彼の発案で、表でも裏でも、商いに関して絶対の信頼を置いている。

 その彼が、上手くいっていない?

 在り得ない。

 何事にも絶対という事はないが、もし、仮に、万が一、億に一でもあるとすれば、それはかなり異常な事態と言える。外的な要因か他勢力による介入か、思いつく限りのあらゆる要素を考慮に含める必要がある。

 ――――まさか、他の神による干渉?


『キサンディア。第四軍支配域に商業的攻撃が行われている可能性、もしくは痕跡は見られない?』

『商業的? すぐにはわかりかねますが、急ぎ調べましょう。シンジ、アマネ。第四エリアで行われた商取引データを抽出して、意図的な物品の買い占めや価格操作が行われていないか検証して。リカは周辺を行き来する商隊が盗賊被害に遭っていないか、あれば勢力的、物品的な偏りが無いか確認を。ウェイド達は第二と第三エリアでの検証準備を先行して行って』

『どのくらいかかりそう?』

『二時間後に一次報告を上げます。最終的な結果は明日の朝にでも』

『お願い。ありがとう』

『お礼は身体で。期待していますよ?』


 言葉の後に舌なめずりの音がやってきて、尾骨から頭頂まで真っ直ぐ怖気が駆け上がった。

 聞いていないフリをして、繋がるチャンネルを速やかに落とす。

 一時凌ぎになるかならないか…………きっとならないのだろうが、延々と追加を要求されるよりはずっとマシだ。こっちで急ぎの案件があったとでも言い訳をストックしておき、現実の光景へと意識を戻す。

 ――――遠くから、私の名を呼ぶ青年の声が聞こえる。

 最後に会ったのは半年前。確か、ブラックマーケットの奴隷オークションに二人で繰り出した時だったか。

 あの頃は資金が乏しかったから、壇上に上がる上玉を見るだけしかできなかった。一人くらい買ってやると誘われたが、男として借りを作りたくなくて、途中退出なんて恥まで曝した。

 あぁ…………もう一回行きたいなぁ……。

 今なら、マーケットの奴隷を全部買っても全然余裕だ。むしろ、流通する金の量を増やす為にやっても良いかもしれない。

 金は天下の回り物。社会を一個の生物に見立てれば血液に相当し、適量が流れていなければ崩壊の一途をたどる。

 ん? 建築資材が買えないから私とテュラック商会は金が余って滞っている? それも一種の崩壊の入り口と言えなくもない?


「面倒なのが敵にいそうだな…………」


 神にもなって経済戦争なんて、畑違いも良い所だ。
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