しなずち ~転生触手妖怪 異世界侵略風味、褐色爆乳女神と現地収穫の巫女衆を添えて~

花祭 真夏

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第120話 神の禁忌

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「『それ』には触れない方が良い」


 キノコと猪肉のピラフを掻っ込みながら、頬にご飯粒を付けてケイズは凄んだ。

 ダークハイエルフの里唯一の定食屋兼宿屋『樹の上の鍋亭』。一本の大きな樹にぐるっと回るような螺旋階段を取り付け、四階層のフロアを敷いた趣のある店だ。

 一階と二階はバルコニー形式で、三階は個室、四階は大部屋。

 客入りは人口の少なさからそれほどでもなく、しかし、ハイエルフとの交流が盛んになって以前よりは増えたらしい。フロア担当の褐色美女が左手の指輪を見せつけながら、出会いが増えて嬉しい限りと教えてくれた。

 お手付きはだめですか。そうですか。


「『それ』って、どこからどこまで?」

「神のシステムについて。私も昔探った事があったが、アルセアに止められた。ソウにも訊いたが、『こっちに来なくて良い』の一点張りだ。あの二人が引き込むではなく止めるなら、相当厄介な代物だろう」

「何だって解き明かすのが趣味の父さんでもそれ? ちょっとぬるくない?」

「説明するにはディプカントだけで収まらないそうだ。私はこの世界で生まれ、この世界で滅びると決めている。他世界にまで関わって、その信念を曲げたくない」

「となると、しばらくは保留かな。とりあえず、神喰いについて調べるだけ調べた結果がコレ。三年間の血肉の摂取で、元普通の人間がガルドーン並みになる。神に対する耐性は半年でほぼ無効化レベル」

「お前とソウ以外無理だからな、それ――――そうか、それでか……」


 ケイズは空になった皿を置いて、木製ジョッキでエールを煽った。

 賢神と言うからお上品な食べ方をするかと思ったら、随分と庶民的で親しみがある。アシィナも私が教えるまでテーブルマナーなんてどうでも良いという風だったし、何となく二人の家庭がどんなだったか目に浮かんだ。

 喧嘩して、手伝って、奪い合って、笑い合う。

 粗野で乱暴で、それでいて温かい。

 …………少し、羨ましい。


「何か?」

「ケフッ――――ソウの尖兵のカエデだ。奴は尖兵でありながら神の粛清を任され、その全てに無傷で帰還していると言われている。アルセアも頭が上がらず、実力的には神界のナンバーワンとも……」

「それが何か…………あぁ、彼女も神喰いだと?」

「おそらくは。もう数百万年連れ添っていると聞くから、勇者を通り越して上位神以上になっているだろうな。逆を言えば、時間さえかければアレにまで至れる」

「気が長いなぁ……私達はゆっくり行くよ。第二位勇者並み二人を眷属にしたから、中位神くらいなら正面切っても滅神出来るだろうし」

「また戦力を増やしたのか、お前…………」


 引き気味の引き攣った表情を向けられて、私は隣に座るナレアとディユーを触手で掴んで引き寄せた。

 これ見よがしに見せ付けて、見せびらかして自慢する。私を三番目と五番目に男にした女性は、庇護される立場から共に並ぶ位置へと至ってくれた。ユウェイレ王国の中継ぎ統治も終わった事だし、再編戦争の間は側仕えにしても良いかもしれない。

 その内、ネスエルも呼び戻そうかな――――って、イタタタタッ!


「ア、アシィナ……足…………」

「えぇ~? 何かあったのぉ~? わっからないなぁ~?」

「ちょっ! ぐりぐり止めて! ダメ、痛いの、ごめん、ごめんってばっ!」


 足の甲に感じる鋭い痛みに、手を伸ばして許しを請う。

 思いっきり鋭く成形されたヒールが、貫通するほど強く刺されて右へ左へ捻じり回される。

 テーブルの下だから見えはしないが、アシィナの腿と腰の動きから大体の予想がつく。詳細が見えている周りのテーブルからは小さな笑いが漏れ聞こえ、『修羅場よ、修羅場』とか、『アレは男が悪いわねぇ~』とか、わかったからちょっと手加減してってお願いだよっ!


「ん……手綱はちゃんと握れているのか」

「変に納得してないで止めてよ父親でしょお義父さん!」

「お義父さん呼ばわりされる筋合いはない。だが、少しくらいは認めてやろう。――――アシィナ。良い頃合いにラーウェに顔を出せ。アイツも娘の報告を待っているだろう」

「了解。孫が出来るか式を挙げるかしたら行くわ」

「出来ればその前に行ってやれ。時間を気にしなくて構わないのだから」


 テーブルの上に多めの勘定を置いて、ケイズは席を立つと外に向かった。

 未練タラタラな親の背中ではなく、しばらく様子を見てやるという大人の背中。余裕はなく、後ろ髪も引かれ、自身に自制を強いて強いて強いている。

 痛みで鈍くなった頭でも、相応の覚悟を感じ取れる。


「お帰りに?」

「あぁ。うちも三方から攻められている。そろそろ戻らないと、息子達に何を言われるかわかったもんじゃない」

「アンクとルナによろしく言っといて。エシリアにはさっさとルナを押し倒せって」

「奥手同士、ゆっくりやらせればいい。――――私より先に母さんの所に行くなよ?」

「余計なお世話よ…………またね」


 親子互いに目を合わせず、振り返らず手を振って互いを送る。

 決して仲が悪いわけではなく、かといって円満と言うわけではない二人。その原因がケイズの最後の一言に詰まっている気がして、私からはもう何も言う事はなかった。

 そっと、貫かれている足を解いて、アシィナの下半身に触手を巻く。

 愛撫の様な事はせずにそっと、寄り添うように逃がさぬように。何があってもどんなになっても、一緒にいる事をやめないと静かに伝える。

 膝の上に置かれた先を握り、アシィナは小さく苦しそうに笑った。


「感動的な余韻を楽しんでいる所すまないが、そろそろ現実に戻ろうか。いや、別にそのままでも良い。呆けた頭の方が都合が良い事もある。具体的には待ちの人数だな。朱、死、夜、白、黒、血、更にリエラ様とヴィラ様にキサンディア様。夜と黒の出立前宴会で『巫女と属神全員』に御身を捧げて下さると師匠から聞いたぞ? いやいや、すまない。私達の方で先走って怖がらせて怖かったろう? 大勢でかかられると圧が凄いからな。ただ出立まで然程の時間がないから、時忘れの牢獄で順番に一人一年ずつと行くとしよう」

「それと、坊や宛てに高速飛鳥便で手紙が届いたよ。慈死のネスエルとは大物だね? チラッと中身が見えたけど、坊やの愛が欲しくてたまらないそうだ。巫女候補に二十人の娘達を連れてくるともある。もう戦争なんてやってないで、私達の性処理人形にでもなった方が良いんじゃないかい?」

「しなずち様、はやくドガちゃんの一番になってくださいっ。でないといつまでたっても私が二番目を貰えないじゃないですかっ」

「主様をまる一年独占できると聞いた。私達はこっちに付くからあしからず」

「そもそも主様が人数を増やしすぎるのが悪い。だから私達は全く悪くない。道理だろう?」

「し、しなずちさま……ごごご、ごめんなさいぃ…………」


 …………泣かないで、ガルマスアルマ。お前は何も悪くないんだから。
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