しなずち ~転生触手妖怪 異世界侵略風味、褐色爆乳女神と現地収穫の巫女衆を添えて~

花祭 真夏

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第114話 可愛いかった子には旅をさせろ

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「テト。帝位はオルドアが継いだからお前は自由だ。どこに行っても良いし、いつでも帰って良い。でも、もし頼めるようであれば、ほんの少しで良いから手を貸してくれないか?」

「ぼく知ってます。他人の言う『ほんの少し』は信用しちゃいけないって。在る分全部を根こそぎ残さず、奪い去って平らげてもまだ足りないって搾って来るんです」


 露骨に視線を逸らすパーティーメンバーを背後に控え、テトは不機嫌そうに頬を膨らませた。

 胸の宝珠の色が黒から朱に代わっている。ストックとして注ぎ込んでおいた血と精が八割以上失われていて、別れてからの数週間がどれだけ激しかったのかを示していた。

 あんなに純真無垢だった少年が、アガタみたいに擦れて汚れて見る影もない。

 でも、今頼れるのは彼だけだ。

 何とか受けてもらえないか、慎重に言葉を選んで探りを入れる。言葉の選択、声色、表情の変化に目の動きを全て捉え、無意識に回して即時分析と判断を下す。

 今はまだ、人の汚い部分に漬け込まれて反発している時期。完全には染まり切っていないから、彼の良心を引き出せればなんとか…………。


「そう言わずに。大事な人達に会いたくても会えない苦痛はテトもわかると思う。対価はしっかり用意するから、どうかこの通り」

「カロステン王国の大臣さん達に言われました。『しなずち様は嘘は言わない。だから、触れられたくない事があると話の軸をずらすから気を付けろ』って。ぼくの言ってる事を否定しないって事は、つまりはそういう事ですよね?」

「たったの数週間で、一体何をしたらそんなになるの……? ぶっちゃけると正解だけど、最初に出会った頃の清純なテトを返して…………」

「フェイクの涙を流してもダメですからね? 散々ウソ泣きに騙されたおかげで、本物かどうか匂いでわかりますから。あと、アンダル様には後で謝ってください。本気で泣いてますからね?」

「あ、はい。ゴメンナサイ」


 どちらの立場が上なのか、何だかわからなくなってきた。

 私の拒絶に耐え切れなかったアンダルは、部屋の隅で全身倒置し、角に頭をはめ込んでシクシクシクシク泣き続けている。床と壁が水分を吸いきれず水溜りを作っていて、いくら触手で吸い取っても絶える気配はなさそうだ。

 むしろ、そろそろ脱水症状を起こしかねない。

 神と言っても生物的な造りは同じだ。人間ベースの彼は人間のケースが殆ど当てはまり、割と簡単に体調を崩したり死んだりする。

 …………いやいやいや。死の神が死ぬって、それどうなの?


「どうしたもんかなぁ…………」

「そもそも、何でアンダル様はギュンドラ王達に会えないんですか? 昔の仲間なんでしょう?」

「色々あるんだけど、まずギュンドラ王国の中枢がほぼ全員神を嫌ってる。神々の争いで被害を受けた者達が集まっていて、元はアンダルもその一人だったんだ」

「神になったから仲間に会えないって事ですか? そんなのおかしいですっ。オルドア兄様達は、政敵になってもぼくの事を弟として可愛がってくれましたっ。本当の仲間なら、例えどんなになっても受け入れてくれますっ。そうでなければ仲間じゃありませんっ」

「そこまで言う……? まぁでも、確かにそうかぁ……」


 仲間である前に神なのか、神である前に仲間なのか。

 オルドアはテトを後者とみなしていたと。例え政治的に敵同士であっても、兄弟の絆をより重んじた。

 果たして、ギュンドラはアンダルをどうみなす?

 かけがえのない仲間か?

 憎むべき神か?


「――――ダメだ、全然予想がつかない。そしてテト。やっぱり、この件はお前に任せたい。国王に面と向かえる帝族の格、大勢を味方に付ける勇者の名声、過去の経験から来る境遇への理解。全てを備えるのはお前しかいない。後の責任は私が取るから、出来る限りギュンドラとアンダルの仲介をしてやって」

「正式な命であれば仕方ありません。わかりました。最悪、戦争になっても許してくださいね?」

「本当に、純粋だった頃のこの子はどこに行ったの……?」

「主にこの娘達のお腹の中です」


 後ろの仲間達に笑顔を向け、テトは「ね?」と同意を求めた。

 ハイエルフと犬娘と猫娘は顔を背け、魔族娘二人は顔を見合わせてお腹を擦る。反応の差におや?と思い、熱感知で視ると二人だけ体温がやや高めだ。

 え? もしかして出来た?

 いやでもそんなに早く身体に影響出たっけ? それこそフェイクじゃなくて? 魔族だから嘘にならないミスリードくらいはやってのけそうだし――――


「――――第三軍からサポートを出してもらえないかお願いしておく。あんまり無理はしないで」

「ありがとうございます。シャレア、シュレス、何かあったら早めに言ってね?」

「「はーいっ」」


 元気と機嫌の良い返事に、やっぱりまだなんじゃないかと四割程度の疑いを抱く。

 そもそもこの二人は水棲魔族だ。胎生ではなく卵生の可能性がある。人間みたいに奥に注ぐんじゃなく、産まれた物にぶっかけて受精する形かも知れない。

 後でレスティとラスティとアシィナに確認しよう。

 もしフェイクなら一服盛ってやる。


「それじゃ、準備が出来たらアンダル神を連れてギュンドラに向かって。足はレスティの浮遊幽霊船を貸してもらう予定。あと、どこかでテトを一日貸して。貯め込むだけだと全然足りないから、自己精製できるように宝珠の機能を作り変える」

「今日明日にでもお願いできませんか? 正直、最近少し薄い……」

「週に一日は休養日を設けなさいっ。いくら私の加護でも限界はあるんだからっ」


 一晩に五人相手にするとして、十回ずつで毎日五十回分の供給をするよう頭の中で組み上げる。

 供給元は地脈と水脈、魔脈からの自動汲み上げ。余った分は胸の宝珠に貯め、食事による補給は直接消費に回さず貯蓄専用で種切れを防止して、と。

 これで足りなかったら、エルフをやめて妖怪になってもらうしかないな。

 そうなった時は、オルドアに謝ろ――――ん?


「地震……?」


 カタカタガタガタ、床と壁と天井と、建物全体が振動して揺れ始める。

 だが変だ。

 揺れている時間が長すぎる。まだ余震程度の小さな揺れが五秒、十秒、十五秒しても止まず、より大きな本震に移行しない。

 それと、変な声?が聞こえる?

 どこから?


『むっぅ~ん~~~~がぁああああああああああああああああああっ!』

「あ、そこか」


 ドガが落とされた穴から乱暴な声が聞こえ、私は触手を下ろして迎えを出す。

 暴神の名の通りに暴れられると厄介だ。勇者連合との戦いによる建て替えから一年経っておらず、また壊されては資金的にも資材的にもたまらない。

 ちょっと大人しくしてもらおう。


「そういえば、男同士が気持ち良いのか知りたいって言ってたっけ?」
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