しなずち ~転生触手妖怪 異世界侵略風味、褐色爆乳女神と現地収穫の巫女衆を添えて~

花祭 真夏

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第111話 束の間の平穏

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「髪飾りぃ~、首飾りぃ~、首輪に指輪に足輪と腕輪ぁ~」


 昼下がりの社の自室。

 私は体の中から深緑に輝く宝石を取り出し、表面を研磨紙のように仕上げた指でツルツルキラキラに磨き上げた。

 様々な場所で大地と同化し、いつの間にか体内に収めていた煌びやかな宝石達。

 私の統魔の影響で多量の魔力が融け込んだ彼らは、不死の魔力を持つ魔石へと変化していた。持っているだけで老化が止まり、寿命が延びる不老長寿の秘石。それを一つ一つ研磨して宝珠に仕上げ、血液を巻いて捏ねて成形する。

 長い胴で宝珠を巻いた、自身の尻尾を食む蛇の腕輪。

 多少気になった蛇の顔付きを微修正し、作り終わった品々が並ぶ棚に置いて加える。神界会議からの帰還後、三昼夜寝ずに休まず、何個作ったかはもう覚えていない。ざっと見えるだけ簡単に数え、棚の奥に置いてある分も合わせれば十分な数になっただろう。

 南征の間に留守を守ってくれた血巫女朱巫女白巫女衆の面々。

 私が吹き飛ばされても、社まで無事辿りついた黒巫女衆と死巫女衆。

 パルンガドルンガ以降に多方面で活躍してくれた元娼婦巫女衆。

 帝国を味方に引き入れたレスティ率いる特別編成の娘達。

 これだけあれば、巫女と眷属全員に行き渡る筈だ。程度の差こそあれ、全ての者が褒賞を受けるに値する。私自身が身をもって労うのは当たり前として、形に残る褒賞も有った方が良いのではと、ちゃんと気付けた過去の私を撫でて撫でて褒めてやりたかった。

 後は、このサプライズを喜んでもらえるかの確認をしておかないと…………。


「――――坊や。勇国と帝国の連中が戻ったよ。で、言われた通りにレスティとユーリカを連れて来たけど、何をする気だい?」

「まずはレスティに。帝国で凄く頑張ったから、好きなのを三つ選んで付けて見せて。どれでも良いよ」

「随分たくさんあるな? 少し時間を貰うぞ? 試着はして良いのか?」

「好きなだけして良いよ。アンジェラとユーリカはこっちに来て。今後の事で大事な話があるから」


 棚を物色するレスティを置いて、縁側に出て廊下の縁に腰掛ける。

 両隣に二人を誘い、アンジェラは左、ユーリカは右に座った。他に誰もいない、遠慮なく甘えてこれる状況にあるがしかし、『大事な話』と切り出した事が原因なのか微妙な距離感を間に保たれる。

 必要ない。

 私は二人の腰を掴み、思いっきり引き寄せた。勢いで顔を両側から爆乳プレスされ、左の張りと右の柔らかさにちょっと理性が弾かれ損なう。

 まだダメ。まだこれからなんだから。


「んっ……しなずち様、お話とは何でしょうか?」

「三日前の神界会議で、神々の戦争が始まったのは聞いてると思う。それにあたって、アンジェラ達の娼婦巫女衆とユーリカの黒巫女衆に、管轄地外の情報収集を頼みたいんだ」

「構わないけど必要かい? シムナ、レスティ、ラスティ、カラとカル、私とリタ、ユーリカとエリス、リザとヒュレイン、それとマタタキ。この面子で八部隊運用すれば、大概の国は落とせる。ヴィラ様とキサンディア様に防衛を担って頂けるなら、私達は攻めに出た方が良いんじゃないか?」

「攻めて落としたら守らないといけない。どこを攻めたらどこが便乗してくるのか。占領した時に現地民の協力はどうしたら得られるのか。水と食料と資金を手に入れる術はあるのか。最低でもそのくらいは確認しないと、行き当たりばったり過ぎて辛くなる」

「しなずち様はお優しいですからね。奪って奪うのではなく、奪って与える。黒巫女衆の長として、私はしなずち様の命に従いますわ」


 額に口付けをして、ユーリカは見せ付ける様に私の身体を抱き寄せた。

 渋るなら自分達だけでやる。成果は欠片も渡さない。

 言わんとしている事はよくわかり、青筋を浮かべたアンジェラがユーリカから私を引っぺがして奪い取る。お気に入りのおもちゃを奪い返した子供のように、また奪われまいと警戒と威嚇を呼吸で示した。

 喧嘩は駄目だよ、二人とも。


「やったろうじゃないか。私らを舐めんじゃないよっ?」

「では、競争と行きませんか? 私達は西の端から始めます。アンジェラ様達は東の端から始めてください。互いの調査が交わる時、より多くの国を調べ上げた方が勝ちという事で」

「負ける気がしないねぇ。東なら個人的な伝手が多くあるんだ。半年もあれば、西にまで食い込んでやるさ」

「期待していますわ。しなずち様? アンジェラ様はその気になったようです。揃って吉報をお届けしますので、しばし社を離れる事をお許しください」

「私が命じているんだから許さないわけがない。それと、アンジェラは買う喧嘩は考えた方が良い。ユーリカはその気にさせる事が目的で、勝負自体は勝つ気がないよ?」


 私の指摘に、アンジェラはきょとんとした目と表情を浮かべた。

 面子を賭けた喧嘩に慣れ、裏を探る発想を持てなかった時点でアンジェラの負けだ。ユーリカはそっぽを向いて知らんぷりしていて、私の指摘が正解と暗に示している。

 知らずに乗せられて変な事をしないか、今からちょっと不安になってきた。

 こういう時は、きっかけを与えて気を引き締めさせよう。


「勝敗については二人の間で決めて。それと、娼婦巫女衆は夜巫女衆と今後呼称する。私の巫女として、しっかり頑張って来るんだよ?」

「! わ、わかった! 坊やの名に恥じない働きをしてみせるよっ!」

「頼んだよ。――――さて、固い話はここまで。ユーリカ。ノーラを連れて来て。あと、しばらく人払いをお願い。キサンディアとの契約で、ノーラとの最初は二人っきりってなってるんだ」

「かしこまりまし――――?」

「?」


 表情から笑みを消し、ユーリカが本殿に警戒を向けた。

 空気の変化を感じて、私とアンジェラも立ち上がる。見た目や音は変わりないが、彼女の感覚は違和感を感じているのだろう。羽衣から何十という蛇頭を生やして伸ばし、何度も舌を出し入れさせて探り続けている。

 一体何だ?

 私も嗅覚と熱感知で、本殿全体を探して探る。

 あぁ、わかった。元からいた巫女達と帰ってきた巫女達、そこにノーラを合わせた人数より熱が三つほど多い。既に広間に通されている所を見ると、私宛ての客が来たようだ。

 仕方ない。ノーラの眷属化は後に回す。

 客人の出迎えは家主の仕事だ。失礼が無いように、少し急いでいくとしよう。


「しなずち様ぁーっ! 暴神ドガ様と安息神アンダル様がいらっしゃっているので、お早めにこちらに起こしくださぁーいっ!」

「わかった! すぐ行く!」


 本殿二階の窓からの呼びかけに応え、私は普段着からいつもの軍服に衣装替えして歩き出した。

 確か、あの二柱は私の神化の推薦をしてくれた筈。礼の一つも言わないと不義になる。

 その上で、何が目的かを問い質そう。

 対価無き施しなんてありえない。歪みが出ないようにしっかり対応して、出来る限りの利と益を頂かないと。


「…………何しに来た、あのクソ野郎……」


 …………え? ユーリカ、今なんて?
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