しなずち ~転生触手妖怪 異世界侵略風味、褐色爆乳女神と現地収穫の巫女衆を添えて~

花祭 真夏

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第106話 神の領域へ(下)

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「他所の娘に何をしてるんだ、この色情蛇!」


 触手のように枝分かれし、自在の軌道で自在に動く漆黒の刃群が私に迫る。

 叩き落そうにも、向こうは金属で私は血。多少固めても硬度が足らず、盾や壁を作っても片っ端から全て斬られた。幸い、武闘派巫女達の太刀筋と同程度の速度と鋭さから避けることは出来、かれこれ十五分ほどハードコアパンクなステップを床や壁に刻んでいる。

 いや、刃に対不死性がなさそうだから受けても良いけど……。

 ただ、アイシュラの説明にあった『賢神』の言葉が気にかかる。

 様々な世界的要素を解析して修めている知系統の神なら、対不死性能を後付けするくらい造作もない筈だ。最初の数閃は普通に斬って、警戒を解いてから本番とかやって来るかも。

 やっぱり避けよう。死にたくない。


「勘違いしないでください。『私が持っている物なら何でもあげるから、私に貴方の全てを頂戴』と最初に言ったのは彼女です。無理強いなんてしてません。むしろ、彼女は私から様々な物を奪いました。シムカに私を巻かせて目隠しして、跨って来るかと思ったら後ろからズブッて……っ」

「思い返せば、アシィナは色々やらかしてるな。しなずちのどの部位に何の効能があるか調べる為に全身バラバラに刻んだり、しなずちがどの程度出し続けられるか確認しようと当時の巫女全員に回させたり、強制妊娠薬が作れるなら避妊薬も作れるだろうと玉の一つを要求したり――――」

「やめてヴィラ、思い出させないでっ! アレから社に夜いると言い知れぬ悪寒が昇ってくるんだからっ! 離れに部屋を移してやっと収まったのに、私の安息を奪わないでっ!」

「ケイズ様。私、知の女神でキサンディアと申します。どうか剣をお納め下さい。しなずちとアシィナはアレで良いカップルなのです。月に十回は逆夜這いをかけて搾り取る程に」

「そ、それは…………むぅ……」


 町の一区画分展開した刃の群れを、煮え切らない表情でケイズは体内に戻した。

 娘を散々汚された怒りと、娘が散々汚した罪悪が顔の上でごちゃ混ぜだ。

 怒って良いのか謝った方が良いのか、判断がつかなくて思案の海に没している。とりあえず死の危機は去ったようで、これ以上襲われない為に会議の会場にさっさと動く。

 女神二柱を触手で担ぎ、他の神々が向かった方向に駆けだした。

 虹色に輝く水晶の街並みは一分経たずに途切れ、臓物の海の様な血と肉の池が現れる。池の中からは大小異なる触手が顔を出し、近づく女神達に襲い掛かっては反撃にあって消し炭にされていた。

 本当に、あの創造神は何がやりたいんだ?

 撃ち漏らしに捕まったロリ女神を通り過ぎ様に助け、水晶製の松並木に置いて更に走る。

 正面には大量の触手で覆われたビル並みの球がそそり立ち、躊躇いながらも入っていく神々の列を見つける。どうやらアレが議場らしく、今からでもこの場を遠慮したい気持ちに凄まじく駆られた。

 だが、誘導係を務めている元ハイエルフ里長の姿を認め、どうあっても逃げ切れない事を悟る。

 本当に、本当に本当に本当に、お前らは何がやりたいんだ!?


「いらっしゃ~い」

「何でお前がここにいるんだ、琥人っ」

「面白そ――――じゃなかった。君の応援に来たに決まってるじゃないか。一応僕が後見人扱いだから、何かあれば遠慮なく頼って良いんだよ?」

「断る。お前を頼るくらいなら気狂い創造神に借りを作るか、保険で持ってきた封印の短剣からマタタキを解放してやる。一人残らず時素を喰い尽させて、私達が創造神に成り代わってやるよ」

「やめよ、ねぇ、それだけはやめよ? あの娘、元は僕やソウと同格の妖怪だから、ほんとにシャレにならないから。もう十個以上世界を食べてて、それでもまだ足りない大飯喰らいなんだよ?」

「それは良い事を聞いた。本気で検討しておく」

「本気でやめて」


 引き攣った笑みを浮かべる琥人に、私は真面目な顔で真面目に返した。

 脅しの手段に甘えは要らない。本当にやりかねないと思わせないと、相手は甘えて下手を打ってくる。それで不利益を受けるのはこちらも同じ。そうならない為にも、適切で適当な関係性は極めて重要であり必須と言える。

 連れてきておいて良かった。

 マタタキは以前、地上に降臨した戦神を喰い殺したらしいからな。ちょっかいを出してくる神々への牽制球に丁度良い。


「所で、ちょっと追われてるんだ。通してもらって良いか?」

「どうぞどうぞ。君らの席は入って一番奥の右手側。今後も会議がある時は同じ席だから、今の内に覚えておいて」

「分かった。それじゃ、失礼する」


 極力警戒して横をすり抜け、私達は触手蠢くおぞましい入口を潜って入り――――


「帰ろうか」


 ――――透き通った水晶壁の向こうに蠢く一面の触手群に、私の気力は一気に潰えた。
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