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第104話 神の領域へ(上)

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 アルファンネスでの四女神会議から二日が経った。

 勇国と帝国の巫女達は帰路の途中で、ナルグカ樹海でハイエルフの里を復興していたヒュレインが先に戻った。離れの自室で報告を受けると、アシィナは現地の統率があるのでまだ戻れないらしく、私から来るよう促す手紙束を渡されたという。

 ご褒美をせがむ馬娘を蛇身で丸呑みにし、最近人気の六穴責めをくれてやる。

 太くなった蛇の胴体が滅茶苦茶に隆起し、破られんばかりに蠢いた。抵抗ではなく感じ過ぎて動いてしまっているようで、仕方なく全身を拘束してたっぷり一時間堪能してもらう。

 途中で顔を覗いたら、物凄い良い笑顔をしていた。

 もう少しくらい味合わせてあげようと蛇の口を閉めて、今はアシィナからの手紙を読んでいる。内容の殆どは欲求不満とプレイの要望で、さっと読み飛ばして合間合間の近況を読み解いた。


「避難していた者達が戻り始めたか。ガーナウス肝臓病の娘も経過は良好。ヒルディアとジルランカが二種族の間を取り持って、里同士の交流も盛ん……と」

「んん…………ん……んっ……んんんんん…………っ」

「ヒュレインも喜んでくれているようで良かった。そろそろ注ぐから、しっかり飲み干すんだよ?」

「んっ!? ン――――ッ!」


 しっかり閉めているのに、漏れ聞こえる音が声として聞こえてくる。

 音圧の減衰を考えれば相当の絶叫だろう。まさかイキ狂ってはいないかと思って拘束を解き、もう一度蛇の口を開けさせて中を確認する。


「ごくっごくんっごくごく……」


 真っ白に浸かって喉を鳴らす、真っピンクの瞳と目が合った。

 全然余裕そうだった。手紙も読み終わったし、私も楽しませてもらおう。ざっと水を被らせて綺麗にしたら、注いだのを垂れ流させて卑猥な誘い文句を何度も言わせて――――


「迎えに来たから行くぞ」

「無粋に過ぎるから帰って」


 窓の外から頭の上半分だけ出して覗き、赤面する創造神にノーを突きつける。

 一方的に加虐心を満たせる機会は久しぶりなんだ。いくら神界会議に出席しなければならないと言っても、最後までやり切るまで待ってくれても良いじゃないか。

 それとも、この程度も待てない程に創造神ともあろう神は狭量なのか?


「ヴィラ神とキサンディア神は準備できたそうだ。まるで結婚式みたいに気合を入れているから、君が遅れると悲しむんじゃないか?」

「むぅぅ…………仕方ない。ヒュレイン。いつでも出れるようにしておくから、満足したら自分から出るんだよ? それと、あんまり飲み過ぎるとまた胸が大きくなりすぎるからほどほどにね」

「じゅるるるじゅるじゅるるぅぅぅ……んぐんぐ……」


 ちゃんと聞いているのかいないのか。蕩けきった表情からは判断できないが、大丈夫だと勝手に思う。

 私は池に向かって飛び込み、軽く全身を清めて廊下に上がった。

 体表を伝う水は全部取り込んで、礼装のデザインを組み込んだ軍服衣装に身を包む。普段の実用性重視ではなく、写真映えする意匠をツーポイントほど施した一品だ。

 前世の旧国軍の式典衣装は派手すぎる。しかし、ヴィラ達が用意したであろう衣装に釣り合う程度は意識しないとならない。

 出来るだけ地味に。それでいて品格は備える。

 まぁ、もし浮きそうだったら現地で作り直せば良い。


「しなずち、準備は出来たか?」

「服装はいつも通りで良いですよ? 神々の会議といっても、衣装に凝るのはごく一部だけです。変に背伸びしない方が傷は浅いですから」

「キサンディア……もう昔の事なんだからいい加減忘れないか?」

「あら? そういえばドレスの重さで動けなくなって遅刻しかけた女神を以前見たような……?」

「忘れろと言っているだろう!」


 銀色の薄羽衣のヴィラと、青色の薄羽衣のキサンディアが廊下の向こうからやってきた。

 ソウが気合を入れていると言っていたが、何のことはないいつも通りだった。薔薇を模った下着で普段透けさせている肌を隠しているが、派手な感じはあまりなく、それほど気負わなくても良さそうだ。

 二柱の手を取り、左右に侍る。

 持ち上がった自分の手に、ふと彼女達との身長差が気になった。

 男女より姉弟、もしくは親子に見られるだろうか? 一時的にでも外見を戻して、彼女達の雄だと見せ付けるべきではないか? 変な虫がつかないように、対策の一つもした方が良いのではないか?

 不安がよぎり、愛しい顔を見上げて窺う。

 自身に満ちた笑顔が二つ、私に向けて注がれている。外見の釣り合いなんて些末事だと言わんばかりの、大輪の薔薇を思わせる悠然とした落ち着きと振る舞い。流石は現役の女神といった所で、揺れる気配が全く見えない。


「…………エスコートは任せて良い?」

「任せろ。始まりから終わりの後に果てるまで、今日は私達に任せると良い」

「それ以外は打ち合わせ通りに。出来るだけ友好的な神々を増やすのですよ? 狙いはグループに入っていない、孤立している初心そうな女神です。貴方ならちょっと物陰に連れ込めばすぐ言いなりに出来ます。二柱か三柱かお持ち帰りして、私達の勢力を拡げましょう」

「私の前でよくそういう話が出来るな? でも、馬鹿共の喰い物にされるくらいならそっちの方がマシか」


 黒い打ち合わせに顔をしかめるソウは、触手で丸い円を作って廊下に敷いた。

 二・三詠唱して指を三回鳴らし、一つ手を叩くと円の中の木床が消える。代わりに現れたのは下りの階段で、ずっと向こうには虹色に輝く水晶の尖塔と空中回廊が見通せた。

 アレが入口で、その先が件の神界宮殿か。

 神秘的という形容が一番似合い、些か気分が高揚する。つい一歩目を先んじそうになり、すぐ足を戻してヴィラとキサンディアに目配せをする。

 最初の一歩は一緒が良い。

 意図を汲んでくれた彼女達は私と揃って足を上げ、境界から一歩目を踏み出した。硬質な感触を足裏に感じると世界そのものが塗り替わり、明るかった野山が暗い夜空の景色に染まる。

 水晶階段頂上の、眩く輝く丸いバルコニー。

 そこには地面が無く、空しか無く、現実が無く、幻想しか無い。まさに神々の領域と言って差し支えなく、途方もない広がりに本能的な恐怖を覚える。

 ここが――――


「ようこそ、神界宮殿ディプカントへ。創造神ソウの名の下に、君達の来界を歓迎する」


 ――――私達の、侵攻の目的地。短くも長かった旅の終着だ。
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