しなずち ~転生触手妖怪 異世界侵略風味、褐色爆乳女神と現地収穫の巫女衆を添えて~

花祭 真夏

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第102話 アーウェルの覚悟と別たれた道

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 アルファンネス会議室の白いテーブルを囲み、四柱の女神達と二人の尖兵、二人分の幻影が顔を突き合わせる。

 笑顔は一つもない。

 滅茶苦茶に眼圧の乗った睨み付けを自身の主神に向けるノーラを始め、気まずい顔で俯くアーウェル、テーブルの上に突っ伏して頭から白い煙を上げるクロスサ、椅子を寄せて私に寄り添うヴィラとキサンディアなど、混沌に混沌を混ぜて更に混沌に仕上がっている。

 こんな状態で誰が第一声を発するのか。

 少なくとも自分ではないと、私は固く口を結んだ。

 現状の何を誰が説明するのか? 私から説明する事は何もないから、とりあえずヴィラとキサンディアの背中を小突いて観念するよう勧告する。

 ノーラからの責めの視線に耐え切れず、キサンディアは私の腕を取って抱き寄せた。

 対抗してヴィラも腕を引き、取り合いになるといけないので二人纏めて椅子ごと傍らに寄せる。刺すような空気に斬り刻まれそうな鋭さが加わり、更に温度が十度ほど下がってダイキとアガタが一歩退く。

 これが修羅場か。


『――――キサンディア? 私にしなずちとの逢瀬を禁じておいて、それはナニ?』

「……ゴメンナサイ、ノーラ。私はもう彼無しに生きられません」

『へぇ~? つまり、私より先んじたいから命じたって事なのね? しなずちの信仰が異常に増えてるから調査してとかそれらしい理由を付けてこんな遠方まで追いやって、自分はぐっちょぐっちょのにっちゃにちゃのたっぷたぷになるまで楽しんで悦んで気をやってアヘってたって? さっきユーリカ達に会わなかったら帰還に一ヶ月はかかってたのよ? ねぇ? 貴女は私の主神でしょ? 私の味方ならそういうのはあんまりじゃないかしら?』

「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ――――しなずち、たすけてぇ~…………」


 私に助けを求め、キサンディアは更に火に油を注ぐ。

 ノーラの可愛らしい顔に、のたうつ触手を思わせる太い青筋が幾つも浮かんでいた。まだ矛先は私に向いていないが、いつ向いてもおかしくない。キサンディアを助ける為にも、ここは自ら憎まれ役を買って出てみようか。

 笑顔の鬼と目を合わせ、私は小さく首を振った。


「ごめん、ノーラ。私が我慢できなかった」

『嘘つき。ただ我慢できなかったなら『私が』なんて言わないわよ。『ごめん、我慢できなかった!』って爽やかに言い捨てて、問答無用で私に犯されるの。処女に乱暴されるってどんな気持ち? シムナから入口に入れて背中側に指の第一関節くらいの位置って教えてもらったから、許してあげる素振りを見せて最初っから全力でぶち込んであげる。大丈夫よ? 無駄にならないように全部飲んであげるから。だから言い直そうか。『ごめん、我慢できなかった!』って。ほらほらほらほらほらほらっ』

「もう怒りで自分でも何を言っているのか分かっていないな……? ユーリカ、シムナ、聞こえているな? ノーラを寝かしつけて私の所まで届けてくれ。後は私がやる」

『承知した』

『申し訳ございません、ノーラ様。私の勝負下着を着せてお届けしますので、どうかお許しください』

『え? ちょっ、シムナ!? ユーリカも――って、何そのスケスケの穴あき――――』


 ふっとノーラの幻影が消え、部屋の空気から緊迫した刺々しさが消え失せた。

 向こうで皆が上手く抑えてくれることを祈る。容赦も遠慮もない時のノーラは広域殲滅魔術の多重行使とかを普通にやるが、点突破のシムナと面制圧のユーリカならきっと何とかしてくれるだろう。

 彼女達を信じ、私達は私達ですべきことをする。


「やっと静かになったな。で、アーウェル? 第一軍は女神軍を抜け、アイシュラ魔王神軍に合流したいんだったか?」


 面倒が去ってやっと本題に入れると、ため息を一つついたヴィラがアーウェルに問い質す。

 投げかけられた小さな体が跳ねるように震え上がり、身を内側に捩って縮みこんだ。

 よほど後ろめたい気持ちで一杯なのか、私達に顔を向ける事が出来ていない。続くと予想される叱責の言葉に耐えようとする心が、必死に固く閉じこもっている。

 まるで悪戯が見つかった子供と叱る親のような構図だ。

 とりあえず、私は当事者側であるダイキに視線を送った。

 なんとかフォローしろと暗に伝え、理解できたらしく、アーウェルの隣に跪く。片手を差し伸べて何事かを呟き、数分経つと、俯くだけだった頭が縦に小さく揺れた。

 そろそろ、私からも言い始めるか。

 ヴィラの説得に力を貸して欲しいと土下座なんてされて…………不本意な契約ではあるが、成ってしまった以上はしっかりやり遂げよう。


「……今の第一軍は魔王神軍と神国軍に挟まれる形だ。ダルバス軍の討滅で消耗しているし、神界会議の招待状を送ってきたアイシュラ神側に付くのは自然じゃないか?」

「建前は不要だ。アーウェル、確認させろ。脅されてはいないか? 洗脳されてはいないか? 何か悪い物でも食べていないか? もう完全に決めてしまって考え直すことは出来ないのか?」

「ヴィラ。アーウェルはもう貴女の庇護下で泣きじゃくる見習いではなく、一柱の女神として立派に立とうとしているのです。引き留めすぎるのは彼女に対する侮辱になりますよ?」

「わ、私は別に…………むぅ……」


 怒るような素振りは見せず、ヴィラはそっぽを向いて頬を膨らませた。

 よくアニメやドラマなどであるような仲違いのシーンとは何やら違う。目をかけて愛して愛した娘の門出を、何とか阻止しようとする親の如く。

 一体どういうことなのだ?

 私は、強硬苛烈に反対するヴィラを諌める役ではないのか?


「…………ごめんなさい、ヴィラ『様』。私は……」

「『様』付けはいらん。ディプカントへの侵攻に際して、誰が欠けても進めるように立場を対等にすると決めただろう? だが、お前は私にとって、妹であり娘の様な存在である事は変わらん。どこぞの馬の骨にほだされて騙されているとしたら、何が相手でも止めて見せようっ!」

(キサンディア? これは一体?)

(地球での私達は、ヴィラを主神とした女神のグループだったのです。私とヴィラはほぼ五分五分の関係。アーウェルとクロスサは見習い女神としてヴィラに仕えていました)

(えぇ……? アーウェル様はともかく、クロスサ様が給仕とか想像できない……)

(事実です。それと、貴方達が死んだ時の尖兵の割り振りは死ぬ前から決まっていたので、別に私達がヴィラを陥れようとしていたわけではありません。貴方は取り合いの末に残されたと思っているようですが、貴方がヴィラに予約されていたのですから逆ですよ?)


 随分古い話を持ち出され、ふと、確かに言われてみれば納得できる。

 これまで、四柱の女神達は不仲であった記憶がない。むしろ、ヴィラとキサンディアがアーウェル達のやり方を眺め、監督と助力をしていたようにも見えなくない。

 であれば、予定変更だ。

 子離れできない親にしっかり言い聞かせるとしよう。


「アーウェル様。ダイキとの祝言はいつですか?」

「!? テメェ、いきなり何言ってやがる!」

「ダイキ。アーウェル様はお前を選んでいる。いくらお前の足らない頭でも意味は分かるだろう? そしてヴィラ。アーウェル様は一人で立とうとしているのではなく、手を取り合える相手を見つけたからこそ進もうとしているんだ。繁栄の女神として、阻むのではなく祝福すべきだろう?」

「…………お前は私の味方じゃないのか、しなずち……?」


 憎らし気に、ヴィラが目端で私を睨む。

 返答代わりに、私はヴィラを触手で巻いて抱き寄せた。逃げられないように胴も腕も脚もぐるぐるに巻き上げ、触手の陰から細い触手を服の内側に忍ばせる。

 ちょっと擦り上げると頬を染め、テーブルの下で触手を思い切り抓られた。

 痛みに耐えつつ、褐色の胸元を開かせて触手を内側から這い出させる。会議の場で何をしているのかと視線が集まり、私は動じずアーウェルに対して目配せをする。

 これに比べれば、恥ずかしくなんてないだろう?


「――っ」

「!? ア、アーウェル様!?」


 瞳から怯えを消して、未恋の少女は想い人の太首に腕を回した。

 戸惑いだらけで抵抗できず、傷の大男は唇を奪われる。力の女神に相応しい力ずくの力押しで、この場一番巨体はのぼせ上がり、後ろに向かって倒れていった。

 衝撃、巻き上がる埃、激情と熱情の水音と続き、横で覗き見るアガタがパチパチ手を叩く。

 やっと起きたクロスサも、横の現場を見て同じように倣った。キサンディアと私も同じくし、ただ一人、ヴィラだけが面白くない顔で思いっきり頬を膨らませ、涙まで浮かべて最後の抵抗を見せる。

 あと一押し。


「ヴィラ。ヴィラが祝福しなかったら、アーウェル様は繁栄を手に出来ず、悲恋に堕ちるぞ?」

「ぁあもう、私の負けだ! 夫婦揃ってどこへなりと行くが良い! もし不幸に行き倒れてたらしなずちの媚薬原液に漬け込んでここに閉じ込めるから覚悟しておけ!?」

「何かあったらヴァテアを頼ってください。私から言い含んでおきます」

「――――チュプンッ……ありがとう、ヴィラ様、しなずち。皆も……ありがとう…………」

「ぅぐぐぐぅぅうぅ………………」


 頭を打って目を回すダイキの上で、アーウェルは晴れやかに涙を浮かべて笑った。

 新たな門出に祝福を。

 そして、願わくば、またこうして共にテーブルを囲う日が来ますように。


(…………意外と、きついな)


 たった今の別離と前世の最大の別れを密かに比べ、少なからず感じるショックを私はしっかり噛みしめた。
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