しなずち ~転生触手妖怪 異世界侵略風味、褐色爆乳女神と現地収穫の巫女衆を添えて~

花祭 真夏

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第87話 最凶最悪の巫女

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 簡単に言えば、シムカは私の失敗作だ。

 最初の巫女で最初の眷属。最初だらけで慎重に慎重を期し、それでも補い切れずに途方もない爆弾を抱えている。

 その規模は、空気感染の伝染病クラス。

 一人に感染すると体内で爆発的に増殖し、汗腺から成分が揮発する。風に乗って数日漂い、一定量を吸った生物は二次感染して更に起点の感染源となる。

 一度流行すればパンデミックに簡単に陥り、簡単に国を呑み込んで世界を覆う。結果として人々はまともな生活を送れなくなり、ほんの数ヶ月で殆どの生物が死に絶えると、試算を依頼したキサンディアは予測していた。

 最凶最悪の媚毒だ。


「何でそんな代物を自由にさせてんだよ、テメェはっ!」


 なだらかな登りの山道を並走しつつ、ガルドーン勇王は私に怒鳴りつける。

 彼の言い分は尤もだが、それは一般的な感性に基づく部外者の意見だ。

 多数派であっても当事者ではなく、後から関わってきた野次馬的立ち位置。私達からすれば優先すべき材料にはならず、むしろ積極的に排除すべき些事に過ぎない。

 最も大事なのは、彼女は私にとって大事な一人だという事。


「文句は琥人に言ってください。カロステン王国の攻略時に発覚して以降、私は彼女を社から出さなかった。私の血という特効薬兼予防薬が精力剤として大陸に行き渡るまでは、巫女衆の長として不自由なく暮らしてもらう予定だったんです。わざわざ持ち出して炸裂させたのは彼ですから、非難されるべきは彼です」

「クソ陛下。姉様がああなったのは、私がしなずち様に負けたせいだ。謝罪する。だから、文句も責めも私にしてくれ。出来る事はないが、その程度の捌け口にはなれる」

「責任の押し付け合いなんてしてる場合かよ。今重要なのは、最悪の事態を避ける為に何をするかだ。時間を無駄にする余裕があるなら対処法を考えろ」


 途中で合流したシムナを含め、全員にヴァテアの喝が飛ぶ。

 ガルドーン勇王は感情を整理しきれないようだが、言い分を受け入れ、煮え切らない表情でそれ以上の声を引っ込めた。片手で頭をガシガシ掻き回し、気分を紛らわせて精神の安定を図っている。

 少し、助け舟を出そう。


「カヌア王妃に渡した媚薬は私の血から作ってあります。同じく空気感染仕様ですから王城は無事でしょう」

「無事…………無事? アレを無事って言えんのか?」

「無事ですよ。私の媚薬は所詮媚薬。し終われば効果が抜けます。対して、シムカの媚毒はまさに毒です。命が尽きるまで性欲が収まりません」

「確か、カロステンでは腹上死と衰弱死が結構な数出ていた筈だ。誰彼構わず、子供まで犯し犯されの性交地獄。治療が間に合っても一年後には出産の嵐で、産婆達に皆で謝りに行ったな……」

「テメェら、滅茶苦茶過ぎんだろ…………」


 引き気味の口調に混じり、少しだけ安堵の息を感じ取る。

 幾分気分が楽になったらしく、窪んだ小川を越える際にかなりの距離を余計に跳んでいた。有情な気質が感じ取れ、彼に対する好感が徐々に確実に増していく。

 向こうがどう考えているかはさておき。


「見えた」


 白い城壁が見え始め、手前の街並みから幾本も煙が上がっているのが見える。

 本数はそれほど多くなく、殆どは白い煙だ。生活の営みとして上がる色で、戦火で見られる黒い煙は一つとしてない。

 まだ、それほど感染は広がっていない。


「間に合ったっ!」


 思わず歓喜の表情を面に出し、私は力強く踏み込んだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「おにぃちゃ~ん、やっとつかまえたよぉ~?」

「ボク? お姉さん、ちょっと赤ちゃん欲しいんだけど、協力してくれるよね~?」

「ズボンが邪魔だな。ミリィ、短剣貸して」

「自分のでやりなさいよ。それと、ちゃんと私の分も残しておいて」

「や、やだぁあっ! だれか、ァア――ッ!」


 今まさに始まった路地裏逆レイプ現場に遭遇し、私はどうしようかと少し迷う。

 前世の北欧に似た石造りの街並みから漏れる艶声は、シムカの毒がまだ軽くしか回っていない事を示唆している。捕獲からの速攻挿入、獣が唸る様な喘ぎと絶頂の雄叫び、体液と体液と媚毒が混ざった甘ったるい匂い、どれも一つも見られない。

 あの少女が想いを遂げるまでくらい、待っても良いんじゃないか?

 ただ、私が送った媚薬の匂いもしない為、判断が難しい。

 王城の城門が氷の壁で固く閉ざされている所を見ると、媚薬は城内にしか出回っていないようだ。城下に回っていれば毒の感染拡大を抑え込む要素になるのに、それがないとなると――――


「しなずち様、さっさとやれ」

「うぅ~ん……あの二人が終わってからじゃダメ?」

「正気に戻った後、気まずい雰囲気から男を見せるまでが見たい」

「わかった。すぐやる。ヴァテアは終わった後に全住民に魔力感知をかけて。私の血を全員に投与するから、漏れが無ければ私の魔力が住民分感じ取れる」

「了解。任せろ」


 シムナとの価値観の共有に満足し、私は不定形に移行して一気に身体を膨張させた。

 通りという通り、隙間という隙間、家屋の内外を問わず、王都の全体を侵して侵して侵し尽くす。

 一階、二階、三階、地下、どこにいても関係ない。狭かろうが細かろうが入れる穴には全て入り、営みの中にある全てを捕えて丸ごと呑み込む。無理矢理口を開かせて無理矢理注ぎ、悲鳴や絶叫が身を震わせた。


「?」


 途中、三つの小さな抵抗に遭った。

 若く瑞々しい麗しの果実が一房三粒。剣に槍に魔術にと三位一体の連携を見せ、数と規模の暴力で乱暴に取り込んでも逃れようと足掻いている。

 仕方なく大量の媚薬を投与して大人しくさせ、男の匂いがしないからちょっとばかりの味見を少し。鍛え研がれた女魔剣士の身体は締まって締まり、ナカの具合もキツキツで、上と前と後ろをいっぱいにいっぱいに注いで満たす。

 勇王にばれると拙いから、事が終わったら自分の足で合流してもらおう。遅効性で巫女になるよう身体に仕込んでおいて、撫ぜて突いてまた注いでっと……。


「しなずち様? 何か余計な事してないか?」


 女の勘か、シムナが暗く湿った瞳を向け、何か仕出かしたかとヴァテアと勇王が私を睨む。

 慌てると悟られてしまう為、平静を装って触手で現場の方角を指し示す。その先にある物を理解したのか、勇王は感心したように表情を緩めた。


『少し抵抗にあってる。制圧してるけど、少し時間がかかりそう』

「アイツらの店か。退役した見習い騎士達が魔狩人向けの武具屋をやってる。鍛えれば英雄になれた連中だから、少しは手を焼くだろ」

『少しどころか普通に焼いてるよ。ちょっと地面貰うから。ヴァテア、千七百メートル先の十メートル程度が私になるから、魔力探知したら多めに出るよ』


 ちゃんと断ってから偽装工作を施し始める。

 他の住民よりたっぷりどっぷり注いだ分、あの三人には魔力が多めに出てしまう。ばれない為に同化した地面に沈めて置き、私の魔力で包んでおけばばれないだろう。

 シムナ辺りは気付きかねないけれど、きっと察して合わせてくれる。

 そう思いたい。


「にしても、わかってなければ地獄絵図だよな、これ」


 ヴァテアが呟きに…………そう思えなくもないかと納得する。

 形容するなら、巨大生物の腹の中だ。

 あらゆる住居、あらゆる家屋、あらゆる建物がゲル状の海に浸かり、窓や煙突などから触手がウネウネ這い出ている。逃げようとしたであろう住民達は波打つ粘性の中に沈み、ピクリとも動かず死んでいるようにも見えた。

 普通の感性なら、狂気と表現するに違いない。

 唐突に後ろめたくなって、私は急いで解毒を進めた。ほんの一滴でも血液を投与すれば良いのだから一人一人に時間はかからず、十分程度で王都全体を清め切れた。

 膨れた身体を、じゅるじゅる音を立てながら戻していく。

 もう慣れてしまった少年期の姿に戻ると、次はヴァテアの番だ。目配せして住民全員に残してきた魔力を感知してもらい、漏れがないかを確認する。


「どう?」

「王都の人口は十万超えなんだからすぐわかるかっ。念の為三回チェックするから一時間くれ」

「じゃ、王城で合流しよう。ガルドーン勇王、迷惑料に王妃達から媚薬を抜いても良いけど、どうする?」

「抜いて――――」

『み~つけた~っ』


 勇王の前の空間がパックリ開き、全裸のカヌアが飛び出してきた。

 愛する女性の裸体を晒さないようにか、勇王は彼女をがっしり抱き留める。胸と胸の間から膨らみが零れないベストな距離感。次いで甘くて深いキスを交わして、背後に開いた裂け目から二十本の手にあらゆる部位を掴まれ捕らわれた。

 共犯者を促す瞳で、カヌアが私達を見る。

 何を意図しているのかピンッと理解し、私は二人を裂け目に押し込んだ。閉じ際にピンク色の歓声と艶声が幾つも重なって聞こえ、怨嗟の叫びを尻目に良い仕事をしたと額の汗を拭って払う。

 合流は、五時間後くらいで良いかな?


「ちょっと時間が出来たみたいだ、シムナ。この都はシムカの毒が効かないから、三人で一緒にデートしよう」

「了解した。エスコートは私に任せてもらおう。食事、遊び、観光、〆の宿まで良い店を知っている。最後はもちろん、私達姉妹に挟まれてもらうからな?」

「ふふっ、楽しみにしてる」


 私達は手を繋いで、路地の暗がりへと進んで行った。

 どの店も混乱から立ち直るのに少し時間がかかる。ちょっと時間を潰して、それから回ると丁度良さそうだ。


「ところで、しなずち様は四本普通にイケるんだな?」

「えっ?」
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