しなずち ~転生触手妖怪 異世界侵略風味、褐色爆乳女神と現地収穫の巫女衆を添えて~

花祭 真夏

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第56話 シハイノツルギ(下)

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「いくよ、『シハイノツルギ』」


 言霊を解放し、白石屋敷の庭園でシハイノツルギを地面に突き立てる。

 血を流して守り蛇を生み出すのと同じ要領で、支配の力を大地に流す。液体と違って力の流れる速度は速く、都の端まで到達するのに十秒とかからなかった。

 力の上にいるたくさんの命が視える。

 大小異なる死をそれぞれ抱え、アンデッドの襲撃の傷を癒さんと蹲っている。多くはこの白石屋敷に集まって私達の庇護下に入っていたが、応じなかった者達も大勢いて、都の各所で火事場泥棒のような所業を働いていた。

 どちらにも導きが必要だ。

 私は無慈悲に彼らの死を奪い集め、この場にいない者達に振り分けていった。

 死が大きくなり、命の大きさを超えて消えていく。来世への旅立ちを祝うと共に、私達の信徒の死を負ってくれた感謝を向ける。

 ありがとう。生きていてくれて。

 ありがとう。死んでくれて。


『成功ですかな?』


 少し離れた場所で、グレイグが私に問うた。

 彼方を見る視線の先には、奴隷の少女を乱暴している最中に突然死した浮浪者がいた。

 多少距離が離れ、間に多くの建物があって、視界も音も届かない位置だというのに感知出来たのか? 距離はともかく、方向が正確過ぎて少し気になった。

 だが、今はシハイノツルギの制御を優先しないと。


「いえ、まだ残っています。アンジェラ、例の姉妹を連れてきて」

「胸糞悪いけど、坊やの命だ。おいで、アンタ達」


 私達の前に、ラミアの姉妹が連れて来られる。

 レスティのアンデッドから助けたあの姉妹だ。

 二人とも怯えていて、姉の方は私の姿を認めると顔を明るくした。笑顔を見せ、手を振って、助けてもらった礼を大きな声で言っている。

 それに対して、妹は姉が私の元に行かない様、ギュッと抱きしめて押し留めていた。瞳には猜疑の色が浮かんでいて、私を疑い警戒しているようだ。

 片や都合の良い事実を受け入れ、片や隠された真実を察している。

 そんな彼女達が、支配を受けてどうなるのか。

 効果の比較に丁度良い。だからこそ、私はココに戻ってきて真っ先に見つけた彼女達の身柄をアンジェラに確保させていた。

 何か思う所があるらしく、かなり抵抗されはしたが……。


「坊や、軽くで頼むよ。気が済まなければ、私を好きに使ってくれても良い。何をされても抵抗しないから」

「私を信じられない?」

「信じたいよ。でもね、赤の杯から生まれた魔剣なんて激ヤバな代物、使うと言われて『はいそうですか』なんて言えやしないよ」


 不安げな顔を浮かべ、アンジェラが私に異を唱えた。

 口調からして、原因は赤の杯か。

 もしかしたら、アンジェラやリタの怪我の原因なのかもしれない。それが何の罪もない姉妹に試されるとわかり、ここまでに至っている。

 抱き寄せて、抱きしめたい。

 彼女達を苦しめるトラウマを私で上書きし、何でもないと言ってやりたい。私の元で苦しむ必要なんてない。私の元では悦びを感じてくれていれば良い。

 ふと、シハイノツルギから『大丈夫』と意志が伝わる。

 慮ってくれているのか。ありがとう。


「アンジェラ」

「頼むよ、坊や」

「シハイノツルギが、大丈夫って言ってる。大丈夫だよ」


 それだけ言って、私は支配の力を大地に伝えた。

 行うのは、私達に反しようとする意志を廃し、排し、背ける事。反発の意識を逆転させ、私達に親しみと合意を向けさせる。

 姉妹の様子が少し変わった。

 姉の様子は変わらないが、妹が姉から手を離し、私に向かって突進してきた。危ないのでシハイノツルギを体内に収め、伸ばされた尾に体を巻かれて地面に押し付けられる。

 未成熟な膨らみで顔を挟まれ、大きな泣き声を至近距離で聞かされる。

 『怖かった』と。

 『ありがとう』と。

 彼女の素の感情が私を締め付け、私は片手で頭を撫でた。もう大丈夫だから、安心して、これからの生活もちゃんと面倒を見る、怖い事なんてないよ、と。

 妹の豹変に、焦った姉も突進してきた。

 巻かれた上から私を巻いて引き起こし、後頭部に母性の塊が当てられる。張りがあってやや固く、好みの柔らかさからは程遠いが、後ろから持ち上げるのには丁度良さそうだ。


「大丈夫だったろ?」

「別の意味で頭を抱えそうだよ。今夜はその二人にするのかい?」

「レスティ、ユーリカ、アンジェラ、リタの四人だ。特にレスティとリタは、次は別行動だからたっぷりするよ」

「あーあー、わーったよ。全く……心配した私が馬鹿みたいじゃないか」

『其方らの過去を考えれば仕方あるまい。赤の杯で支配された友好国の増援に行き、裏切られて性奴に落とされた主らならの。断っておくが、その時の杯は魔族は関係ないからな? 破壊したのもグアレスじゃし』

「国ごとな。暴風に巻き込まれて死ぬかと思ったよ、あの時は」


 ぶちぶち文句を言うアンジェラの視界外で、グレイグが私に目配せした。

 さりげなく、彼女達のトラウマを教えてくれたのだ。

 これで今夜、最低でも二人の心を癒す事が出来る。残りの二十九人は別に場と時間を設けるとして、この分の礼は後日、改めて感謝の品を届けようと誓う。


「じゃ、そろそろ離して、君達」

「「嫌っ!」」


 また巫女が増えるのか、やったー。
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