しなずち ~転生触手妖怪 異世界侵略風味、褐色爆乳女神と現地収穫の巫女衆を添えて~

花祭 真夏

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第42話 当たり前と在り得ないと妖怪

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 ハイエルフの一団と別れて数時間が経った。

 もう少しでハイエルフの里に着く所まで来て、それまで壮大で美しかった風景が爆発跡で汚され始める。幾つもの大樹が折られ、根から倒され、しっとりとした土色と深緑の絶妙なバランスを台無しにしている。


「やりすぎだろ、ドルトマ」


 幹の中ほどから折れた大樹を跳び越え、もっと先にいるであろう張本人に文句を言った。

 爆破魔術と近接格闘術を組み合わせ、強大な攻撃を間断無く打ち込むのがドルトマの戦法だ。

 接触して爆破。距離を取ると爆破。離れていても爆破。

 距離を選ばず、威力は本人の気分次第。最大威力は城一つを消し飛ばせるほどの規模で、ドラゴンの大軍も彼の前では羽虫同然に扱われる。

 そんなのを、肉体的には人間より恵まれている程度のハイエルフに使ってどうなるのか。

 原型が残る部分があれば、それだけ強力で不十分な防御が出来た強者だったのだろう。

 今の所、一つも見当たらないけど。


「っ!?」


 正面から暴風が吹き荒れ、飛ばされないように触手を伸ばして大樹に掴まる。

 風の強さから、もう数キロ先にいる事がわかる。あともう少しなのに、連続爆破の余波なのか、爆音と暴風が途切れる気配がない。


「地中から行くか」


 大樹の陰に入り、風をやり過ごして地面に降りる。

 目的地までの土を同化すれば、今いる位置から現地までが私になる。

 偵察もできるし、何かあればこっちに戻ってくることも容易い。何より、ドルトマの全力に巻き込まれないのが最高だ。

 勇者と英雄のパーティ相手に共闘した時は、一撃の余波で社が全壊したからな。至近距離でやられるとまた体を失って、今度は序列二位のアシィナの羽衣に移りかねない。

 慎重に行かないと。


「しなずちはしなず池となりてしなず地となりや」


 今回は念の為、半径十キロ内の大地を同化して支配下に収める。

 ドルトマ達の戦場をすっぽり覆う範囲だ。

 地面を叩く足の運び、威力、規模、範囲、全てが知覚の内へと入り、戦場の様子が頭に浮かぶ。全壊した集落と、防御魔術で必死に耐える数名のハイエルフ、里の最奥に置かれた大きな棺を爆破し続けるドルトマとカーマ、その様子を棺の裏で観察するローブに身を包んだ幼い少年。

 本能が、棺と少年に警鐘を鳴らす。

 何故、ドルトマの爆破を受けて平然としていられる?

 爆破魔術の殆どは指向性を持たされている。威力を任意方向のみに限定する事で、拡散する力を集中し、術者保護と攻撃力増大を図る為に。

 にもかかわらず、吹き飛ばされかねない規模の余波がここまで来る。

 一撃がどれほどの衝撃なのかは考えたくもない。だからこそ、それを何十発と受けて端が欠けもしない棺と、その中であくびが出来る少年の余裕は明らかに異常だった。

 私は地面に融け、ドルトマの横に身体を作り直す。

 唐突な登場にハイエルフ達はどよめき、予想していたドルトマは舌打ちを一つ突く。


「もう来たの?」

「やっと来たの間違いだ。状況は?」

「全力で二百発撃ち込んだ。もう魔力がほとんどない」

「それで、アレか?」

「うん、アレ」


 抉れ飛んだ地面となぎ倒された大樹の群れを背後に、漆黒の棺が平然と立っていた。

 おおよそ三メートルといった大きさ以外に、棺からは何も感じない。

 おそらく石造りで、原材料は不明。おどろおどろしい雰囲気も禍々しい感覚も、何かが封じられているような神秘的な力も何もない。

 ただ、そこにあるだけ。

 本当に、神が造っただけあって得体が知れない。


「あれぇ~、もう終わり? もうちょっと頑張ると思ったんだけど、まだまだ練りが足りないんじゃない?」


 棺の裏から、無邪気な笑みを浮かべた少年が顔を出した。

 白と緑を基調としたゆったりしたローブを纏う、聖歌隊にいるような可愛らしい美少年。凛々しさを含むドルトマに対し、少女のようなあどけなさと母性・父性を刺激する子供らしさが同居している。

 この世界に薄い本があれば、間違いなく光を失った目で描かれ、ギグボールを噛まされて緊縛されているに違いない。

 ドルトマが無詠唱で爆破魔術を展開する。

 棺を円形に取り囲み、少年を諸共吹き飛ば――――


「短気は損気、だよ? 四百年経っても変わらないんだから。ま、そこが可愛い所なんだけどねぇ~」

「「っ!?」」


 いつの間に移動したのか、すぐ横で少年はドルトマに説教した。

 私と兄弟のように手を繋いでいて、肌の感触に違和感が一切ない。

 ずっと隣にいたような、ずっと手を握っていたような、在り得ない事を当たり前のように感じている。木漏れ日のように優しい笑顔が恐怖そのものだ。

 私は少年の手を振り払い、視界から逃がさないよう瞬きせず、土の触手で足を縛った。

 距離を取ろうと飛びずさると、手を握る感覚がまた戻ってくる。横を向くとまた少年がいて、捕縛した場所には姿が無い。

 何をしたのか全く分からない。

 ただ、これは魔術ではなく、どちらかというと『私』に近い人外の力だ。


「しなずちから離れろ、琥人!」

「魔力切れ寸前なのに頑張らなくていいよ。それより、僕は彼と話があるんだ。温泉にでも入ってゆっくりしておいで」


 琥人と呼ばれた少年が指を鳴らし、私達と棺以外の姿が消えた。

 知覚できる範囲にはいない。魔力の流動や変動、抜け落ちたような欠落もない。

 ドルトマも逃げ遅れのハイエルフ達も、まるで最初からそこにいなかったかのようだ。


「あ…………」


 誰もいなくなった場が、私の意識を白く染める。

 守りたかった相手がいなくなり、理性の鎧にぽっかりと穴が開いた。

 本能が恐怖を捨て置いて、考える事をやめ、感じる事をやめ、理解する事をやめ、沸騰した血潮を頭に送る。

 形が崩れ、心が閉じ、精神が潰える。私を私に押し込めていた型がなくなり、妖怪の形と心と精神が鎌首をもたげる。


『やっちまえ』


 どこかから、そんな声が聞こえた気がした。
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