しなずち ~転生触手妖怪 異世界侵略風味、褐色爆乳女神と現地収穫の巫女衆を添えて~

花祭 真夏

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第39.5話 何が大事か

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 ダークハイエルフにとって、力とは全てだ。

 何かを求めれば力がいるし、何かを退けるにも力がいる。

 力があれば何でもでき、力が無ければ何もできない。

 そう、教えられてきた。

 でも、それは正しくもあり、正しくはない。

 五大精霊王の一柱である炎帝を下し、カーマを奪った時の事。確かにカーマを手に入れられたが、僕はカーマに触れられなかった。

 炎で出来た身体は触れようとする僕の身体を焼き、彼女の意志に反して僕を拒絶した。

 克炎の呪符で火傷程度に抑える事が出来ても、それが限界。南から来た旅のお調子者が、炎を純粋な魔力に変質させる術を教えてくれたが、それでも完全な解決にはならなかった。

 八方塞がりで、愛と絶望に揉まれていた。

 そんな僕らを救ってくれたのは、本来は敵対すべき、異世界の女神と尖兵だった。

 彼らは僕らの苦痛と苦悩を理解してくれ、手を差し伸べてくれた。炎精という炎の思念体を受肉させる為に、仲間達にも秘密にしていた二人の間の子をくれてまで。


『まだ魂が入っていないから、気にしないでいい』


 女神の言葉に、僕らは終世の崇拝を誓った。

 本来生まれてくる筈の、愛する者との確かな証。

 大事な、大事な、大事で大事で大事な子供を頂いて、その程度しかできない自分が恥ずかしく思えた。

 父親たる彼に、一度だけ打ち明けた事がある。

 僕に出来る事はないのか。

 償えることはないのか。

 本来生まれてくるべき愛する子を奪われて、恨んではいないのか。


『輪廻の輪から来る魂も、もうそこにいる魂も、やってくる場所が違うだけで変わりはない。そんなことより、しっかり幸せにしろよ? ヴィラがカーマを産んだのだから、カーマはヴィラと私の娘になるんだ』


 私は、何も言えなかった。

 彼の優しさが、笑顔が、全てが眩しく辛く苦しい。力さえあれば何でもできると思い生きてきて、何もできない無力が憎い。

 だから、僕は誓った。

 彼らを脅かす全てから彼らを守ると。

 守って見せると。

 この命に代えても。


「――――母様、怒ってたよ?」


 僕の首に後ろから腕を回し、悲しそうにカーマは言った。

 彼女の心情を示すように、その腕は小さく震えている。

 ヴィラ様から向けられた怒りと、これから相手にしなければならない恐怖。その両方に挟まれて、どうしようもなく不安に駆られている。

 そんな彼女に、僕が出来るのは何だ?

 優しい言葉をかける事か?

 自分の不甲斐なさを謝る事か?

 絶望を共に乗り越えようと抱き寄せる事か?

 違う。


「生き残って、謝ろう」

「本気?」

「命はかけるけど、死ぬ気だなんて言ってない。それに、起動前にハイエルフの里を制圧出来れば『アレ』は何とかなる。樹海については、しなずちと相談して何とかしよう」

「……信じる」

「ありがとう」


 カーマの身体が実体を無くし、炎の精霊体となって僕を包んだ。

 赤銀の長い髪が腕を巻き、細い腕が首を巻き、一糸纏わぬ素の姿が外套のように被さり覆う。

 僕は、僕らは、これが為に最強と呼ばれている。

 僕の勇者の力と、彼女の炎精の力。二つが合わさり、爆発的な力を生み出す。

 その威力は勇者三人の同時全力行使と同等と言われていて、今まで一度たりとも破られたことはない。破れそうな奴らは十人くらいいるけれど、その誰もハイエルフの里にはいない。

 一気に行って、一気に終わらせる。

 そうしたら、またみんなで笑いあって、バカをやって、冗談を言い合って日々を過ごそう。


「行こう、カーマ」

『うん、ドルトマ』
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