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第17話 悪い妖怪との契約(下)
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血の剣と魔の剣が触れ、篭められた力と速度から火花が散った。
ほぼ瓜二つな女同士の戦い。
左腕を失った男装の令嬢は苦々しく表情を歪め、血色の羽衣に身を包む令嬢は目に光が無く無表情。
交わされる剣撃は双方に差が無く、食器を乗せたワゴンを蹴り倒したような、例えたくない金属音が辺りに響く。
腕一本のハンディと魔術が使える事は等価のようだった。
剣と体術で押しきれそうに見えて、魔王レスティは魔術による身体能力ブーストをかけている。筋力、速度、正確さでレスティを上回り、片腕を失った重心のズレを無理矢理補っていた。
さて、どうなる事か。
「しなずち様。アレは何だ? 私の苦労を何だと思っている?」
きつい表情を浮かべ、シムナが私に詰め寄った。
獲物を取られた事が気に入らないのではない。内に秘めていた思惑が外れ、隠す気がなくなって開き直って来た。
大方、レスティが消耗していれば、そこに付け込んで私が手籠めにすると思っていたのだろう。おそらく入れ知恵をしたノーラに視線を向けると明後日の方を向き、口笛を吹いてしらばっくれた。
少し考えればわかる事だ。
その気になれば、落ちていたのは腕ではなく首だったはずだ。
防御の甘い相手に致死の一撃を見舞えないほど、シムナの腕は悪くない。つまり、シムナは最初からレスティを殺す気が無かった事になる。
私と同じで。
「シムナ。お前はレスティに生きて欲しいか?」
「もちろんだ。勇者だった頃の私の味方は、姉さんと師匠とレスティだけだった。姉さんと師匠はしなずち様のモノになったんだから、レスティも仲間に入れないとならない」
「なら、彼女を応援してやれ。捨てられた左腕に残った魂は、本体から離れて性質が反転し、生を望んでいる。レスティが勝てば魔王は生き、魔王が勝てばレスティは死ぬ」
「……ん? 何かおかしい気が……んん?」
僅かな違和感にシムナが首を傾げる。
まさかもう気付いたのか?
この契約の大きな穴、私が仕込んだ盛大な嫌がらせに。
「酷いことするわよね。死を望む魔王から生を望む魔王を作って戦わせるなんて。これじゃあ、あの二人のどっちが勝ってもレスティは死んで生き残る。死にたがり魔王の望みは叶うけど、叶った後も生きているって…………対処方法はあるの?」
シムナへの説明も兼ねて、ノーラが私に問いを向けた。
『ああ、そうか』とシムナも納得したようだ。同時に、どう足掻いてもレスティが生き残る事がわかり、私に向けていた不機嫌がすっかり消え去る。
現金なものだ。
しかし、そんなシムナが愛おしく思えた。
大事な人の命を想い、怒れる性質。それは私にとって好意の対象であり、魔王を契約で嵌めた甲斐があったと喜びで心が満ちる。
「私と契約した時点で、対処方法は無くなった。今、レスティの体内の血は私の物だ。その血が残っている限り肉体に不死性が付与され、どんなに傷付けても死なない。加えて、レスティの魂が肉体に引かれて急速復元している。魂の復元が終わった後、全身の血がレスティの血に復元されると魔王レスティの出来上がりだ。そうなったら、肉体と魂を損傷した魔王に勝ち目はない」
「で、復元したレスティはしなずちのモノだからしなずちの配下に入る。万が一魔王レスティが勝てば、契約に従って死を望む思考は解決し、消耗している所を確保できると。出来レースね」
呆れた笑顔で、ノーラはやれやれと手を広げた。
私達がレスティ達の戦いに目を向けると、徐々にレスティの戦闘方法が冴え始めていた。
一太刀一太刀の繋ぎが上手くなり、断続的に響く金属音にシャオンッという受け流す音が増え始める。
手数も増えていく。
剣で流し、懐に入って鳩尾に肘、息を詰まらせた隙にしゃがみつつ首を狙って一閃し、辛うじて間に合った魔剣が血剣を弾く。
すると、レスティは思い切り立ち上がって頭で顎を打ち上げに行った。寸でで躱した魔王はバックステップで距離を取り、失った血のせいで足元をふら付かせる。
剣だけでなく、体術にまで通じているのか。
本来ならこれに魔術も加わり、ショートレンジからミドルレンジを隙なくカバーする。シムナのように魔術も体術も使わせない怒涛の攻めを繰り出さないと、簡単に秒殺されてしまうだろう。
内心、自分が戦わずに済んで安堵する。
私の戦法は基本的にミドルレンジで生きる。
狩り蛇、守り蛇、伸びる血刃など、相手の射程の外から一方的に蹂躙する。しかし、魔術で道を抉じ開けられ、ショートレンジに持ち込まれると未熟な腕では対処しきれない。
いや、出来ない事を前提に不死性なんて身に着けたのだから、対処しようと考えること自体が間違いか。
出来ないを何とかやろうとするのではなく、やらなくて済む方法を考える。自身の生存を第一に考え、臆病と罵られようと安全策を張り続ける。
ヴィラの尖兵は私一人なのだ。
何が相手でも、どんな状況でも、確実に勝って生き残らないと。
「雷よ網となれ、広がれ広がれ広がれ」
「何!?」
レスティが魔術を使い、魔王の表情が驚愕に染まる。
手から雷が網上に広がり、細かく扇状に枝分かれして広がっていく。後方に逃れるとかえって逃げ場がなくなる事から、魔王は地面に魔剣を突き刺して対抗詠唱を始めた。
「汝は雷の捕食者、喰らえ喰らえ喰らえ!」
広がる雷が魔剣に近づくと収束し、急速に吸われていく。
電撃を吸収する避雷針を生み出す魔術だ。
刹那の速度を持つ雷には効果が見込めないと軽視されがちだが、あの魔術相手には効果が大きい。雷を吸い、喰らい、逆にレスティの魔術に干渉して、過剰行使を促して魔力を消耗させていく。
私は羽衣を介して魔術行使をやめるよう操作をかける。
だが、その前にレスティは術を解き、持っていた血剣を魔王に向かって投げつけた。
魔術に集中していた魔王は避けられず、心臓に血剣が突き刺さる。すると剣は幾筋もの触手へと姿を変え、魔王の身体に巻き付いて拘束した。
まさか……いや、早すぎる。
「ふむ、なかなか便利な装備だ。装着者の意志に応じた形を取り、手元を離れても形を変えられるのか。戦闘だけでなく日常的にも便利で使いやすい。ただ、自分自身に剣を突き立てるのは気持ちの良い物ではないな。さっさと魂を調教して主様の色に染め上げるとしよう」
レスティはそう言うと、魔王に歩み寄りながら犬歯で親指を裂き、血を口に含んだ。
ゆったりと近づき、両手で魔王の頬を掴むと口づけを交わす。じっくり唾液と混ぜて送り込んで、喉が鳴ったのを確認してから口を離す。
聞いた事もない、発音自体難しそうな言語で詠唱が始まる。
過程に私の巫女化と通じる物を見て、何をしようとしているのかを何となく察する。チラリと私を見たレスティの微笑みは、自分に任せろという強い自信に満ち溢れていた。
うん、信じるよ。
「――――。告。レスティ・カルング・ブロフフォスは死の渇望を捨てる。我が命は主、しなずち様の為にあると魂に刻み、仕える事を喜びとす」
「わわ、わ我が命は主、しなずち様ののの為にあると魂にき刻みみ、仕えるる事ををよよ喜びとすすす」
「告。レスティ・カルング・ブロフフォスより分かたれた我は、今この瞬間よりラスティ・カルング・ブロフフォスと改名す。我が魂の門出を祝福せよ。我を生み出せし汝の魂を祝福せん」
「わ、わ我、レスティ・カルング・ブロフフォススス、ラ、ラスティ・カルング・ブロフフォスのた、魂を分かちちち、祝福くくせんん」
レスティの魂に干渉して死を捨てさせた後に、自分は完全に分離した存在と認めさせた。
そんな術があるのかと私とノーラは興味が引かれる。
同時に、今更私は正面から魔王と対する愚を再認識する。あんな魂を塗り替えるような術を使われたら、ヴィラとの、シムカやシムナ、ユーリカ達との愛はどうなる? 全てなかった事にされるのではないか? それどころか、殺意に差し替えられたりするのではないか?
ゾッとする恐怖の感覚が、私の背筋を凍らせる。
余程の事が無い限り、あの術は使用禁止にしよう。判断は任せるが、私にも巫女達にも使用させない。そうしなければいけない気がする。
心の内でそう強く決意し、私はレスティ――――いや、ラスティを見つめた。
ラスティもレスティの魂を無事屈服させたようで、クールでありながら温かな笑顔を私に向ける。爽やかで、好意的で、魅力的で、何というか、凄く頭を撫でたくなる。
気付けば、いつの間にかラスティは私の前にあり、私にレスティを押し付けてきた。
私は受け取ると、ラスティの頭を撫でて労をねぎらう。
「主様。レスティの身体と魂を治したら、改めて宣誓させて頂く。そろそろ都市を出るとしよう。シムナ、途中の障害は全て消し飛ばすぞ。そこの娘は主様の護衛だ。主様はレスティを頼む」
自信をもって胸を張り、私達に指示を飛ばすラスティ。
不思議と嫌な感じはなかった。
彼女のカリスマがそうさせるのだろう。魔王として、元領主一族として、類稀れな才覚が私達を動かす。
私はレスティの身体を抱き、命の匂いを感じ取る。
まだラスティが腕一本だった時と変わらない、それ以上の生への渇望が鼓動となって私に響く。
腕が一本無い事が途方もなく不足に思う。
集合地点に着いたらちゃんと治してやろう。そして、ラスティと一緒に巫女に加え入れる。
そうと決まればさっさと行動だ。
私はノーラに背後を任せ、左右を警戒してラスティとシムナに続いた。
巫女となった魔王は心強い。然程の心配も苦労もせず、私達はアギラの都市を力づくで突破した。
ほぼ瓜二つな女同士の戦い。
左腕を失った男装の令嬢は苦々しく表情を歪め、血色の羽衣に身を包む令嬢は目に光が無く無表情。
交わされる剣撃は双方に差が無く、食器を乗せたワゴンを蹴り倒したような、例えたくない金属音が辺りに響く。
腕一本のハンディと魔術が使える事は等価のようだった。
剣と体術で押しきれそうに見えて、魔王レスティは魔術による身体能力ブーストをかけている。筋力、速度、正確さでレスティを上回り、片腕を失った重心のズレを無理矢理補っていた。
さて、どうなる事か。
「しなずち様。アレは何だ? 私の苦労を何だと思っている?」
きつい表情を浮かべ、シムナが私に詰め寄った。
獲物を取られた事が気に入らないのではない。内に秘めていた思惑が外れ、隠す気がなくなって開き直って来た。
大方、レスティが消耗していれば、そこに付け込んで私が手籠めにすると思っていたのだろう。おそらく入れ知恵をしたノーラに視線を向けると明後日の方を向き、口笛を吹いてしらばっくれた。
少し考えればわかる事だ。
その気になれば、落ちていたのは腕ではなく首だったはずだ。
防御の甘い相手に致死の一撃を見舞えないほど、シムナの腕は悪くない。つまり、シムナは最初からレスティを殺す気が無かった事になる。
私と同じで。
「シムナ。お前はレスティに生きて欲しいか?」
「もちろんだ。勇者だった頃の私の味方は、姉さんと師匠とレスティだけだった。姉さんと師匠はしなずち様のモノになったんだから、レスティも仲間に入れないとならない」
「なら、彼女を応援してやれ。捨てられた左腕に残った魂は、本体から離れて性質が反転し、生を望んでいる。レスティが勝てば魔王は生き、魔王が勝てばレスティは死ぬ」
「……ん? 何かおかしい気が……んん?」
僅かな違和感にシムナが首を傾げる。
まさかもう気付いたのか?
この契約の大きな穴、私が仕込んだ盛大な嫌がらせに。
「酷いことするわよね。死を望む魔王から生を望む魔王を作って戦わせるなんて。これじゃあ、あの二人のどっちが勝ってもレスティは死んで生き残る。死にたがり魔王の望みは叶うけど、叶った後も生きているって…………対処方法はあるの?」
シムナへの説明も兼ねて、ノーラが私に問いを向けた。
『ああ、そうか』とシムナも納得したようだ。同時に、どう足掻いてもレスティが生き残る事がわかり、私に向けていた不機嫌がすっかり消え去る。
現金なものだ。
しかし、そんなシムナが愛おしく思えた。
大事な人の命を想い、怒れる性質。それは私にとって好意の対象であり、魔王を契約で嵌めた甲斐があったと喜びで心が満ちる。
「私と契約した時点で、対処方法は無くなった。今、レスティの体内の血は私の物だ。その血が残っている限り肉体に不死性が付与され、どんなに傷付けても死なない。加えて、レスティの魂が肉体に引かれて急速復元している。魂の復元が終わった後、全身の血がレスティの血に復元されると魔王レスティの出来上がりだ。そうなったら、肉体と魂を損傷した魔王に勝ち目はない」
「で、復元したレスティはしなずちのモノだからしなずちの配下に入る。万が一魔王レスティが勝てば、契約に従って死を望む思考は解決し、消耗している所を確保できると。出来レースね」
呆れた笑顔で、ノーラはやれやれと手を広げた。
私達がレスティ達の戦いに目を向けると、徐々にレスティの戦闘方法が冴え始めていた。
一太刀一太刀の繋ぎが上手くなり、断続的に響く金属音にシャオンッという受け流す音が増え始める。
手数も増えていく。
剣で流し、懐に入って鳩尾に肘、息を詰まらせた隙にしゃがみつつ首を狙って一閃し、辛うじて間に合った魔剣が血剣を弾く。
すると、レスティは思い切り立ち上がって頭で顎を打ち上げに行った。寸でで躱した魔王はバックステップで距離を取り、失った血のせいで足元をふら付かせる。
剣だけでなく、体術にまで通じているのか。
本来ならこれに魔術も加わり、ショートレンジからミドルレンジを隙なくカバーする。シムナのように魔術も体術も使わせない怒涛の攻めを繰り出さないと、簡単に秒殺されてしまうだろう。
内心、自分が戦わずに済んで安堵する。
私の戦法は基本的にミドルレンジで生きる。
狩り蛇、守り蛇、伸びる血刃など、相手の射程の外から一方的に蹂躙する。しかし、魔術で道を抉じ開けられ、ショートレンジに持ち込まれると未熟な腕では対処しきれない。
いや、出来ない事を前提に不死性なんて身に着けたのだから、対処しようと考えること自体が間違いか。
出来ないを何とかやろうとするのではなく、やらなくて済む方法を考える。自身の生存を第一に考え、臆病と罵られようと安全策を張り続ける。
ヴィラの尖兵は私一人なのだ。
何が相手でも、どんな状況でも、確実に勝って生き残らないと。
「雷よ網となれ、広がれ広がれ広がれ」
「何!?」
レスティが魔術を使い、魔王の表情が驚愕に染まる。
手から雷が網上に広がり、細かく扇状に枝分かれして広がっていく。後方に逃れるとかえって逃げ場がなくなる事から、魔王は地面に魔剣を突き刺して対抗詠唱を始めた。
「汝は雷の捕食者、喰らえ喰らえ喰らえ!」
広がる雷が魔剣に近づくと収束し、急速に吸われていく。
電撃を吸収する避雷針を生み出す魔術だ。
刹那の速度を持つ雷には効果が見込めないと軽視されがちだが、あの魔術相手には効果が大きい。雷を吸い、喰らい、逆にレスティの魔術に干渉して、過剰行使を促して魔力を消耗させていく。
私は羽衣を介して魔術行使をやめるよう操作をかける。
だが、その前にレスティは術を解き、持っていた血剣を魔王に向かって投げつけた。
魔術に集中していた魔王は避けられず、心臓に血剣が突き刺さる。すると剣は幾筋もの触手へと姿を変え、魔王の身体に巻き付いて拘束した。
まさか……いや、早すぎる。
「ふむ、なかなか便利な装備だ。装着者の意志に応じた形を取り、手元を離れても形を変えられるのか。戦闘だけでなく日常的にも便利で使いやすい。ただ、自分自身に剣を突き立てるのは気持ちの良い物ではないな。さっさと魂を調教して主様の色に染め上げるとしよう」
レスティはそう言うと、魔王に歩み寄りながら犬歯で親指を裂き、血を口に含んだ。
ゆったりと近づき、両手で魔王の頬を掴むと口づけを交わす。じっくり唾液と混ぜて送り込んで、喉が鳴ったのを確認してから口を離す。
聞いた事もない、発音自体難しそうな言語で詠唱が始まる。
過程に私の巫女化と通じる物を見て、何をしようとしているのかを何となく察する。チラリと私を見たレスティの微笑みは、自分に任せろという強い自信に満ち溢れていた。
うん、信じるよ。
「――――。告。レスティ・カルング・ブロフフォスは死の渇望を捨てる。我が命は主、しなずち様の為にあると魂に刻み、仕える事を喜びとす」
「わわ、わ我が命は主、しなずち様ののの為にあると魂にき刻みみ、仕えるる事ををよよ喜びとすすす」
「告。レスティ・カルング・ブロフフォスより分かたれた我は、今この瞬間よりラスティ・カルング・ブロフフォスと改名す。我が魂の門出を祝福せよ。我を生み出せし汝の魂を祝福せん」
「わ、わ我、レスティ・カルング・ブロフフォススス、ラ、ラスティ・カルング・ブロフフォスのた、魂を分かちちち、祝福くくせんん」
レスティの魂に干渉して死を捨てさせた後に、自分は完全に分離した存在と認めさせた。
そんな術があるのかと私とノーラは興味が引かれる。
同時に、今更私は正面から魔王と対する愚を再認識する。あんな魂を塗り替えるような術を使われたら、ヴィラとの、シムカやシムナ、ユーリカ達との愛はどうなる? 全てなかった事にされるのではないか? それどころか、殺意に差し替えられたりするのではないか?
ゾッとする恐怖の感覚が、私の背筋を凍らせる。
余程の事が無い限り、あの術は使用禁止にしよう。判断は任せるが、私にも巫女達にも使用させない。そうしなければいけない気がする。
心の内でそう強く決意し、私はレスティ――――いや、ラスティを見つめた。
ラスティもレスティの魂を無事屈服させたようで、クールでありながら温かな笑顔を私に向ける。爽やかで、好意的で、魅力的で、何というか、凄く頭を撫でたくなる。
気付けば、いつの間にかラスティは私の前にあり、私にレスティを押し付けてきた。
私は受け取ると、ラスティの頭を撫でて労をねぎらう。
「主様。レスティの身体と魂を治したら、改めて宣誓させて頂く。そろそろ都市を出るとしよう。シムナ、途中の障害は全て消し飛ばすぞ。そこの娘は主様の護衛だ。主様はレスティを頼む」
自信をもって胸を張り、私達に指示を飛ばすラスティ。
不思議と嫌な感じはなかった。
彼女のカリスマがそうさせるのだろう。魔王として、元領主一族として、類稀れな才覚が私達を動かす。
私はレスティの身体を抱き、命の匂いを感じ取る。
まだラスティが腕一本だった時と変わらない、それ以上の生への渇望が鼓動となって私に響く。
腕が一本無い事が途方もなく不足に思う。
集合地点に着いたらちゃんと治してやろう。そして、ラスティと一緒に巫女に加え入れる。
そうと決まればさっさと行動だ。
私はノーラに背後を任せ、左右を警戒してラスティとシムナに続いた。
巫女となった魔王は心強い。然程の心配も苦労もせず、私達はアギラの都市を力づくで突破した。
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