しなずち ~転生触手妖怪 異世界侵略風味、褐色爆乳女神と現地収穫の巫女衆を添えて~

花祭 真夏

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第6話 しなずちという妖怪(上)

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 ばくん。

 そんな形容が相応しいと思考し、わけがわからないと理性が拒絶する。

 ヤバックの叫びに、私と隊長は反射的に跳び退いた。ジョンソンも跳んだが、それは鞭のような蛇のような軌道でジョンソンを追い、首筋に噛み付いて捕えていた。

 巨大な蛇――――いや、角がある。

 鱗の形かと思ったが、短い、龍の如き角が二本。頭から後ろ向きに生え、見覚えのある形に戦慄を覚える。

 まさか、蛇龍!?


「ジョンソン!」


 隊長の剣が閃いた。

 ただ抜いただけに見えて、蛇の頭を五回斬りつけている。時間差で切った部分が切断され――かけたが、強力な治癒能力があるのか断たれる前に治ってしまった。

 ゴキュンッという音が鳴る。

 何かを飲み込むような、そんな音。エールをぐびぐび飲むような流し込むものじゃなく、何かを無理矢理吸い出す強引な音だ。

 抵抗していたジョンソンの四肢が力なく垂れる。

 顔からは生気と血の気が引き、死人のように真っ青になっている。脈を取るまでもなく絶命していて、瞳からは生の光が消えていた。


「退け!」


 命に従い、私は階段に向かって駆け出した。

 隊長は霧になってやりすごし、しかし、ヤバックは――――


「ちくしょう、離しやがれ!」


 別の蛇が足に巻き付き、太ももに噛みついていた。

 ジョンソンに気を取られている間に、死角から忍び寄っていたのだろう。ゴキュゴキュと音を響かせ飲み干し、数秒程で顔から赤みが消えて崩れ落ちる。

 次の獲物は私達。

 走っている間に、ドアから更に二匹の頭が出て来ていた。

 一匹は隊長を探しているのか周囲を警戒し、一匹は私を見つけて追ってくる。並みの生物でも魔獣でもここまでの速度は出せず、舌打ちの一つすら吐く暇もない。


「くっそ――!」


 階段前で減速していると追い付かれる。

 私は壁に跳び、三角跳びの要領で階段に向かって飛び込んだ。

 壁に着地できれば良かったが、そううまくはいかなかった。段差の一つに足をついてバランスを崩し、勢いをそのままに一階の床へと無様に転がる。

 だが、おかげで距離が稼げた。

 私はすぐ立ち上がり、正面玄関から外に出る。


「お嬢サン、赤いバラを持っテないいいイイイイイ?」


 自分の目を疑った。さっきの部屋で死んでいた男だ。

 服は血で濡れ、体の至る所から蛇龍の頭が伸び、ジョンソンとヤバックの死体が吊られている。

 異常で、異常な状況と敵だ。

 まず、体が安定していない。

 かろうじて人間の形を留めているだけで、両足は融けて血だまりになっている。腕は二本ずつの蛇龍となって人の指はもうなく、体表からは肌の色が時折抜け落ち、鮮やかな血色とに交互に変わっていた。

 こんな邪悪な魔獣は見たことがない。

 まさかキメラか? 何故こんな奴がソフィアと一緒にいた? 何故ソフィアはコイツを滅しなかった?

 コイツは、一体何者だ?


「ユーリカ」


 漆黒の霧が集まり、人型に変わる。

 数瞬でそれは隊長となり、得物の魔剣を抜いて構えていた。

 細身で風の加護が備わるそれは空気のように軽く、ヴァンパイアの知覚と怪力、スピードと合わさると非常に頼もしい。勇者以外で彼に勝てる者はなく、勇者であっても並み以下であれば十分に狩れる実力を持つ。

 少しだけ安堵し、心が落ち着く。

 反撃に向けての余裕が生まれ、即効性の毒薬と短剣を用意する。効くかはわからないが、今持ち得る最高の毒だ。これ以上のカードは私には無い。


「見捨てないの?」


 臨戦態勢の隊長に、私は怯えを隠して強がってみせる。

 さっきの廊下で、アレが私より速い事はわかっている。私はどうあっても逃げきれず、しかし、ヴァンパイアの隊長は別だ。霧化や蝙蝠化などの能力で移動すれば、追いつかれても捕まらず、十分に逃げ切れるだろう。

 勝ち目でもあるのか?


「陛下から連絡が来た。増援は十分後。全力でアレを仕留めろとの事だっ」


 言い終わると共に、隊長の姿が消えた。

 神速の踏み込みでアレに近づき、目を向けた時には十を超える数を刻んでいる。伸びる蛇龍の根元、人型の首、心臓、肝臓、下半身の付け根に太ももと、全てに斬撃痕が深々と入っている。

 それでも、アレは止まらなかった。

 刻んだ瞬間から治癒が始まり、すぐ元通り。仲間の死体を吊るしていない蛇龍二頭が隊長を襲い、隊長は全身を霧化して回避すると背後に回る。

 心臓と頭が一瞬で爆ぜた。

 あまりに速すぎる連続突きで、直径十センチほどの大穴が開いていた。斬っても治るなら、消し飛ばせば良いという判断だろう。


「「「「赤いバラハ持っテナいイイイイイ?」」」」


 四つの蛇龍の頭が男の声で喋って揺れる。

 本当に何なのだ、この化け物は!?

 私は呪文を詠唱し、持っていた毒薬で投げナイフを作ると投擲した。蛇龍の頭がジョンソンとヤバックの亡骸を盾にするが、そのくらいの想定は済んでいる。続けて唱えた風魔術で軌道を変え、アレの胴体に毒のナイフを突き立てる。

 血液を固めて死に至らせる猛毒だ。

 いくら化け物でも血は通っているだろう?


「「「「ァアアァアアァアアアアアアアアアア――――ッ!」」」」

「ユーリカ、伏せろ!」


 隊長の声に、私は地に伏せた。

 直後、薙ぎ払うように蛇龍の胴体が頭上を過ぎる。見ると、ナイフが突き刺さった箇所を中心に全身が固まり始め、断末魔を上げて苦しみもがいていた。

 適当に選んだ毒だったが、特に効果が高かったようだ。

 身悶えし、固化が広がり、四肢を経て蛇龍の頭までをあっという間に固めてしまう。

 数分後には、あれだけの速度を見せていた蛇身はピクリとも動かなくなった。

 とりあえずの終わりに、ほっと息を吐く。


「よくやったな」


 隊長の労いに気が抜け、全身の力が抜けた。

 その場にへたり込み、見かねた隊長が私に手を差し伸べてくれる。手を掴んで立ち上がると、安堵からの笑みを互いに交わした。


「日頃の行いね。強力な毒の用意は欠かさなかったから」

「私への対策がばれてしまったな?」

「さあ? 何のことかしら?」


 私は笑ってごまかした。

 あの毒は、いつか用済みになって消される時の抵抗手段として用意していた物だ。ヴァンパイアであっても血液は通っていて、少しでも動きを鈍らせられれば上々と考えていた稀少毒。

 認識を改めないと、と思う。

 この毒は強力すぎる。


「今回は見逃そう」


 隊長は嬉しそうな笑みを浮かべてそう言うと、固まり切ったアレに顔を向けた。

 しばらく何も言わず、じっと立って固まっている。多分、陛下と交信して事の仔細を報告しているのだろう。

 魔術で遠距離通信なんて出来ないのに、どうやってやっているのだろう?

 まぁ、良いか。

 とにかく今夜は疲れた。湯浴みの一つでもしてぐっすり眠り、起きてまた湯浴みして温かいご飯を食べたい。

 ジョンソンとヤバックの亡骸も葬って、おそらく部隊は解散だ。他の部隊に入ろうにも、私は反抗心が強すぎると敬遠されているから無理。

 さて、どうしようか?

 南にでも行ってみようか、し、ら――――?


「さすがだな、師匠。しなずち様の『欠片』を倒したのは私以来だ。修行時代より腕を上げているようで嬉しく思う。さて、しなずち様は夜伽の供をご所望だ。どうせ、まだ男に股を開いたこともないんだろう? 犬に噛まれたと思って諦め、恥辱と恍惚の中で孕ませられると良い」


 ――――何でなのよ……。
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