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第一部
第四十三・五話 怒りと悲しみを捨てた者
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進化とは、弱者淘汰の結果に過ぎない。
環境適応から始まり、遺伝的多様性、優性、社会構造による選別、退廃からの再生に単なる運まで幅広い。だがそれは終焉に向かうまでの娯楽であり、神という名の子供がする砂遊びだ。砂でしかない我々は取るに足らず、高次元の傲慢相手に独りよがりの必死を供する。
――――滑稽だ。
日々懸命に生きる者ほど、世界にとって道化なのは。
「教授。残念なお知らせです」
「何かな?」
「カイネスベルク基地が壊滅しました。試作モザイクキマイラの生体反応も消失。細胞片からの増殖再構成は確認できておりません」
「ほぅ? ほぅほぅほぅほぅほぅ? エネイス君、それは残念ではなく素晴らしい知らせだ」
「は?」
振り返り様にズレた片眼鏡をクイッと直し、30代半ばの助手を正面に見据える。
持ってきた報告書を受け取って、各種の遠隔計測結果に心が躍った。
あのモザイクキマイラの元となったダークエルフは、黒王直系に近い分家のエリート。そこに魔力適性の高い魔物を幾つもブレンドし、ハイエルフすら凌ぐ高魔力量高魔力圧を実現した逸品だ。性処理目的の余計を軍に強制されなければ、単体でユーティルス公国を落とすことも出来たろう。
そんな災厄級の化け物を、倒された当時の周辺魔力量はほぼ0。
その後少し時間を置き、魔王級の魔力が空に向かって放出されている。添付の写真には、見事な見事な大魔樹形が映っていた。測定された合計魔力量はモザイクキマイラの10倍以上と、普通に見れば計器の故障を疑うレベル。
しかし、しかし、しかし。
私は知っている。こういう非常識な魔力制御を行う連中を。
「統魔王、黒王直系第1位と第2位はどちらに?」
「統魔王はディルシナに滞在。ウィス・アグニ卿はホルダナル戦線にて未開国家と交戦中。●●●・アスは、この3分後に現場への顕現を確認しました」
「現場? カイネスベルクにかね?」
「はい。その際、超高魔力生命体の存在検出と直後消失が計測されています。軍上層部は、基地壊滅は『あちら側からの干渉』もあり得ると対応を検討中です」
「無いな。彼は世俗を切り離した探求者だ。いくら身内の遺体が材料とはいえ、『あちら側』から出てくるのはリスクが大きい。逆に言えば、リスクを冒してでも回収しなければならなかった何かが、あそこにあった可能性が高い」
「…………調査隊を派遣します」
「大変だろうが、頼むよ」
必要な仕事を選定し、離れる助手の後ろ姿を目で追う。
彼を含めて5人の弟子兼部下を抱え、今後の成長と結果に期待しかない。私という知識集合を礎とし、神を食い破るガラスの破片を世界に作る。1つ1つは小さくとも、集まり増えれば指の先くらい裂いて見せる筈。
――――母国で国境領主をしている、卒業後の1番弟子を思い出す。
孕ませた娘は残念だったが、学会から追放された後も私営の繁殖場で研究継続していると聞く。過剰進化による種の先細り論はなかなか興味を引いた。時には戻ることも必要で、頂きだけを目指すばかりでは高みの高みには至れない、と。
そう。その通りだとも。
「ありとあらゆる全てを積み重ねよ。足りると思うたなら足りぬ者に、足りぬと思うなら足りる者に」
師から受け継ぐ思想を口に、額の傷を指でなぞる。
生命の次元を超えた統魔に対し、我々は我々の矜持を続ける。1人ではなく皆の皆で、知識を技術を学び高みへ。いずれ来る終焉に向け、万人の牛歩で手を取り進む。
私もまた、礎の1つ。
失われし魔術の始祖に至るために。
「…………さて。貴方はどう動くのですかな、オース・アス?」
環境適応から始まり、遺伝的多様性、優性、社会構造による選別、退廃からの再生に単なる運まで幅広い。だがそれは終焉に向かうまでの娯楽であり、神という名の子供がする砂遊びだ。砂でしかない我々は取るに足らず、高次元の傲慢相手に独りよがりの必死を供する。
――――滑稽だ。
日々懸命に生きる者ほど、世界にとって道化なのは。
「教授。残念なお知らせです」
「何かな?」
「カイネスベルク基地が壊滅しました。試作モザイクキマイラの生体反応も消失。細胞片からの増殖再構成は確認できておりません」
「ほぅ? ほぅほぅほぅほぅほぅ? エネイス君、それは残念ではなく素晴らしい知らせだ」
「は?」
振り返り様にズレた片眼鏡をクイッと直し、30代半ばの助手を正面に見据える。
持ってきた報告書を受け取って、各種の遠隔計測結果に心が躍った。
あのモザイクキマイラの元となったダークエルフは、黒王直系に近い分家のエリート。そこに魔力適性の高い魔物を幾つもブレンドし、ハイエルフすら凌ぐ高魔力量高魔力圧を実現した逸品だ。性処理目的の余計を軍に強制されなければ、単体でユーティルス公国を落とすことも出来たろう。
そんな災厄級の化け物を、倒された当時の周辺魔力量はほぼ0。
その後少し時間を置き、魔王級の魔力が空に向かって放出されている。添付の写真には、見事な見事な大魔樹形が映っていた。測定された合計魔力量はモザイクキマイラの10倍以上と、普通に見れば計器の故障を疑うレベル。
しかし、しかし、しかし。
私は知っている。こういう非常識な魔力制御を行う連中を。
「統魔王、黒王直系第1位と第2位はどちらに?」
「統魔王はディルシナに滞在。ウィス・アグニ卿はホルダナル戦線にて未開国家と交戦中。●●●・アスは、この3分後に現場への顕現を確認しました」
「現場? カイネスベルクにかね?」
「はい。その際、超高魔力生命体の存在検出と直後消失が計測されています。軍上層部は、基地壊滅は『あちら側からの干渉』もあり得ると対応を検討中です」
「無いな。彼は世俗を切り離した探求者だ。いくら身内の遺体が材料とはいえ、『あちら側』から出てくるのはリスクが大きい。逆に言えば、リスクを冒してでも回収しなければならなかった何かが、あそこにあった可能性が高い」
「…………調査隊を派遣します」
「大変だろうが、頼むよ」
必要な仕事を選定し、離れる助手の後ろ姿を目で追う。
彼を含めて5人の弟子兼部下を抱え、今後の成長と結果に期待しかない。私という知識集合を礎とし、神を食い破るガラスの破片を世界に作る。1つ1つは小さくとも、集まり増えれば指の先くらい裂いて見せる筈。
――――母国で国境領主をしている、卒業後の1番弟子を思い出す。
孕ませた娘は残念だったが、学会から追放された後も私営の繁殖場で研究継続していると聞く。過剰進化による種の先細り論はなかなか興味を引いた。時には戻ることも必要で、頂きだけを目指すばかりでは高みの高みには至れない、と。
そう。その通りだとも。
「ありとあらゆる全てを積み重ねよ。足りると思うたなら足りぬ者に、足りぬと思うなら足りる者に」
師から受け継ぐ思想を口に、額の傷を指でなぞる。
生命の次元を超えた統魔に対し、我々は我々の矜持を続ける。1人ではなく皆の皆で、知識を技術を学び高みへ。いずれ来る終焉に向け、万人の牛歩で手を取り進む。
私もまた、礎の1つ。
失われし魔術の始祖に至るために。
「…………さて。貴方はどう動くのですかな、オース・アス?」
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