魔なる鼓動を硝煙と ~行き詰まり科学&魔法世界のダークエルフ奮闘記~

花祭 真夏

文字の大きさ
上 下
43 / 45
第一部

第四十二話 狂人の怒り

しおりを挟む
 炎が、氷が、雷が、風圧が、爆音と轟音を連鎖させて基地のあちこちで炸裂し震わせる。

 建物から出た兵達は、各々の役目を果たそうと叫び走った。指揮官である大佐のメモ書き通り、負傷し吹き飛ばされても使命と任務を忘れはしない。攻撃の種類を思考し推測し、位置を割り出そうとひどく躍起だ。

 ――――兵舎のドアを蹴破って開け、僕は堂々と表に出る。


「おいっ! 何をする気だっ!?」

「『魔力伝導抑制術式LA、RA解放』。僕は未熟者だから、統魔使用中は魔術を使えない。代わりを求めて銃を知って…………てめぇらみたいなのをぶっ潰すために修練してきたんだよっ!」

「貴様、なにも――」


 言い切られる前に愛銃のハンドガンを発砲し、飛び散る血飛沫と脳漿を置き去る。

 銃声に気付いた分隊が5つ、十字の通りに離れて即座に動いた。1歩で内の1つに接敵し、空いた左手で平の一閃。厚さ0.05mmの収束魔力流で薙ぎ払われ、背後の建物ごと1mの高さで両断される。

 視線を右へ、次を捕捉。

 飛び掛かりながら別の1分隊へ、緩く射撃し飛び掛かりの両断。


「撃て! 撃てぇえええええええええええええッ!」

「あはぁあああああああああっ!? ハハハハハハハハハッ!」

「なんだコイツッ!? 人外ッ!? 化け物かっ!?」

「第2兵舎前で襲撃者と交戦! 付近の兵は至急援――」

「させんっ!」


 格納ポーチから出した大刀を走らせ、4人の兵を一筆書きに斬り裂くデルサ。

 残りの2隊からアサルトライフルの斉射を受け、彼女は屋内へ僕はそのまま。突き出した両手の前に魔力の渦を作り、直線の飛来に上下左右の力を付与。違わない狙いの弾は大きく逸れて、そこかしこを穿って僕は走る。

 真っ直ぐ真っ直ぐな銃弾を弾く、凶悪な円エネルギーを押し付けて細かく細かくミンチより派手に。


「くそっ! 化け物っ! 化け物っつ゛!」

「いや、アレは統魔だ! 魔力伝導ジャミング――」

「目を離すなっ! 回避しろっ!」


 渦の魔力を長く伸ばし、ノコギリ鞭とした僕の攻撃に裂かれる1人。

 狼狽える1人、冷静な2人、焦ってマガジンを落とした1人は強化魔術からの跳躍で回避した。一方的な奇襲はここまでで、彼らとは真っ向から戦わないとならない。向けられる銃口が3連射を細かく刻んで、しかも4方向だから対処がキツイ。

 ――――なら1方向に纏めれば良い。

 膝を曲げて全力で、僕は15mの垂直跳躍。


「リロード!」

「魔術で追撃しろ! プリセット1!」

「プリセット1!」


 簡単な指の動きと魔力の集中で、兵達は短縮登録魔術を起動し行使する。

 攻撃、防御、応急処置、地形変化。順にプリセット1から4と呼び、各国軍は養成課程で訓練を徹底する。ドミディナでは雷魔術を教えているようで、4本の稲妻が彼らの指先から僕へと伸びた。

 だが、標的の至近で雷は霧散する。

 より強大強圧な魔力流に引かれて吸われて、僕の頭上へ球に集まる。


「ハッハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッツ!」


 落下と共に地面に叩きつけて、世界から一瞬音が消えた。

 自分を中心に土が捲れて大気が波打ち、急減した気圧が戻って真上へと向かう。砂埃と瓦礫が宴を催し、無観客ながら近距離遠距離から大喝采。邪魔な埃の幕を片手で払って、半径50mが綺麗さっぱりすっきり廃墟。

 …………あっ、デルサ。

 相方が無事か唐突に思い出して、魔力を探って影が蠢く。


「何やってんだテメェはっ!?」

「グロウバルンっ! デルサ回収してくれてたんだっ!? ありがとっ!」

「あれだけの魔力衝撃、障壁魔術ごと消し飛ばすつもりかよっ!? 強盗列車の時といい、お前らアウトローってのは仲間への誤爆が普通なのかっ!? 資料を手に入れた後だったから良いもののっ!」

「っていうか、お前が統魔を使うなんて一体どうした? やっても小技程度だったろうに、しかもこれだけの威力……」

「ジャジャもごめんね。で、2人にお願い。デルサを連れて今すぐ帰還して」


 気を失ってジャジャファビの触手に巻かれるデルサの手に、僕は握る愛銃をそっと持たせる。

 憤慨するグロウバルンを1本で制し、どこが目かわからない集合触手人は僕を見つめた。ほんの1秒か2秒かの短い間、熱のない微笑みはどう映るのか? ほぼほぼ親友と言って良い触手は影の主を叩き、背を向いて「行こう」と短く小さく。

 そして、黒に沈み切る際に半目振り返る。


「戻って来いよ?」

「何のことかわからないなぁ~?」

「おい、一体何を――」

「向こうで話す」


 足手纏い達が頭の先までとぷんっと消え、僕は半壊した目当ての建物に身体を向けた。

 溶接封印されていても、壁が崩れれば意味はない。耳を澄ませば声が聞こえ、この程度で終わっていないと教えてくれる。瓦礫の下から吹き飛ばし這い上がり、ソレは何かを求めて姿を晒した。

 カエルの卵のような卵管触手束を尻尾に持ち、

 黒い鱗の強靭な後ろ足と黒獅子の前足に四足の胴、

 頭部には左右に黒山羊の頭が1つずつ、

 中央には美しい褐色美女がケンタウロスの如く銀髪を長く、縦長の瞳孔を夜に合わせて大きく広げる。


「久しぶり。アマル姉」


 未練たらたらの呼び声に彼女は、遺され弄られた肉体で魂の抜けた咆哮を上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...