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第一部
第四十二話 狂人の怒り
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炎が、氷が、雷が、風圧が、爆音と轟音を連鎖させて基地のあちこちで炸裂し震わせる。
建物から出た兵達は、各々の役目を果たそうと叫び走った。指揮官である大佐のメモ書き通り、負傷し吹き飛ばされても使命と任務を忘れはしない。攻撃の種類を思考し推測し、位置を割り出そうとひどく躍起だ。
――――兵舎のドアを蹴破って開け、僕は堂々と表に出る。
「おいっ! 何をする気だっ!?」
「『魔力伝導抑制術式LA、RA解放』。僕は未熟者だから、統魔使用中は魔術を使えない。代わりを求めて銃を知って…………てめぇらみたいなのをぶっ潰すために修練してきたんだよっ!」
「貴様、なにも――」
言い切られる前に愛銃のハンドガンを発砲し、飛び散る血飛沫と脳漿を置き去る。
銃声に気付いた分隊が5つ、十字の通りに離れて即座に動いた。1歩で内の1つに接敵し、空いた左手で平の一閃。厚さ0.05mmの収束魔力流で薙ぎ払われ、背後の建物ごと1mの高さで両断される。
視線を右へ、次を捕捉。
飛び掛かりながら別の1分隊へ、緩く射撃し飛び掛かりの両断。
「撃て! 撃てぇえええええええええええええッ!」
「あはぁあああああああああっ!? ハハハハハハハハハッ!」
「なんだコイツッ!? 人外ッ!? 化け物かっ!?」
「第2兵舎前で襲撃者と交戦! 付近の兵は至急援――」
「させんっ!」
格納ポーチから出した大刀を走らせ、4人の兵を一筆書きに斬り裂くデルサ。
残りの2隊からアサルトライフルの斉射を受け、彼女は屋内へ僕はそのまま。突き出した両手の前に魔力の渦を作り、直線の飛来に上下左右の力を付与。違わない狙いの弾は大きく逸れて、そこかしこを穿って僕は走る。
真っ直ぐ真っ直ぐな銃弾を弾く、凶悪な円エネルギーを押し付けて細かく細かくミンチより派手に。
「くそっ! 化け物っ! 化け物っつ゛!」
「いや、アレは統魔だ! 魔力伝導ジャミング――」
「目を離すなっ! 回避しろっ!」
渦の魔力を長く伸ばし、ノコギリ鞭とした僕の攻撃に裂かれる1人。
狼狽える1人、冷静な2人、焦ってマガジンを落とした1人は強化魔術からの跳躍で回避した。一方的な奇襲はここまでで、彼らとは真っ向から戦わないとならない。向けられる銃口が3連射を細かく刻んで、しかも4方向だから対処がキツイ。
――――なら1方向に纏めれば良い。
膝を曲げて全力で、僕は15mの垂直跳躍。
「リロード!」
「魔術で追撃しろ! プリセット1!」
「プリセット1!」
簡単な指の動きと魔力の集中で、兵達は短縮登録魔術を起動し行使する。
攻撃、防御、応急処置、地形変化。順にプリセット1から4と呼び、各国軍は養成課程で訓練を徹底する。ドミディナでは雷魔術を教えているようで、4本の稲妻が彼らの指先から僕へと伸びた。
だが、標的の至近で雷は霧散する。
より強大強圧な魔力流に引かれて吸われて、僕の頭上へ球に集まる。
「ハッハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッツ!」
落下と共に地面に叩きつけて、世界から一瞬音が消えた。
自分を中心に土が捲れて大気が波打ち、急減した気圧が戻って真上へと向かう。砂埃と瓦礫が宴を催し、無観客ながら近距離遠距離から大喝采。邪魔な埃の幕を片手で払って、半径50mが綺麗さっぱりすっきり廃墟。
…………あっ、デルサ。
相方が無事か唐突に思い出して、魔力を探って影が蠢く。
「何やってんだテメェはっ!?」
「グロウバルンっ! デルサ回収してくれてたんだっ!? ありがとっ!」
「あれだけの魔力衝撃、障壁魔術ごと消し飛ばすつもりかよっ!? 強盗列車の時といい、お前らアウトローってのは仲間への誤爆が普通なのかっ!? 資料を手に入れた後だったから良いもののっ!」
「っていうか、お前が統魔を使うなんて一体どうした? やっても小技程度だったろうに、しかもこれだけの威力……」
「ジャジャもごめんね。で、2人にお願い。デルサを連れて今すぐ帰還して」
気を失ってジャジャファビの触手に巻かれるデルサの手に、僕は握る愛銃をそっと持たせる。
憤慨するグロウバルンを1本で制し、どこが目かわからない集合触手人は僕を見つめた。ほんの1秒か2秒かの短い間、熱のない微笑みはどう映るのか? ほぼほぼ親友と言って良い触手は影の主を叩き、背を向いて「行こう」と短く小さく。
そして、黒に沈み切る際に半目振り返る。
「戻って来いよ?」
「何のことかわからないなぁ~?」
「おい、一体何を――」
「向こうで話す」
足手纏い達が頭の先までとぷんっと消え、僕は半壊した目当ての建物に身体を向けた。
溶接封印されていても、壁が崩れれば意味はない。耳を澄ませば声が聞こえ、この程度で終わっていないと教えてくれる。瓦礫の下から吹き飛ばし這い上がり、ソレは何かを求めて姿を晒した。
カエルの卵のような卵管触手束を尻尾に持ち、
黒い鱗の強靭な後ろ足と黒獅子の前足に四足の胴、
頭部には左右に黒山羊の頭が1つずつ、
中央には美しい褐色美女がケンタウロスの如く銀髪を長く、縦長の瞳孔を夜に合わせて大きく広げる。
「久しぶり。アマル姉」
未練たらたらの呼び声に彼女は、遺され弄られた肉体で魂の抜けた咆哮を上げた。
建物から出た兵達は、各々の役目を果たそうと叫び走った。指揮官である大佐のメモ書き通り、負傷し吹き飛ばされても使命と任務を忘れはしない。攻撃の種類を思考し推測し、位置を割り出そうとひどく躍起だ。
――――兵舎のドアを蹴破って開け、僕は堂々と表に出る。
「おいっ! 何をする気だっ!?」
「『魔力伝導抑制術式LA、RA解放』。僕は未熟者だから、統魔使用中は魔術を使えない。代わりを求めて銃を知って…………てめぇらみたいなのをぶっ潰すために修練してきたんだよっ!」
「貴様、なにも――」
言い切られる前に愛銃のハンドガンを発砲し、飛び散る血飛沫と脳漿を置き去る。
銃声に気付いた分隊が5つ、十字の通りに離れて即座に動いた。1歩で内の1つに接敵し、空いた左手で平の一閃。厚さ0.05mmの収束魔力流で薙ぎ払われ、背後の建物ごと1mの高さで両断される。
視線を右へ、次を捕捉。
飛び掛かりながら別の1分隊へ、緩く射撃し飛び掛かりの両断。
「撃て! 撃てぇえええええええええええええッ!」
「あはぁあああああああああっ!? ハハハハハハハハハッ!」
「なんだコイツッ!? 人外ッ!? 化け物かっ!?」
「第2兵舎前で襲撃者と交戦! 付近の兵は至急援――」
「させんっ!」
格納ポーチから出した大刀を走らせ、4人の兵を一筆書きに斬り裂くデルサ。
残りの2隊からアサルトライフルの斉射を受け、彼女は屋内へ僕はそのまま。突き出した両手の前に魔力の渦を作り、直線の飛来に上下左右の力を付与。違わない狙いの弾は大きく逸れて、そこかしこを穿って僕は走る。
真っ直ぐ真っ直ぐな銃弾を弾く、凶悪な円エネルギーを押し付けて細かく細かくミンチより派手に。
「くそっ! 化け物っ! 化け物っつ゛!」
「いや、アレは統魔だ! 魔力伝導ジャミング――」
「目を離すなっ! 回避しろっ!」
渦の魔力を長く伸ばし、ノコギリ鞭とした僕の攻撃に裂かれる1人。
狼狽える1人、冷静な2人、焦ってマガジンを落とした1人は強化魔術からの跳躍で回避した。一方的な奇襲はここまでで、彼らとは真っ向から戦わないとならない。向けられる銃口が3連射を細かく刻んで、しかも4方向だから対処がキツイ。
――――なら1方向に纏めれば良い。
膝を曲げて全力で、僕は15mの垂直跳躍。
「リロード!」
「魔術で追撃しろ! プリセット1!」
「プリセット1!」
簡単な指の動きと魔力の集中で、兵達は短縮登録魔術を起動し行使する。
攻撃、防御、応急処置、地形変化。順にプリセット1から4と呼び、各国軍は養成課程で訓練を徹底する。ドミディナでは雷魔術を教えているようで、4本の稲妻が彼らの指先から僕へと伸びた。
だが、標的の至近で雷は霧散する。
より強大強圧な魔力流に引かれて吸われて、僕の頭上へ球に集まる。
「ハッハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッツ!」
落下と共に地面に叩きつけて、世界から一瞬音が消えた。
自分を中心に土が捲れて大気が波打ち、急減した気圧が戻って真上へと向かう。砂埃と瓦礫が宴を催し、無観客ながら近距離遠距離から大喝采。邪魔な埃の幕を片手で払って、半径50mが綺麗さっぱりすっきり廃墟。
…………あっ、デルサ。
相方が無事か唐突に思い出して、魔力を探って影が蠢く。
「何やってんだテメェはっ!?」
「グロウバルンっ! デルサ回収してくれてたんだっ!? ありがとっ!」
「あれだけの魔力衝撃、障壁魔術ごと消し飛ばすつもりかよっ!? 強盗列車の時といい、お前らアウトローってのは仲間への誤爆が普通なのかっ!? 資料を手に入れた後だったから良いもののっ!」
「っていうか、お前が統魔を使うなんて一体どうした? やっても小技程度だったろうに、しかもこれだけの威力……」
「ジャジャもごめんね。で、2人にお願い。デルサを連れて今すぐ帰還して」
気を失ってジャジャファビの触手に巻かれるデルサの手に、僕は握る愛銃をそっと持たせる。
憤慨するグロウバルンを1本で制し、どこが目かわからない集合触手人は僕を見つめた。ほんの1秒か2秒かの短い間、熱のない微笑みはどう映るのか? ほぼほぼ親友と言って良い触手は影の主を叩き、背を向いて「行こう」と短く小さく。
そして、黒に沈み切る際に半目振り返る。
「戻って来いよ?」
「何のことかわからないなぁ~?」
「おい、一体何を――」
「向こうで話す」
足手纏い達が頭の先までとぷんっと消え、僕は半壊した目当ての建物に身体を向けた。
溶接封印されていても、壁が崩れれば意味はない。耳を澄ませば声が聞こえ、この程度で終わっていないと教えてくれる。瓦礫の下から吹き飛ばし這い上がり、ソレは何かを求めて姿を晒した。
カエルの卵のような卵管触手束を尻尾に持ち、
黒い鱗の強靭な後ろ足と黒獅子の前足に四足の胴、
頭部には左右に黒山羊の頭が1つずつ、
中央には美しい褐色美女がケンタウロスの如く銀髪を長く、縦長の瞳孔を夜に合わせて大きく広げる。
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