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第一部
第四十話 全力調査
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「か――グ――……」
なりふり構わず見張りを1人、また1人と孤立した所をナイフで一突き。
主に心臓を平に刺して、肋骨の隙間に刃を通す。血の飛び散りを防ぐためにすぐには抜かず、拘束して事切れてロッカーなどに入れてから回収した。3階フロアと2階廊下までを制圧しきり、残りは各部屋に1階・地下の何階か。
確実に慎重に迅速に、焦らずしかし全力を尽くす。
「なにを焦ってる?」
「…………最初に始末した2人、化け物で性処理してたって言ってたでしょ?」
「言っていた。それが?」
「人類至上主義者からすると、他種族は『人外』って統一される。『化け物』じゃない。確定ではないけど、雌のモザイクキマイラを性処理用具として兵達が使ってる可能性がある」
「気色悪い話だが、何か問題が? 雄と違って雌なら、1体で産める数は限られる。私達でも十分対処できるだろう?」
「普通ならね。でも、猫や兎の遺伝子を使っていると話が違う」
つけている仮面の左を撫で、視覚の左半分を熱感知に変更する。
階下までは覗けないものの、2階フロアの人員配置を事細かに一望した。深夜ということもあり、居残りはどうやらいないようだ。1つドアを開けて中をチラ見し、椅子しかない拷問室とわかってすぐ次へ次へ次へ。
――――1番奥から1つ手前。
マヌガス・クゥエル大佐の表札から、ドアノブにわずかに魔力を流す。
「チッ、遠隔通知魔術。デルサ、壁越しでも部屋の中、何かわからない?」
「無理だな。で、話の続きは?」
「猫や兎は、繁殖の際に必ず排卵して受精する生態を持つ。一定期間内だと、別の雄の種もまとめて、ね。コレをモザイクキマイラに組み込んでいたら、兵の性処理をした分だけ戦力を増やせる。産まれるのを雌だけに限定すれば、個体数の管理もしやすく軍としても大助かりだ」
「…………何を恐れているのかはわかった。だが、1つ腑に落ちん。貴様、何故そんなにモザイクキマイラの生態と運用について詳しい?」
「2年かけて講義された。僕の兄貴分の片方にね」
場合によっては頼らざるを得ない、厄介な身内の笑顔が浮かぶ。
奴隷をやめて自分の力で生きるなら、技だけでなく知識も必要と教鞭を取った異端思考者。これまで僕を生かした知恵は、彼の元で学んだ50年を礎とする。あの日々がなければ僕の力で、ドラゴンはおろかデルサも飛行戦車も倒せなかったろう。
『分野が違えど知識は生きる。時にそれは起死回生の一手ともなる』
だから常に思考を続けろ。思考した分だけ知識は深まり、広げた分だけ力となる。魔法も科学もそれ以外も全て、強欲の限り脳に詰め込め。
ことあるごとに繰り返された言葉を思い返し、僕はポーチから出した大紙を壁に貼った。
「強行策で行く。静かに、素早く、2人でこの紙に突っ込む」
「なんだ、コレは?」
「一瞬だけ、空間をドアみたいに開く『戸破り紙』。隠密性を重視してて、効果時間が凄く短い。走るんじゃなく、ステップで行くよ?」
「なら、こうした方が良い」
「へ?」
デルサは僕の脇下に手を通し、抱き上げ抱きしめ軽く跳んだ。
接触した紙はくしゃりと窪んで、次の瞬間には2人の身体と諸共向こうへ。音立てずふわふわ落ちる真っ白は見えず、『ふわんっ』と『たっぷんっ』が目の前というか顔にいっぱい。舐めたくなる衝動を必死に抑えて、何事もなかったかのように振る舞い降りる。
――――感心したような小馬鹿にするような、意地悪な『ふん?』が微笑を向けた。
「ほぅ……?」
「期待してた分は帰ってから。急いで漁るよ?」
「了解した。私は棚を、そちらは机を」
音を立てず分かれて歩み、開きや引き出しを片端から探る。
直近の報告書、兵からの陳情書、未処理の稟議書にメモがいくつか。
隅から隅まで読んでいる暇はない。視線を文字の上でざっと流し、気になる単語を見つけたら前後の文のみ速読した。根こそぎ持ち帰ってから精査しても良いが、止まらない焦燥感が無駄な作業を僕に強制する。
そして、見つけてしまった陳情書とメモ付きの付箋。
『補給の輸送列車全壊により、兵達の性的欲求発散に支障が出ております。つきましては近隣の町を夜間強襲し、備品を接収する非常時訓練実施を検討願います』
『性処理の件は、K教授より預かっている実験体を部隊ローテーションで回すよう指示。優れた兵に犯させるよう要望があったが、我が部隊は皆優秀だ。生理的嫌悪を示す者には、優先的に第1次補給の揺り籠を使わせる』
「あった。単語は略称だけど、別プロジェクトでも回してない限り当たりのはずだ」
「重要物資の搬入記録も見つかったぞ。3ヶ月前、国家研究院より大型コンテナが1つ運び込まれてる。添付の資料は…………なんだこれは? 女の写真?」
「見せ――――ッ!?」
机に置かれてピラッと捲った、一枚の写真に左半身が粟立った。
無気力な表情の銀髪褐色。年の頃は人間でいえば23程度で、実年齢は237歳。80年前ぶりに見た姿はあの頃よりも女性的に育ち、上品なパーティで白のドレスが似合う美女で才女。
…………目の前で犯され殺され連れていかれ、行方知れずとなった僕の初恋。
「アマル、姉……ッ」
無力な自分を昨日のように思い出し、僕は関連書類を全て回収した。
なりふり構わず見張りを1人、また1人と孤立した所をナイフで一突き。
主に心臓を平に刺して、肋骨の隙間に刃を通す。血の飛び散りを防ぐためにすぐには抜かず、拘束して事切れてロッカーなどに入れてから回収した。3階フロアと2階廊下までを制圧しきり、残りは各部屋に1階・地下の何階か。
確実に慎重に迅速に、焦らずしかし全力を尽くす。
「なにを焦ってる?」
「…………最初に始末した2人、化け物で性処理してたって言ってたでしょ?」
「言っていた。それが?」
「人類至上主義者からすると、他種族は『人外』って統一される。『化け物』じゃない。確定ではないけど、雌のモザイクキマイラを性処理用具として兵達が使ってる可能性がある」
「気色悪い話だが、何か問題が? 雄と違って雌なら、1体で産める数は限られる。私達でも十分対処できるだろう?」
「普通ならね。でも、猫や兎の遺伝子を使っていると話が違う」
つけている仮面の左を撫で、視覚の左半分を熱感知に変更する。
階下までは覗けないものの、2階フロアの人員配置を事細かに一望した。深夜ということもあり、居残りはどうやらいないようだ。1つドアを開けて中をチラ見し、椅子しかない拷問室とわかってすぐ次へ次へ次へ。
――――1番奥から1つ手前。
マヌガス・クゥエル大佐の表札から、ドアノブにわずかに魔力を流す。
「チッ、遠隔通知魔術。デルサ、壁越しでも部屋の中、何かわからない?」
「無理だな。で、話の続きは?」
「猫や兎は、繁殖の際に必ず排卵して受精する生態を持つ。一定期間内だと、別の雄の種もまとめて、ね。コレをモザイクキマイラに組み込んでいたら、兵の性処理をした分だけ戦力を増やせる。産まれるのを雌だけに限定すれば、個体数の管理もしやすく軍としても大助かりだ」
「…………何を恐れているのかはわかった。だが、1つ腑に落ちん。貴様、何故そんなにモザイクキマイラの生態と運用について詳しい?」
「2年かけて講義された。僕の兄貴分の片方にね」
場合によっては頼らざるを得ない、厄介な身内の笑顔が浮かぶ。
奴隷をやめて自分の力で生きるなら、技だけでなく知識も必要と教鞭を取った異端思考者。これまで僕を生かした知恵は、彼の元で学んだ50年を礎とする。あの日々がなければ僕の力で、ドラゴンはおろかデルサも飛行戦車も倒せなかったろう。
『分野が違えど知識は生きる。時にそれは起死回生の一手ともなる』
だから常に思考を続けろ。思考した分だけ知識は深まり、広げた分だけ力となる。魔法も科学もそれ以外も全て、強欲の限り脳に詰め込め。
ことあるごとに繰り返された言葉を思い返し、僕はポーチから出した大紙を壁に貼った。
「強行策で行く。静かに、素早く、2人でこの紙に突っ込む」
「なんだ、コレは?」
「一瞬だけ、空間をドアみたいに開く『戸破り紙』。隠密性を重視してて、効果時間が凄く短い。走るんじゃなく、ステップで行くよ?」
「なら、こうした方が良い」
「へ?」
デルサは僕の脇下に手を通し、抱き上げ抱きしめ軽く跳んだ。
接触した紙はくしゃりと窪んで、次の瞬間には2人の身体と諸共向こうへ。音立てずふわふわ落ちる真っ白は見えず、『ふわんっ』と『たっぷんっ』が目の前というか顔にいっぱい。舐めたくなる衝動を必死に抑えて、何事もなかったかのように振る舞い降りる。
――――感心したような小馬鹿にするような、意地悪な『ふん?』が微笑を向けた。
「ほぅ……?」
「期待してた分は帰ってから。急いで漁るよ?」
「了解した。私は棚を、そちらは机を」
音を立てず分かれて歩み、開きや引き出しを片端から探る。
直近の報告書、兵からの陳情書、未処理の稟議書にメモがいくつか。
隅から隅まで読んでいる暇はない。視線を文字の上でざっと流し、気になる単語を見つけたら前後の文のみ速読した。根こそぎ持ち帰ってから精査しても良いが、止まらない焦燥感が無駄な作業を僕に強制する。
そして、見つけてしまった陳情書とメモ付きの付箋。
『補給の輸送列車全壊により、兵達の性的欲求発散に支障が出ております。つきましては近隣の町を夜間強襲し、備品を接収する非常時訓練実施を検討願います』
『性処理の件は、K教授より預かっている実験体を部隊ローテーションで回すよう指示。優れた兵に犯させるよう要望があったが、我が部隊は皆優秀だ。生理的嫌悪を示す者には、優先的に第1次補給の揺り籠を使わせる』
「あった。単語は略称だけど、別プロジェクトでも回してない限り当たりのはずだ」
「重要物資の搬入記録も見つかったぞ。3ヶ月前、国家研究院より大型コンテナが1つ運び込まれてる。添付の資料は…………なんだこれは? 女の写真?」
「見せ――――ッ!?」
机に置かれてピラッと捲った、一枚の写真に左半身が粟立った。
無気力な表情の銀髪褐色。年の頃は人間でいえば23程度で、実年齢は237歳。80年前ぶりに見た姿はあの頃よりも女性的に育ち、上品なパーティで白のドレスが似合う美女で才女。
…………目の前で犯され殺され連れていかれ、行方知れずとなった僕の初恋。
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