上 下
40 / 45
第一部

第三十九話 全力潜入

しおりを挟む
「正規軍のサポートなしに潜入か。俺にとってはいつものことだが、アンタらは大丈夫なのか?」


 自分の影から魔力遮断コートを取り出し、着込みながら僕達に対してグロウバルンが率直に訊いてくる。

 声色に侮りはなく、嘲りもなく、単に能力的な足手纏いとならないかを問うている。彼と同じコートを着込みつつ、僕、バルサ、ジャジャファビの3名は軽く頷いた。身を隠す茂みの向こう20kmでスポットライトが伸び、夜空に浮かぶ雲をくすんだ白色で照らしている。

 確認は済んで仮面をはめて、フードを被れば準備完了。


「それじゃ、最終確認だ。俺とジャジャファビ殿は施設内の研究施設、サムアとデルサ嬢は軍施設内の資料を漁る。潜入と脱出は別々。もし問題が発生したら即逃亡、出来なければ派手に暴れて合流し蹴散らす」

「デルサ。潜入中、最優先は自分の命だよ? 僕達のことは気にしないで。援護に気を取られるくらいなら、事態の対処を真っ先に」

「わかっているっ。むしろ、貴様だけ失敗して死ねば清々するというものだっ。私の助けは期待するなっ」

「本当に大丈夫かよ? 始終魔術が潜入向きって言っても、お転婆な気の質は事故の元だぞ?」

「僕が煽らなければ、デルサは冷静に行動できる。信じて」

「無駄話はここまでだ。気を張れ。集中しろ。思考と五感を離して判断を下せ。行くぞ」


 グロウバルンは地面に指付き、左下、右上、真下の3画を素早く書いた。

 月明りで出来た影がスッと広がり、ジャジャファビと共に漆黒の中へ。影の大きさが戻ると気配も魔力もなくなって、きっと適当な出口を探している。置いて行かれないよう僕も空見て、スポットライトの軌道を目で追った。

 照らす雲の範囲はやや広め。

 光の収束を下げ気味に、高空ではなく低空の監視を密にしている。


「僕達も行くよ。手を握って」

「……勘違いするな」

「その思考は1手無駄。繰り返すけど、これは危険な潜入任務だ。僕はこれから一切の遊びを捨てる。デルサも今すぐ捨てて。でないと、オルサの所に飛ばして単独侵入するよ?」

「っ…………わかった。生存を優先、目標の捜索と奪取に集中する」

「良い子」


 キュッと握り合って短く伝え、グロウバルンと同じ3画を僕も描く。

 指鳴らしとは別に登録した転移魔術の短縮行使。フッと隠れていた林から基地の上空まで移り、下方を見て1番高さのある監視塔の上へもう1度。重力が仕事をするより早く一連を完了させ、屋根への着地は欠片ほどの音も立てない。

 機械操作のスポットライトの裏へ、手を離して2人で隠れる。


「何故監視塔……」

「目は手を見れる。手は目を見れない。ココは誰もが『見る場所』と認識してるから、よほどの捻くれ以外は視界にも入れないよ。――――同じ様に頭を探す。鍛冶と建設の知識からして、重要な資料を置きそうな建物はどこ?」

「そうだな…………2時方向3階建てと、11時方向2階建て。基地中央寄りで、土台と建材が特に丈夫……いや、3階建ての方が濃厚か? 2階建ては窓を溶接して開けなくしてあるから、『隠したい物』を保管したく思う」

「モノがモノだし、さすがに軍側の資料とは分けてるよね……? 3階建ての方、中に誰かいる?」

「いない。可視光、赤外線、どちらも私の目には映っていない。レーザータイプの動体監視装置、監視カメラも見える限り無い」


 憶測を交えず断定的に、デルサは見たものを言葉で伝える。

 僕達のような2眼以上の目で見えない、幅広い波長を見分けられるサイクロプスの大きな単眼。過剰に発達したピント合わせの筋肉もあって、かなりの距離を手元と同じに精細に見通す。種族的な強みを疑う必要はなく、手を差し出して無言で取り合う。

 転移を起動し、目標の3階室内へ。

 窓から見える位置だからか、置かれた机には備え付けの単眼望遠鏡が2つだけ。


(方角的にユーティルス側を見通せる。戦況確認用?)

『ん? おい、何か聞こえなかったか?』

「――――――」


 壁の向こう、ドアの向こう、約7m離れた場所から男達の声が聞こえた。

 想定『内』の事態に、僕達は息を細く小さく微かに。気配を絶ってデルサは机の裏、僕は部屋の隅にそっと横たわる。夜の陰影の濃い闇に身を隠し、開き入ってきた2人組を無感情の瞳で覗き見た。

 新兵を過ぎて数年経って、慣れてきた辺りの男性兵士達。

 室内警備にはやや長い、銃剣付きアサルトライフルをスリングベルトで背負っている。


「もしかしてネズミか?」

「だとしたら、大佐に言って罠魔術を張らせてもらおうぜ。俺、あと1匹でアレを抱けるんだっ」

「化け物なんかに突っ込んで、変に感染したって知らねぇぞ? くっそ…………揺り籠が届いてれば、あんなわけわからねぇ代物を抱かなくて済むってのに……っ」

「顔と乳と穴があって、使えるなら俺は何でも良いぜ。お前こそよく死体なんて抱けるよな? 喘いだり尻振ったり触手絡ませてきたり、生きてる方が楽しいぞ?」

「たまに未妊娠の聖女サマが混じってて、神聖な胎に俺の子を仕込めると思うとたまらねぇんだよっ。任期が終わったらバトリテの風俗街行こうぜっ。俺のお気に入りを教えてやるよっ」


 大して調べもせず、巡回の兵達はドアを閉めて話しながら去る。

 遠くなっていく足音で距離を測りつつ、下の話に含まれていた化け物に冷や汗。

 ――――『雄型』でなく『雌型』? しかも話の感じから複数ではなく単一個体。更に更に兵達の性処理に使われているとなれば、もしかしたらもしかしたら期間とタイプによってすごくヤバイ。

 例えば、猫。

 あの生物種に繁殖形態が似通っていれば、調査なんて言っていられなくなる。


(やばい、やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいっ!)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

憧れの童顔巨乳家庭教師といちゃいちゃラブラブにセックスするのは最高に気持ちいい

suna
恋愛
僕の家庭教師は完璧なひとだ。 かわいいと美しいだったらかわいい寄り。 美女か美少女だったら美少女寄り。 明るく元気と知的で真面目だったら後者。 お嬢様という言葉が彼女以上に似合う人間を僕はこれまて見たことがないような女性。 そのうえ、服の上からでもわかる圧倒的な巨乳。 そんな憧れの家庭教師・・・遠野栞といちゃいちゃラブラブにセックスをするだけの話。 ヒロインは丁寧語・敬語、年上家庭教師、お嬢様、ドMなどの属性・要素があります。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

彼女の母は蜜の味

緋山悠希
恋愛
ある日、彼女の深雪からお母さんを買い物に連れて行ってあげて欲しいと頼まれる。密かに綺麗なお母さんとの2人の時間に期待を抱きながら「別にいいよ」と優しい彼氏を演じる健二。そんな健二に待っていたのは大人の女性の洗礼だった…

完結【R―18】様々な情事 短編集

秋刀魚妹子
恋愛
 本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。  タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。  好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。  基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。  同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。  ※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。  ※ 更新は不定期です。  それでは、楽しんで頂けたら幸いです。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

処理中です...