魔なる鼓動を硝煙と ~行き詰まり科学&魔法世界のダークエルフ奮闘記~

花祭 真夏

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第一部

第三十四話 求めるのは勝ちと勝ち

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「いやいや、ごっそさんなぁ。なりはちっさくてアッチは肩書通り。まさかうちが引き分けに持ち込まれるなんて、思うてもおらんかったわ」

「不敬ですよ、閣下。それと、ちゃんとドレスを着てください」


 シャワー後のぷる青肌をバスローブの内に隠し、応接のソファーに腰掛ける自由爛漫女サイクロプス。

 非公式ながら部下であるグロウバルンは、バツの悪い顔で影の中からドレスを出した。漆黒等級のアラクネ糸を用い、オリハルコンプレートで各所を守る戦闘礼装。ハイエルフの戦装束と性能は同等の、ディルシナ魔王国が誇る最高級対魔法装束。

 しかし、持ち主たる彼女はそっと押しのけ、見えそうなギリギリ脚上げと脚組みを見せつける。


「お久っ。元気にしとった、ユルウェル嬢? 5年前の国境会議以来やったっけ?」

「相変わらずのデカ乳ですね、オルサ様っ。それでっ? 現樹王の夫に盛大に働いた不敬、どう落とし前をつけてくださるんですかっ?」

「妹2人を手籠めにされとるんや、このくらいは勘弁しぃ。それにぃ…………黒王の血統なら、魔王国の方が合うんちゃう? 魔王様と統魔王、魔王城内でバーベキューやって揃って怒られる仲やし」

「始祖様は縛るのも縛られるのも嫌いだから、引き込もうなんて考えないよ。僕の居場所は僕が決める。今は可愛い奥さんと従者達に囲まれて、脅かす敵がいないか探ってるところ」

「うちは味方や。個人的に、な?」

「この色欲狂い」


 対面に抱き合って座る僕達を熱い熱い目で見つめ、垂らしたよだれを谷間に流していやらしく鳴らす淫乱大臣。

 時間にして30分にも満たなかったが、身体の相性は確かに抜群だった。

 肉体関係をダシに何を要求されるかわからなければ、並んで横に座りイチャイチャしながら会談していた筈。座って下乳と膝の間が殆どなく、前を閉められず上から下まで割れた肉丘。2m超えの身長から内容量質量も半端でなくて、無理に罵ってやっと平静を保てるくらい。

 しかも、ヴィナの可愛らしさとデルサの凛々しさと、両方に加えて雌の妖しさ色香芳香。

 未亡人と知るからこそ、モノにしたくてたまらない。


「っと、世間話はこの辺にしよか。ディルシナ魔王国『前』防衛大臣オルサ・ヴェス・エンディグレル・ウェルシーナ。この度大臣の職を辞し、貴国の駐留大使として赴任を命じられましたんの。今後もよろしゅうに」

「第21代樹王ユルウェル・ティワレシーナ、並びに黒王代理サムア・ディアリ、オルサ殿を歓迎致します。他国の軍事侵攻を抑えられ、現時点まで国境線に変化は見られません。国民の代表として、感謝申し上げます」

「まだ終わっとらんけどね。情報行っとる?」

「ドミディナ、ですか……」


 ユルウェルは腰の収納ポーチに手をやって、大きめの封筒を1つ取り出した。

 紐で巻いて閉じる封を開け、中から出された20枚の書類。文書、地図、写真に作戦図とグロウバルンを経由し提供された機密資料だ。内容の舞台は聖ヒュンエル樹王国すぐ傍で、群れの大狼が隠密移動をしている様。

 ――――ドミディナ共和国非公式戦闘人狼部隊『秩序の牙』。

 ドミディナの独善的な秩序に従い、他国を荒らす厄介者達。


「まさか国一番の精鋭を送り込まれるとは…………ユーティルス公国との戦争が流れた影響ですか?」

「それもあるんやけど、一番の理由はオリハルコンや。積まれとった戦線行きの輸送列車が襲撃受けて全滅、ほぼ直後にブラックマーケットでインゴット売り出し、ヒュンエルに流れてクーデターと来た。襲撃自体ヒュンエルの工作とも疑われとる。弱っとる間に調べて叩いて、取り戻したいってのが腹やないん?」

「陰謀屋の改悪シナリオです。結果的に入手となりましたが、ドミディナがオリハルコンを所有していることは当時初耳でした。とはいえ、説明しても聞く耳持たないでしょうから、オイタが過ぎるなら相応の対処が必要でしょう」

「うん、そこで提案。ユーティルスにドミディナを併合させたいんよ」

「…………」


 この女は一体何を言っているのか?

 僕とユルウェルは引きつる頬を無表情で抑え、互いの顔を書類で隠す。オルサに見えないよう互いに顔を合わせ、一致する感情を確認した。あとはわざと聞こえるようにひそひそぼそぼそ、声量絞ってしっかりはっきり。


「天秤から見ていかがですか?」

「『回避』は『利益』にならないから、対価次第だね。僕達が何を得られるのか。それに、人狼部隊相手だとうちの戦力は相性が悪いよ」

「ドラゴン1体相手の方が大分マシな案件です。一体何を頂けるんでしょうか? 新設する鍛冶工房と精錬所用に設備や物資が欲しいですね……」

「はいはいはい、欲張り共黙らんかいっ。友好同盟国でもないと禁輸措置の緩和はできんのよっ。これはその1歩目と思いぃっ」

「とはいえ、再編成中の国軍で人狼はほんとにきついよ。種族的な相性も悪い。公式な対応は難しいね」


 茶番をやめて書類を下げ、見栄も打算も偽りも無く事実に基づき現実を提示。

 人狼は、あくまでひとくくりの総称に過ぎない。

 人と狼、どちらの血が濃いかで種族特性が全然違う。例えば、人の血が濃いと一見して人間で、満月等の条件で狼としての血が目覚める。対して狼の血が濃いと狼人の姿が通常となり、特定の手段や条件の下で人に近付くか大狼にもなれる。

 さながら、常に再利用可能な爆弾を抱えた諜報員。

 大衆に紛れられると発見は困難、一度変身すれば確かな脅威。

 ――――そして、最大の問題。人狼は孤高ではなく、『常に群れで行動する』。


「まぁ、そう言われる思うて、色々案は持って来とる。急がなくても早めに相談させてや」

「そうは言っても、俊敏な怪力はエルフ族系の天敵…………ん?」

「いかがなさいました、旦那様?」


 心配そうに見つめる瞳に、僕はふと小さな違和感。

 今、僕の立ち位置はなんだ? 立場はなんだ? 地位とか名誉とか栄誉とかなにそれ?

 豪華な城に住んで甲斐甲斐しく世話を焼かれ、忘れかけたソレに気づく。僕は王様なんてガラじゃない。根っからのアウトローで、6万トルエの札を下げた現役バリバリ賞金首だ。

 なら、頼るのは表じゃない。

 裏と契約とギブアンドテイク。


「ねぇ、ディルシナはホワイトドラゴンの素材を現金化できる?」
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