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第一部

第三十二話 それでそのあとどうしたの?

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「いたたたたたたたたっ、痛いイタいいたいってっ!」

「良い感じです、ヴィナ。出来るだけ痛みを強めに、傷を悪化させないギリギリを攻めてください。いくらサムア様がマスターと言えど、オイタが過ぎる時は思い知らせる必要があります。あぁ、避妊なしの夜伽は別ですよ? 孕みたくなければ、注がれた分を全て魔力に変換してください」

「は、はい、オルドラさん……」


 飛行クルーズ船の自室にて、丁寧で無礼なアンデッド従者達が湿布と包帯を僕に貼り巻いていく。

 樹王と最側近と飼いドラゴンが倒されて、士気も戦力もがた落ちした聖ヒュンエル樹王国。ユルウェルと合流したブディランスが首都を落とし、主要都市の8割方も掌握が完了。ほぼほぼクーデターは成功し、迎えに来てくれた彼女達は僕を捕まえ治療を施す。

 ――――実の所、処置が必要なくらい負傷している

 20mmアンチマテリアルライフル『デイガス‐20AM』は、強化魔術の使用を前提とした『非』常人用個人兵装。30kgを超える重量に、内臓破裂と粉砕骨折必至の凶悪な反動。最低限の身体防御魔術のみで運用すれば、こうなることは当然であり予想すら要らない。

 とはいえ、仕方がない必要経費。

 傷ついたドラゴンは超の付く特大危険物だ。速やかに処理できないと、想定外の事故死も高確率であり得た。

 …………僕だけでなく、彼女達も。


「いくらなんでも無茶しすぎよ、この馬鹿ッ。聖樹都に転移して時間を稼ぐ手もあったでしょ?」

「ごめんってば、アルマリアっ。久々の大物に舞い上がってたのは認めるってっ」

「……なに? ドラゴン狩り、初めてじゃないの?」

「兄貴分の1人について、7匹は狩ったよ。で、みんな無事? デルサも怪我とかしてない?」

「私は基本待機だったからな…………まぁ、今回はよくやった、と、思う。後は皆に任せて、私達に世話を焼かれろ……」


 やや潤みと熱を宿す単眼を露骨に逸らし、長身爆乳の女サイクロプスは腕を組んで乳房を上げた。

 頬の紅潮もあって艶っぽく、普段の敵視反抗が嘘のよう。ヴィナとアルマリアも首を傾げ、変貌ぶりに疑いを向けた。対してオルドラは気にせず医療キットを片付けて、瓜二つの妹と並びデルサを挟む。

 左右から両腕を掴まれがっしり、双角ナイトメアダークエルフに目の前まで連行されてくる。


「き、貴様らっ、なにをするっ!?」

「デルサは鍛冶師というより武人の色が強いようで。竜狩りを見せつけられて、女が疼いて仕方ないのですよね?」

「より強い種で孕みたいのは女戦士の性ですから…………サムア様。今夜は彼女をお使いください。きっと『ココ』でお待ちですよ、きっと」

「やっ、やめっ! そんなことっ! そんなこと――っ!」

「そういえば、エンディグレルは都市防衛隊と繋がるくらいの武闘派だったっけ。でもごめんね、デルサ。今回は本当にかなりきつい。触れられるだけで激痛走って、しばらくは安静にしないといけないみたい」

「ッ!? そ、そう、なの、か…………っ、いや、別にどうということはないからなっ!? 何もないっ、なにも無いんだっ!」


 素直になれない狼狽える彼女は、泣いて喚いて必死に必死に弁解を重ねた。

 眺めるクスクス笑いが3つ、苦笑いが1つ。対して、1番に親身な姉は諦めに近いジト目で溜息。腰に手を当て前かがみになって、カップ数が妹より後の超乳を腕の組みでたぷんと大きく。

 姉妹喧嘩なら、ちゃんとフォローしよう。


「デルサっ、オルサ姉様を思い出して?」

「お、おるさ、姉様、を……?」

「そうっ。竜狩りに出てた魔貴族様に加勢して、見初められて貰われていった先で今は未亡人の姉様よっ。グロウバルンさんに訊いた近況は爛れすぎて恥ずかしいものだったっ。マスターはどうせ危険に首突っ込んで早死にするんだから、もっと長生きして幸せにしてくれる男性こそ捕まえてモノにする強かさを持つのっ」

「なんか従者としてあり得ない言い草だけど、正しくはあるね。オルドラ、レイレイン、2人の仲裁と教育をよろしく。僕はユルウェルの様子を見てきてから休むよ」

「あっ、私は付き添うわ。おんぶがいい? それとも抱っこ?」

「これくらいなら自分で歩けるって。じゃ、よろしくね」

「「承知しました」」


 女の強さを鍛えて磨けと、力説するヴィナの声を背後に外へ。

 一歩の度に脇腹から上半身全体が痛み、ふらついて咄嗟に窓枠へ手を着く。外は地平線水平線ならぬ樹平線で、聖樹の葉海が空と境界。実に良い眺めと心が洗われるようであり、なぜ樹王の傲慢を払えなかったのか軽い失望と小さな嘆息。

 ――――万年を超える栄華の傍ら、積もった傲慢は焦げ鍋よりしつこいのか。

 5千年に届かなかった自分達の最後を、もしかしたら幸いだったのではと微かに微かに。100年寿命のアルマリアが寄り添って、重なる肌が尊く温かい。無駄な長きより充実した短さこそ、本来あるべき姿なのかもしれない。

 まぁ、認めようとは思わないけれども。

 長く楽しく気持ち良くは、僕にとって最大の1番。潰えるその時まで満喫し切り、悔いを残さず潔く逝きたい。だから今をこそ思いきり存分に、懸命に生きて余さず受け入れる。

 無様な理性なんてくそくらえ。

 震える本能で毎日を歩こう。


「そうだ、ユルウェルから伝言。ディルシナの使節団が1週間後に来るから、それまでに国内を平定する。そんで、サムアのことも当てにしてるって」

「…………治癒ポーションの在庫ないぃ……?」


 唐突に増した激痛に膝着き、僕は堪え切れず涙を流した。
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