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第一部

第二十八話 私も昔話をしましょう

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 生物の進化、繁殖、遺伝――――それらの研究をする上で、通らなければならない1つが生殖活動。

 先達からの指導と称して、身に刻まれて宿してしまった過ちの形。故に父親はあって夫はなく、色恋は身体と離れてしまった。産んで育てて共に暮らしても、欠けた愛が小骨のように刺さって痛い。

 ――――だから、あの娘が恋人を連れてきて、すごく安心した。

 あげられなかった不足分を、代わりに満たしてくれる新しい支え。例え混血だろうと、奴隷の血だろうと、自分と違って正しい夫婦に親になれる。羨ましいと妬みすらして、あの日あの時に幻へ消えた。

 正しい夫婦。

 正しい親。

 そんなものはどこにもない。結局雄と雌があって、ヤって産まれれば子が増え続く。気持ち良くて形が好みで、もう1つか2つ理由がつけば私はもう誰でも良い。

 …………そうして見つけた、気持ち良くて可愛くて高貴な血筋の聡い共犯者。


「そんなの、力尽くでモノにしないと嘘でしょう?」

「そういうこと……警戒して損したっ! デキちゃっても良い快楽主義者なんて、同族とほとんど変わらないよっ。それなら今後ともよろしく。ヴィナ達の躾も手伝ってくれる?」

「1人産ませればコロッと堕ちますよ、彼女達は」

『聞こえてますよっ!? デルサ、アルマリアさん、ユルウェル様は要注意ですっ! 2人っきりになったら身の危険っ! マスターに乱入されてなし崩しに犯されますっ!』


 進軍途中の町で供された浮遊車に乗り、別働のヴィナ達と通信しながら表向き夫婦のセフレと握手。

 愛なんて初恋が目の前で犯し殺され、性の暴力に晒され続けてどこかに行ったか消え失せた。好きを捨てて気楽に付き合い、所有し合える同志は歓迎。背負わされていた重みを脱ぎ去って、フルスロットルで樹王城を目指す。

 厚い枝葉の天井にチラリ、チラリ巨大樹の一面が覗く。


『戦争中なのに下の話なんて余裕ね? 国軍のエリート部隊がアンタ達を追ってるわよ? こっちは国境を突破したところだけど、飛行クルーズ船そっちに飛ばす?』

「何かあればそっちに移るよ、アルマリア。劣勢な戦場を見つけたら砲撃支援してあげて。時限透過魔術弾もバンバン使って良いよ」

『エア・スマッシュ弾? 効果時間設定苦手なのよね…………って、うまく使える連中がいるじゃないっ。オルドラちゃん、そこの戦場に向かって! ヴィナちゃんは砲撃照準、デルサは敵の転移侵入警戒!』

『了解です』

『了解よ』


 アルマリアの指揮の下、飛行遊撃隊として奮闘する僕の女達。

 面倒に巻き込まれた時用に国外へ逃がしていたが、結局飛行クルーズ船に乗って応援に来てもらっていた。装備の質はレジスタンスが上だが、純血のハイエルフと混血では魔法戦闘力に差が大きい。純血の平均魔力量を10とすれば、ハーフは4でクォーターは2以下。

 戦術級、戦略級攻撃魔術の使い手も多い。

 伊達に黒王国の十倍以上、国として在り続けているわけではない。


『ジ――ジジ――』

「! 通信チャンネル割り出された! レイレイン、暗号指定T-7に変更! 次回通信で同期、ランダム周波数へ移行!」

『かしこまりました。アルマリア様、私は通信室へ籠りますので良しなに』

『了解っ――――右舷回頭30度! 高度――』


 プツンッと通信ラインが切断されたのを確認し、別の周波数へ変えて発信した後『殴って壊す』。

 敵の盗聴技術は高く、頭も回るからランダム周波数でも傍受・特定はすぐ。ならフェイントをかけてチャンネル変更と見せかけて、全く別の通信方法へと変えて対応を取らせない。なまじ優秀だと躍起になって追いかけて、前提が変わったことに気づかないのだ。

 指を鳴らして後部座席へ、指を向けてもう一度鳴らす。

 歪んだ空間から青色の手が腕が、ニュッと伸びて全身がこちらへ。


「あら、どなた?」

「初めまして、ユルウェル様。私、サムア様の第2死霊奴隷レイレインと申します。種族はナイトメアとダークエルフのハーフです。以後、お見知りおきを」

「ご丁寧にどうも。聖ヒュンエル樹王国国境領主、ユルウェル・ティワレシーナです。――――立派なお胸ね?」

「それほどでもあります」


 右目を瞑って座席に座り、膝に両手を置いて頭を60度下げたら前がつっかえる巻き角の令嬢。

 男を誘惑する透け透けひらひらのネグリジェと、黒のガーターに淫靡な下着。覆われていても隙間だらけの生地は豊満な雌を隠しきれず、縦横に大きな乳房が腹部から腿まで乗って歪んだ。まるでスレンダーな新入りに見せつけるようで、青筋の笑顔と勝ち誇りの笑みが火花を散らす。

 カップ数は測っていないが、まぁ持ちえない側は妬ましい限りだろう。

 …………いつもは前へ後ろへ垂れ流している黒髪を、肩の向こうへやってわかりやすくしているのは嫉妬か何かか?


「レイレイン、『置いてきた?』」

「はい」

「? 置いてきた、とは?」

「私の右目は生前失われ、夢魔術仕込みの義眼を普段入れています。それを姉のオルドラの物と交換することで、左目の視界を互いに見られるのです。ただ、義眼の視界に重なると面倒な為、失礼ですが右目を常時閉じさせて頂いております」

「で、彼女達が代わりの通信機。夢魔術の視覚共有は、同じ魔術でないと探知できない。いくらハイエルフでも、ナイトメア同士の魔術共感なんて傍受できないでしょ」

「あぁ……悔しいけど、その通りね。第一、夢魔術なんてマイナーすぎて習得すらしないかも?」

「なんですか、身体で勝てないから種族卑下ですか? 所詮傲慢高慢種族ですね、えぇ」

「貴女とはゆっくりオハナシする必要がありそうね。クーデターが終わったら覚悟なさい」


 直近で勃発した女の戦いに、僕は急ハンドルで割り込んでついでの爆発を軽く避ける。

 周囲の木々を垣間見ると、追手が大勢上へ下へ。盗聴だけでなく位置割り出しまで行い、直近の部隊を差し向けたのか。旗印が単独突出してれば当たり前の対応で、20足らずの数に一息失望。

 感じ取った魔力総量は、ユルウェルとほぼ同等。

 僕を計算に入れてないのは、余裕か油断か計算か?


「2人共、喧嘩も勝負も戦闘の後だよ?」


 ――――気に入らないけど、こっちは余裕も油断も容赦も無いよ?
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